シャンパーニュは人と自然が織りなす奇跡の飲み物。2020年11月に登場予定の新ヴィンテージを、いち早く醸造最高責任者とともに試飲した。その誕生の物語とは?

BY KIMIKO ANZAI

「ドン ペリニヨン」醸造最高責任者のヴァンサン・シャプロンからメールが届いたのは6月末のこと。新ヴィンテージ「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2010」がようやく仕上がったという知らせだった。そこには、ヴァンサンとともにオンラインで試飲するという幸福なインビテーションがあった。

画像: 新ヴィンテージ「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2010」 開封した瞬間、豊かな香りに圧倒される。白い花、ストーンフルーツ、スパイスなど、まるで“香りのタペストリー”のよう

新ヴィンテージ「ドン ペリニヨン ヴィンテージ 2010」
開封した瞬間、豊かな香りに圧倒される。白い花、ストーンフルーツ、スパイスなど、まるで“香りのタペストリー”のよう

 テイスティングは6月29日、日本時間午後5時に始まった。ドン ペリニヨンのセラーがあるフランス・エペルネは午前10時。「グッド イブニング!」とこちらの時間に合わせて挨拶するヴァンサンは、日々の充実ぶりを窺わせる、穏やかな笑顔を浮かべていた。彼がドン ペリニヨン醸造最高責任者に就任したのは昨年1月のこと。2005年にドン ペリニヨンのチームに参加して以来、前任者リシャール・ジェフロワにもっとも近いところで研鑽を積み、早くから次期醸造最高責任者に目されていた。

画像: VINCENT CHAPERON(ヴァンサン・シャプロン) ドン ペリニヨン醸造最高責任者。コンゴで生まれ、ボルドーで育つ。1999年に母体である「モエ・エ・シャンドン」に入社、2005年より「ドン ペリニヨン」に参加。2019年1月より現職

VINCENT CHAPERON(ヴァンサン・シャプロン)
ドン ペリニヨン醸造最高責任者。コンゴで生まれ、ボルドーで育つ。1999年に母体である「モエ・エ・シャンドン」に入社、2005年より「ドン ペリニヨン」に参加。2019年1月より現職

 昨年はリシャールとともに仕込んだ記念すべき2008年ヴィンテージを発表、世界のワイン業界で話題をさらった。そして、今年リリース予定の2010年ヴィンテージは、彼にとっては特別な思い入れのあるヴィンテージになったという。その理由を、ヴァンサンは静かに語り始めた。

「2010年は、シャンパーニュにおいては“忘れられた年”でした。天候に恵まれず、2010年ヴィンテージを造らないメゾンは多かった。ですが、私たちはあえてその難題に挑戦しました。これは、大きなチャンスでもあると感じたのです。結果として、『ドン ペリニヨン』は、“毎年、その年を表現するメゾンである”ということを証明することができた。今、とても誇らしく思っています」。

 天候は、シャンパーニュの味わいに大きな影響を与える。ブドウの生育状況によって、ブドウの糖度や酸度が変わってくるからだ。どこの畑のブドウをどう選んで、どう使うか。シャンパーニュ造りにおいては、そこが醸造最高責任者の腕の見せどころとなる。

画像: 醸造チームは、毎日畑に出てブドウの生育状態をチェック

醸造チームは、毎日畑に出てブドウの生育状態をチェック

 ヴァンサンが語る2010年の天候はこうだ。“1月から5月までの冬は寒く、春は冷涼な気候だった”。彼は、ここに例年との違いを読み取った。シャンパーニュ地方はフランス北限のワイン産地で、もともと冷涼な地域だ。だからこそ、あまりの寒さに冬は瓶の中で眠っていた酵母が春先に瓶内で二次発酵を始め、泡立つ酒・シャンパーニュができたという成り立ちがある。ところが、地球温暖化が年々進んだことで、近年はシャンパーニュ地方でもブドウが早く熟しすぎるという問題を抱えていた。

「ここ10数年、この地方でも温暖な気候が続いていましたが、2010年は“以前の冷涼な気候に戻っている”と感じました。ブドウにとって、冬の寒さは重要な意味を持ちます。ブドウの木は、この寒さによって自らの生育のサイクルを自覚し、開花への準備をするのです。2010年は、このことがきちんと感じられました」。

 春から夏にかけては太陽にも恵まれた。ブドウは糖分とアロマを“ダイナミックに”備え、成長していったのだ。ヴァンサン曰く、「それは、1995年ヴィンテージによく似ていました」。ブドウは凝縮感に満ち、過去10年においては2002年、03年に次いで“良い年”となったという。

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