2023年に25周年を迎えたパティスリー、ピエール・エルメ・パリ。パリに先んじて、世界初のショップを日本にオープンするほど、日本との絆が深いパティスリーでもある。日本では、パリのピエール・エルメの想いを受け継ぎつつ、日本ならではのユニークな展開も見せる。ピエール・エルメ・パリ アジア支部代表のリシャール・ルデュに話を聞いた

BY KANAE HASEGAWA

 お菓子を通して人々に笑顔をもたらしたい、というパリからのピエール・エルメの思いを、日本の風土や文化に寄り添わせながら体現しているのが、ピエール・エルメ・パリのアジア支部代表を務めるリシャール・ルデュ。日本におけるマカロンデーの認知度を上げるために様々な工夫を凝らしてきた。たとえば、本国では存在しない広報大使を設け、ファッションデザイナーの皆川明、ミュージシャンの山口一郎といった文化人のみならず、国民的キャラクター、「リカちゃん」などにマカロンデーの広報大使になってもらうアイデアを打ち出してきた。それによって、様々な分野に関心をもつ人々がマカロンデーのことを知り、チャリティー活動に関わってくれたという。

画像: 2012年のマカロンデーに広報大使となったのは、国民的キャラクターの「リカちゃん」。限定マカロン「Macaron Licca」が販売され、その収益金は『認定NPO法人 難病のこども支援全国ネットワーク』に寄付された COURTESY OF TOMY

2012年のマカロンデーに広報大使となったのは、国民的キャラクターの「リカちゃん」。限定マカロン「Macaron Licca」が販売され、その収益金は『認定NPO法人 難病のこども支援全国ネットワーク』に寄付された

COURTESY OF TOMY

 マカロンデーのための広報大使を立てているのは日本だけ。そのいきさつについて、ルデュはこう語る。
「出会い。出会いですよ。日本玩具文化財団の佐藤さんと出会ったんです」
 クリスマスの時期になると、かっぷくのよいルデュはサンタクロースに扮して都内の医療機関を訪問する。入院中の子どもたちにおもちゃをプレゼントする活動を10年以上前から行ってきた。きっかけは個人的な体験にあると言う。「子どもが欲しかったけれど、長いこと授かることができませんでした。いろいろ悲しい想いも味わいました。だから、やっと子どもが生まれたとき、心から感謝しました。それこそ誰に対しても感謝したかったんです。微力ではありますが、困難に直面しているひとに寄り添いたいという思いも生まれました。そうして毎年サンタになっているうちに、トナカイのひとりがタカラの創業者一族の方だとわかったり。出会いっておもしろいよね」とルデュは笑う。なるほど、その出会いが縁となり、マカロンデーの広報大使に「リカちゃん」が起用されたのだろう。「サンタになるためにも私はダイエットはできないね」と笑いながらルデュは続ける。「クリスマスに限ることなく、何かしらのかたちで困っている人を励ますことができたらと思って活動しています」

画像: コロナ禍、期間限定で行われた「おうちエルメ」の手書きのメッセージを添えたデリバリーボックス PHOTOGRAPH BY NAOKI HASEGAWA

コロナ禍、期間限定で行われた「おうちエルメ」の手書きのメッセージを添えたデリバリーボックス

PHOTOGRAPH BY NAOKI HASEGAWA

 2020年春、新型コロナウィルス感染症の蔓延防止のための緊急事態宣言が出された。多くの飲食店が休業や営業時間の短縮など厳しい局面に立たされた。その宣言から24時間後、ルデュは業務用服を扱う量販店で作業服を探していた。48時間後には、自身のつながりから協力を得て、シトロエンやプジョーの車にピエール・エルメ・パリのお菓子を積んで、ホームデリバリーをスタートさせた。配達スタッフはもちろんピエール・エルメ・パリのスタッフだ。「日本のピエール・エルメ・パリには400人の従業員がいるんです。私には彼らの生活を守る責任があります。なんとかしなくてはと思い、必死で取り組みました」

画像: デリバリー中の風景。2020年4月都内にて撮影 PHOTOGRAPH BY NAOKI HASEGAWA

デリバリー中の風景。2020年4月都内にて撮影

PHOTOGRAPH BY NAOKI HASEGAWA

 急遽用意した真っ白なボックスにスタッフが手書きのメッセージを添えて、注文してくれた客に感謝の気持ちを伝えた。社長であるルデュも自ら宅配先に赴き、お客様にお菓子を届けた。「注文してくださるお客様に対してそれまで以上にありがたい気持ちになりました」とルデュ。一方、自粛生活で不安が募る中、メッセージとともに届けられた華やかで美味しいお菓子に、元気をもらったという声もSNSを賑わした。
「これまでは、お客様がお店に来てくれるのを待っていたけれど、自らお客様に会いに行くという体験はとても新鮮でした。お客様の顔やたたずまいがそれまで以上に見えてきて勉強にもなりました」

「出会いは大切」とルデュは言う。ピエール・エルメ・パリの立ち上げとともに来日し、、四半世紀の歩みの中で様々な出会いがあった。国内の農家や工芸家との出会いも刺激になった。「日本はそれぞれローカルの風土も文化も多彩で魅力的。30年近く住んでいますが飽きることがありません。本当におもしろいです」とルディは目を輝かせる。「フランスのパティスリーとしてお菓子の食材は輸入に頼ってきたのですが、日本各地にこれほどにも多彩で豊かな食材があることを知るにつれ、私たちも発信していくべきだと思ったんです」
 そこから生まれたのが、国内の生産者が手塩にかけて作ったものを生かすブランド「Made inピエール・エルメ」だ。

画像: 地元の稲作農家が作る米を飼料に育った鶏の卵とオリーブオイルを用いて、愛知県常滑市の生産者たちがつくる無添加マヨネーズ。「現地の方々が手作業で丁寧に作っているから大量に作ることはできない」とのこと。コクも滋味もありつつ洗練された味わいが好評で売り切れ率も高いが、ファン多し。「たまご農家のこだわりマヨネーズ」<170g>¥1,296 /Made inピエール・エルメ COURTESY OF PIERRE HERMÉ PARIS

地元の稲作農家が作る米を飼料に育った鶏の卵とオリーブオイルを用いて、愛知県常滑市の生産者たちがつくる無添加マヨネーズ。「現地の方々が手作業で丁寧に作っているから大量に作ることはできない」とのこと。コクも滋味もありつつ洗練された味わいが好評で売り切れ率も高いが、ファン多し。「たまご農家のこだわりマヨネーズ」<170g>¥1,296 /Made inピエール・エルメ

COURTESY OF PIERRE HERMÉ PARIS

 愛知県常滑市の卵を使ったマヨネーズほか、高知県産の人参をたっぷり使用した「キャロット ドレッシング」や同じく高知の生姜を用いた「ジンジャードレッシング」、愛媛県ほか国産の野菜を用いたピクルスなどが好評だ。各地の職人とのコラボレーションも積極的に行い、秋田県の蔵元集団とタッグを組んで作り上げた期間限定の焼き菓子なども話題を呼んだ。

画像: 浮世絵版画にマカロンが描かれた遊び心あふれるパッケージ。「マカロン10個詰め合わせ」¥4,260 /Made inピエール・エルメ COURTESY OF PIERRE HERMÉ PARIS Made inピエール・エルメ TEL. 03-3215-6622 公式サイトはこちら

浮世絵版画にマカロンが描かれた遊び心あふれるパッケージ。「マカロン10個詰め合わせ」¥4,260 /Made inピエール・エルメ

COURTESY OF PIERRE HERMÉ PARIS

Made inピエール・エルメ
TEL. 03-3215-6622
公式サイトはこちら

 人気商品のマカロンにも、ほうじ茶やシソなど日本ならではの食材を取り入れた、洗練されたフレーバーが登場。海外でも人気の高まる葛飾北斎や歌川広重の版画を基に、アレンジを加えた日本オリジナルのマカロンボックスも人気だ。また、食品だけでなく、福井の越前和紙などのクラフトも取り入れ、マカロンの包装紙として用いたこともある。

 ルデュは北海道から九州まで各地に精力的に足を運んでいるが、「最近は足繫く長崎を訪れています」と言う。16世紀、ポルトガル、オランダとの貿易によって日本にもたらされた砂糖文化の伝播を辿る‟九州シュガーロード“の物語を、現在に魅力的なかたちで甦らせようと、なにやら楽しいことを企んでいるようだ。ピエール・エルメ・パリの日本ならではの取り組みはさらに続く。

画像: リシャール・ルデュ。ピエール・エルメ・パリ アジア支部代表。1972 年フランス・クレモンフェラン生まれ。14 歳で地元のレストランに入り、89 年よりお菓子屋で基礎を学ぶ。95 年にピエール・エルメと出会い、97 年にピエール・エルメがコンサルタントを務める「ラデュレ」のシェフ・パティシエに就任。98 年に「ピエール・エルメ・パリ」の立ち上げに参加。以降日本での統括シェフ・パティシエを経て、アジアでの展開の統括も担う日本代表に。2018 年、フランス農事功労章シュヴァリエを受章 COURTESY OF PIERRE HERMÉ PARIS

リシャール・ルデュ。ピエール・エルメ・パリ アジア支部代表。1972 年フランス・クレモンフェラン生まれ。14 歳で地元のレストランに入り、89 年よりお菓子屋で基礎を学ぶ。95 年にピエール・エルメと出会い、97 年にピエール・エルメがコンサルタントを務める「ラデュレ」のシェフ・パティシエに就任。98 年に「ピエール・エルメ・パリ」の立ち上げに参加。以降日本での統括シェフ・パティシエを経て、アジアでの展開の統括も担う日本代表に。2018 年、フランス農事功労章シュヴァリエを受章

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