TEXT & PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
鷹峯 アマン京都「鷹庵」
今やオフシーズンはないのでは?と言われるほど、1年を通して旅行者で賑わう京都。人気のレストランや割烹のなかには、数ヶ月前後まで予約が埋まっているという店もあり、思い立って急きょ京都に行ったり、旅はノープラン派という方は、ディナー探しに困ることも。
そんな時に心強いのが、「明日、行きたい」なんていう急な予約や食の多様性にも柔軟に対応してもらえるホテルの存在だ。
観光客で賑わう街中を離れ、車を北へ走らせること約20分、左大文字山から続く鷹峯三山の麓にある森の庭に「アマン京都」が佇んでいる。緑が生い茂る入り口を進むと、一つ目の門が現れ、さらに進むと正門にたどり着く。今回紹介する「鷹庵」は、ホテルの日本料理店ながら、この正門の外にあり、まるで独立した店舗のような佇まいを見せている。
「アマン京都」は2019年、プライベートリゾートとして開業したが、開業当初から、「鷹庵」は宿泊客以外も訪れやすい店にしたいという思いで、あえて正門の外に店を構えたという。
「鷹庵」の総料理長を務めるのは、金沢の料亭「銭屋」の主人、髙木慎一朗さん。髙木さんは、高校時代をアメリカで過ごし、大学卒業後、「京都吉兆」で修業を積む。その後、金沢に戻り、父の創業した「銭屋」に入り、ミシュラン二つ星に導いた。
豊かな国際感覚を持ち、世界のホテルやレストラン、企業からオファーを受け、海外を飛び回り、日本料理の普及にも一役買っている。
鷹峯は、江戸時代初期、本阿弥光悦が芸術村を作った場所であり、琳派発祥の地としても知られている。髙木さんにとって本阿弥光悦は憧れの存在であり、この地で仕事をすることになり、思いもひとしおだそう。
「本阿弥光悦は、刀剣の研磨や鑑定を家職としつつ、書家・陶芸家・画家・茶人など多彩な顔を持つアーティスト。そして、どの分野にもしっかり軸を持ち、本筋は外さず、独特の世界観を確立された名プロデューサーでもありました。私も、光悦にちなみ、本道を外さず、一歩踏み込んだ新しい料理を提供したいです」。
とは言え、奇をてらうという意味でなく、素材に手を加えすぎず、なるべく本来の持ち味をストレートに出す料理を信条に「何を食べているかわかる料理を意識しています」と、髙木さん。
この日の椀は、澄んだ吸い地に牡丹の花のようにふわりと開いたハモがあるのみというまさにその思いを体現したような潔い料理に。通常であれば、野菜や湯葉など、椀妻を添えることが多いが、「振り柚子すら悩ましかった」と、髙木さん。ほかの具材を加えないことで、鱧や吸い地のおいしさが際立っている。
カウンター席に座ると、目の前で鱧の骨切りをしたり、ひきたての一番だしで椀を仕上げたり、臨場感も魅力だ。
カニをはじめ、調理する前にゲストに食材を披露することもあり、丹後とり貝は、ツヤツヤしていて大ぶりで肉厚。炙りまでいかず、”温める”程度に炭火でサッと焼き、甘みを引き出し、お造りで提供される。これまで食べていたトリ貝とはまったく違う、フレッシュ感、甘み、食感に驚くばかりだ。
この日の揚げ物は、白アスパラの天ぷら。素揚げに近いほど薄い衣をまとわせ、白アスパラの風味や水分を閉じ込めて。天つゆではなく、銀あんが添えられているのも珍しく、とろみがあるため、天ぷらとの絡みも抜群。銀あん自体も調味料より出汁の味が優勢。最後は飲み干したくなるほど優しい味わいだ。
肉料理にはすき焼きが登場。平井牛の薄切りロース肉をさっと甘辛い特製の焼きだれで火入れし、お皿で提供される。見た目はお馴染みのすき焼きとはまったく違うが、黄身おろしとネギを巻いていただくと、味わいはすき焼きそのものだ。
コースを最後までいただくと、髙木さんの言う「何を食べているかわかる料理」の意味が明確に。
お馴染みの食材や料理も、ムダなものをそぎ落とし、固定概念にとらわれず最適な調理をすることで、素材の味や輪郭がクッキリ。正統ながら無難に終わらず、記憶に残る料理になっている。
アマン京都「鷹庵」
住所:京都市北区大北山鷲峯町1
営業時間:12:00〜15:00(13:00入店)、17:30〜22:00(20:00入店)
定休日:無休
TEL. 075-496-1333
ランチ¥20,000、ディナー¥40,000(共にサービス料込)
ランチ・ディナー共に前日20時までの要予約
公式サイトはこちら
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