茨城県と栃木県の県境に位置する結城市は、見世蔵造りの街としても知られる。この土地の代名詞とも呼べる「結城紬」に触れるミュージアムを、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が訪れた。豊かな風土に彩られた日本に存在する、独自の「地方カルチャー」。そんな“ローカルトレジャー”を探す好評連載。結城市にフォーカスをあてた2回目をお届けしたい

BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

画像: 節の表情にさえ趣が宿る、手つむぎの真綿糸。地機にかけた経糸(たていと)が柔らかな輝きを放つ

節の表情にさえ趣が宿る、手つむぎの真綿糸。地機にかけた経糸(たていと)が柔らかな輝きを放つ

《SEE&BUY》「結城紬ミュージアム つむぎの館」
日本最古の結城紬の“今”と出合う

画像: 結城紬からなるストールや小物類など、モダンなセンスに彩られたオリジナルアイテムが並ぶ「結の見世」

結城紬からなるストールや小物類など、モダンなセンスに彩られたオリジナルアイテムが並ぶ「結の見世」

 糸の貴さにまで思いを馳せて纏うものを選ぶ──繭からどのように糸をつむぎ、どんなプロセスを経て一枚の織物になるかを知り、そのディテールに価値を見出し、装う喜びに浸る。ここ結城市には、纏うだけで幸福感に包まれる、軽やかで優しい風合いの織物がある。それが土地の名前を冠し、日本最古の歴史を誇るという「結城紬」だ。
 
 真綿から糸をひく「糸つむぎ」、細かい十字絣や亀甲といった模様になるように手括り(てくくり)で染める「絣括り(かすりくくり)」、織り手が経糸を腰にかけ、張り具合を調節しながら織る「地機織り」を継承する本場結城紬は、重要無形文化財に指定されている。着物愛好家が「いつかは」「一度は」着てみたいと憧れる特別な織物の魅力を、より深く、身近に感じてほしいという思いで建てられたのが同館だ。

画像: 奥順が所有する貴重な紬のコレクションや歴史を辿る「資料館」(右)と、染め織りのワークショップなどを行う「織場館」(左)

奥順が所有する貴重な紬のコレクションや歴史を辿る「資料館」(右)と、染め織りのワークショップなどを行う「織場館」(左)

画像: 古い見世蔵が軒を連ねる街道沿いには「奥順」の店舗や「結城澤屋」が建つ

古い見世蔵が軒を連ねる街道沿いには「奥順」の店舗や「結城澤屋」が建つ

 手織りの原点ともいえる結城紬を、後世に受け継ぐ願いで社屋の敷地を開放し、「結城紬ミュージアム つむぎの館」を手がけたのは、明治40年から産地問屋として結城紬の図案制作を手掛けてきた「奥順(おくじゅん)」である。
 
 敷地内は9棟の建物から成り、見世蔵造りの街にふさわしく、建物を巡るだけでも歴史的遺産が凝縮。明治期建造の壱の蔵や離れ、土蔵をはじめ大正期に建てられた奥順の店舗など、5棟が国の登録有形文化財に指定されている。さらに、築百数十年前の古い茅葺の農家を移築・再生した「陳列館」も加わり、建築ファンの目も楽しませる。

画像: 古民家を移築し、常時200点以上の反物が展示されている「陳列館」

古民家を移築し、常時200点以上の反物が展示されている「陳列館」

画像: 広い敷地には、其処ここに古の風情が宿る

広い敷地には、其処ここに古の風情が宿る

 高度な手技や歴史への理解を深めたところで、満たしたいのは買い物心。着物のワードローブに新顔を迎えたいという方は、奥順が完全に別誂えで手がけた敷地内の「結城澤屋」をレコメンドしたい。結城紬の魅力を今様に再解釈し、絣柄行の存在を引き算したモダンな反物は、真綿からつむいだ糸が独特の陰影を奏で、無地感覚でありながら着姿に奥行きを生む。透明感のあるオリジナルカラーの色無地の結城紬も、万能なコーディネートを叶えるなど、ここでは「結城澤屋」でしか見られないオリジナル商品のみが並ぶ。

 着物は少し敷居が高いという方には、大きさも彩りもバリエーション豊富なストールを。旅の記憶を刻む自分への贈り物として“私らしい一枚”を選び抜き、糸の美を愛で、肌に触れる風合いを慈しんではいかがだろう。

画像: 結城紬のよさはそのままに、現代的な顔立ちの反物が揃う「結城澤屋」(予約制)。コーディネートを提案くださるのは、責任者の新 陽子さん

結城紬のよさはそのままに、現代的な顔立ちの反物が揃う「結城澤屋」(予約制)。コーディネートを提案くださるのは、責任者の新 陽子さん

画像: “ほっこり結城”と謳われ、古式どおりの方法で織られている結城紬のストール。素朴で自然な感触を、マニッシュな配色で楽しみたい

“ほっこり結城”と謳われ、古式どおりの方法で織られている結城紬のストール。素朴で自然な感触を、マニッシュな配色で楽しみたい

住所:茨城県結城市結城12-2
電話:0296-33-5633
公式サイトはこちら

 Vol.3では、鬼怒川の伏流水で仕込む味噌蔵と、野菜を主役に丁寧に季節を語る料理店をご覧いただきたい。

画像: 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

樺澤貴子(かばさわ・たかこ)
クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。

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