BY KIMIKO ANZAI
白い花やレモンの香りがふわり。繊細な酸味とピュアな果実味に、たちまち魅了された。栗山朋子さんの「シャントレーヴ ブルゴーニュ シャルドネ」を飲みながら、日本人女性が造るブルゴーニュワインのレベルの高さに、同じ日本人として誇らしい気持ちになった。
「シャントレーヴ」は、フランス・ブルゴーニュ地方コート・ド・ボーヌ地区サヴィニー・レ・ボーヌに2010年に設立された醸造所だ。オーナーは栗山朋子さんと夫のギヨーム・ボット氏。彼は、通常サヴィニー・レ・ボーヌの老舗「ドメーヌ・シモン・ビーズ」の醸造責任者として働いていることもあり、現在、実質的なワイン造りは栗山さんが行っている。
驚くのは、そのエレガントな味わいだ。「ブルゴーニュ シャルドネ」とは、ブルゴーニュ地方のシャルドネだけで造られる、地区名や村名を名乗れない、いわばカジュアルライン。だが、栗山さんが造る「シャントレーヴ ブルゴーニュ シャルドネ」からは、格上の村名ワインに引けを取らない造りのよさが伝わって来る。
栗山さんは、ドイツのガイゼンハイム大学で醸造学と栽培学を学び、ラインガウにあるアルテンキルヒ醸造所で醸造責任者として活躍していたが、ボット氏と出会ったことで人生が一変した。彼との新しい人生をスタートさせるために、2005年6月、ブルゴーニュに移り住んだのだった。
その後ふたりは、2010年に念願の醸造所を設立。ネゴシアン・ヴィニフィカトールとしてスタートを切った。ネゴシアン・ヴィニフィカトールとは、ブドウや果汁を購入し、醸造を行う生産者のこと。実は、ブルゴーニュにおいては、古くからワイン造りの中心を担っていた職業形態だ。栗山さんは栽培農家へも足繁く通い、ブドウの収穫時期を見極めるなど、細やかなワイン造りを行っている。ピュアで、自然な味わいを目指しているため、ブドウはビオディナミ、またはビオロジックの農家から仕入れているという。
ブルゴーニュ地方では、家族経営の老舗のドメーヌが多く、畑も代々引き継がれることが一般的。時に、相続の問題で畑を手放すドメーヌもあるが、そういった畑は仮に売りに出されたとしても、かなりの高額であることが多い。栗山さんのように、新しく参画する造り手にとっては、「畑を持つこと」は大きな夢でもあるのだ。
だが、2018年に、その“大きな夢”が叶った。オート・コート・ド・ボーヌに0.17ヘクタールの畑を購入したのだ。ボット氏の地元での信頼と栗山さんの熱意の賜物だった。ここには、樹齢100年を超えるアリゴテの樹があり、ビオディナミで栽培しているという。そこから生まれる「シャントレーヴ ブルゴーニュ アリゴテ」は限りなく優しく、エレガント。
「アリゴテは、ちょっと自信作です(笑)。ブドウの病気を防ぐために、化学薬品を使わず、スキムミルクなどを撒いたりしていますが、自然な栽培を心がけることで、ブドウ本来のエネルギーが大きくなる。その生命力を最大限に生かしたいと思っています」と笑顔を見せる。昨年には4ヘクタールの畑を取得し、ふたりのワイン造りへの夢は、ますます広がりを見せている。
現在、栗山さんが造るワインのラインナップは、実に豊富。オークセー・デュレスやニュイ・サン・ジョルジュといった村名ワインも多く手がける。彼女が造るワインで一貫しているのは透明感のある美しさで、それは前述のシャルドネとアリゴテといったカジュアルラインにも貫かれている。ちなみに、同じくカジュアルラインの「シャントレーヴ ブルゴーニュ ピノ・ノワール」は、大きな影響力を持つ英国のワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソンが注目し、彼女のウェブサイトにも取り上げられたほど。
栗山さんは言う。
「ブドウ本来の味が感じられ、飲み疲れない『自分たちが飲みたいと思うワイン』を造りたいと思っています。ワインは生活を豊かにしてくれるもの。多くの人が私たちのワインを飲んで、幸福感を感じてくれたらうれしいですね」。
「シャントレーヴ」のワインには品の良さが感じられるが、それは、栗山さん自身のたたずまいが反映されているからなのだろう。日本女性の繊細さと優しさ、そして知性が感じられるワインは、これから世界中の人々を魅了するに違いない。
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