“天と地の間に生まれる美しい飲み物”と称されるワイン。よりよきブドウを育み、味わいを究める努力を重ね、日本ワインに新章を開いた4人の女性たちの姿を追う。第三回は、中央葡萄酒、三澤彩奈さんに話を聞いた

BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY YASUYUKI TAKAGI

「聞こえるのは鳥の声と風の音。ここにいると、穏やかな気持ちになれるんです」。山梨県・明野にある三澤農場のブドウ畑で、中央葡萄酒取締役兼栽培醸造責任者の三澤彩奈が言う。まだ認証こそ取っていないが、2016年から有機栽培を実践しているという畑は見渡す限り、よく手入れが行き届いている。

画像: 三澤彩奈(AYANA MISAWA) ボルドー大学に留学、ワインの権威ドゥニ・デュブルデュー教授に師事し、醸造学を修める。その後、南アフリカのステレンボッシュ大学院で学び、帰国。2007年より現職。「ワイン造りは人生をかけて極めていく仕事。“甲州”の可能性を突き詰めたい」。建築家・竹山聖による端正なセラーにて

三澤彩奈(AYANA MISAWA)
ボルドー大学に留学、ワインの権威ドゥニ・デュブルデュー教授に師事し、醸造学を修める。その後、南アフリカのステレンボッシュ大学院で学び、帰国。2007年より現職。「ワイン造りは人生をかけて極めていく仕事。“甲州”の可能性を突き詰めたい」。建築家・竹山聖による端正なセラーにて

 三澤は生まれ故郷が産する“甲州”に深い愛情を抱いている。元来、香りが立たないといわれた品種だが、三澤は試行錯誤を重ね、優雅な味わいを創り出してきた。2014年、権威あるワイン品評会「デキャンタ ワールドワインアワード」において「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」が日本ワイン初の金賞を受賞。“甲州”が世界に認められたのだ。三澤は“日本ワインのホープ”と評されるように。近年ではグローバルなコンクールの審査員を務めたり、シンポジウムに参加することも多くなった。

画像: 日照時間日本一の地にある自社畑

日照時間日本一の地にある自社畑

 だが、コロナ禍によってその日常は変わった。時間を得た三澤は自身の足もとを深く見つめ直した。そして「この地でしか生まれない、自分にしか造れないワインを造ろう」と決意する。その品種はやはり“甲州”。「明野の“甲州”にはキリリとした酸味があるのです。それを生かし、土着酵母を使い、より複雑な味わいのワインを造りたいと思っています」

 一方で、中央葡萄酒は今年、ECモールからの撤退を決めた。販売効率を重視するだけでは、多種多様なワインの魅力は伝えきれない。家飲み需要が増えるなか、ワインの生命である“個性”をお客さまに丁寧に伝えてくれる飲食店も、ワイナリーにとって大切な存在だ。「お世話になっている飲食店を、ささやかながらも、できることで応援したいと思っています」

画像: ワインの質の向上とよい消費を促すことを目的としたワイン業界の女性団体「マグナムクラブ」のアソシエーションにて。目の下に朱色のメイクを施し、“女性に対する暴力撤廃”のメッセージへの賛同を表したもの

ワインの質の向上とよい消費を促すことを目的としたワイン業界の女性団体「マグナムクラブ」のアソシエーションにて。目の下に朱色のメイクを施し、“女性に対する暴力撤廃”のメッセージへの賛同を表したもの

 今、三澤の楽しみは、SNSで世界各地の同業の友人たちと会話をすることだ。家業を継ぎ、模索しながら道を拓いてきた三澤にとって、同じ立場の彼らの存在は大きい。「重責や葛藤を深く理解しあえる友の奮闘ぶりは、自身の励みになります」

画像: (左)「キュヴェ三澤 2017」<750ml> メルロ主体のふくよかで奥深い味 (右)「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」<750ml> キリリとした酸味と果実のうまみが魅力。三澤農場の"甲州"の美しい酸の特徴を生かした新しいワインは今年11月に誕生予定 ※ ともにオープン価格

(左)「キュヴェ三澤 2017」<750ml>
メルロ主体のふくよかで奥深い味
(右)「キュヴェ三澤 明野甲州 2013」<750ml>
キリリとした酸味と果実のうまみが魅力。三澤農場の"甲州"の美しい酸の特徴を生かした新しいワインは今年11月に誕生予定
※ ともにオープン価格

問い合わせ先
中央葡萄酒
住所:山梨県甲州市勝沼町等々力173 
電話:0553(44)1230
公式サイト

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