さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第6回は翻訳者の田口俊樹さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

 翻訳者は、作家の通訳であり、作品と読者をつなぐ大切な架け橋だ。今回、お話をうかがったのはその第一人者、田口俊樹さん。ミステリー文学を訳させたら、この人の右に出るものはいない。

「人間ってモノに興味がある人と、コトに興味がある人がいると思わない? 概念として重なる部分もあるとは思うけど、大抵はどちらかに分かれるような気がしていて、僕は圧倒的に後者。モノには極端に興味や関心がなく、おまけに執着心もないから、たとえ高級なものを食べたとしてもすぐに忘れちゃうんです。もっとモノを知っていたら物知りになれたのになぁ」と苦笑い。

 しかし、裏を返せばコトには興味津々だということ。「僕は“形のないコト”に惹かれる傾向にあるようで、もう幼少期からそうだった気がする。世界名作全集を読むのが楽しみでしかたなかったし、中学時代は早熟な友人から教わったイアン・フレミングの『007』や、エド・マクベインの『87分署』シリーズなどの警察小説に没頭してね。あとは、面白そうな気がしてニーチェやハイデガーの哲学書にも手を出したなぁ。高校生になると、三島由紀夫や安部公房などの、いわゆる純文学にどっぷり浸かって……。今、エンタテインメント小説の翻訳をしているのは、ぐるっと回って原点に戻ったのかもしれませんね(笑)」と、翻訳者としての現在に連なるルーツを語る田口さん。

「今は検索すれば答えがすぐに見つかる時代だけど、以前はなかなかそうはいかなかった。当時読みふけっていた海外の小説に登場するおやつには、想像力をかきたてられるものが多くてね。30年以上も前、高校で教員をしていた頃は、交換留学生として海外に行く学生に『作品に登場するお菓子がどんなものか、実際に見てきて欲しい』と頼んだこともあった。自分でも“フィグニュートン(アメリカのホームメイドスイーツで、いちじくを練りこんだ焼き菓子)”がいったいどんなものかを知りたくて、NYを旅したときに探して食べてみたりもしました」

画像: 田口さんにとって長年のナゾ「Honeyed melon」。はちみつがけのメロンなのか、はたまた…?

田口さんにとって長年のナゾ「Honeyed melon」。はちみつがけのメロンなのか、はたまた…?

 しかしいまだに解明できないものもあるそうで、そのひとつが“Honeyed melon”なるもの。「子どもの頃、おぼろげながら“ハチミツがけのメロン”、という文言を翻訳本で読んだ記憶があって。『メロンにハチミツをかけちゃうのか!』と感心する一方で、『甘いメロンにハチミツまでかけるのか?』と疑問にも思ったんです。成長して、海外の食事に詳しい友人に問うても聞いたことがないと言うし、もしかしたら、はちみつ化した――要するに熟した状態のメロンを指しているのでは? と思うようになった。でも、映画『男はつらいよ』の第一作で寅さんの妹・さくらがお見合いするシーンで、ホテルのボーイがメロンに甘そうな何かをかけるシーンを見て『これか!?』と思ったり(笑)。Honeyed melon、それは何なのか? いまだ僕にとっては謎なんです」

 

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