世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ」をはじめ、さまざまな展覧会やイベントが開かれる、マイアミ・アート・ウィーク。注目すべき8つのトピックスを紹介

BY BENOÎT LOISEAU, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

 世界中のアート関係者が一週間、マイアミのコリンズ・アベニューに集まって、シャンパンを飲みながらカルチャーイベントに酔いしれるーー。毎年恒例となったマイアミ・アート・ウィークが、2018年末に開かれた。今回も、マイアミ市内では20近くの展覧会や数えきれないほどのパーティが開催され、またジャンルを超えたさまざまなイベントを実施。「バス美術館」に展示された奇妙な生き物から、アート・バーゼル・マイアミビーチに新設されたグランド・ボールルームでのアクロバティックなパフォーマンスまで、そのハイライトを紹介する。

世にも奇妙な生き物たちがバス美術館を占拠

画像: ザ・ハース・ブラザーズ《New Jersey Turnspike》 2018年 PHOTO:LEE THOMPSON. © THE HAAS BROTHERS. COURTESY OF THE ARTISTS ANDMARIANNE BOESKY GALLERY, NEW YORK AND ASPEN

ザ・ハース・ブラザーズ《New Jersey Turnspike》 2018年
PHOTO:LEE THOMPSON. © THE HAAS BROTHERS. COURTESY OF THE ARTISTS ANDMARIANNE BOESKY GALLERY, NEW YORK AND ASPEN

「バス美術館」では、ロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト兼デザイナーのニコライとサイモンの兄弟ユニット、ザ・ハース・ブラザーズが美術館では初となる個展を開催。タイトルは《Ferngully(ファーンガリー)》。1992年公開の子ども向けアニメ映画『不思議の森の妖精たち』(原題:FernGully)から名をとったこの個展では、森のような没入感のあるスペースに、彼らのシグネチャーである奇妙な生き物の形をした家具や彫刻、装飾品が置かれた。素材はアイスランドのシープスキンや、縮れた牛の毛皮、チョコレート色のヤギの毛皮、黒檀、ブロンズなど。「この個展は、僕たちの最近の7年間の活動を具体化したものなんだ」とサイモン・ハースは言う。

 個展を訪れた人々が、彼らの創り出す不思議な世界を自宅でも楽しめるような試みも。ライフスタイル・ブランド「L’Objet(ロブジェ)」とのコラボで制作した自宅用のオブジェ(手作りの磁器の皿、モハーヴェ砂漠のパームオイルを使ったアロマキャンドル、手描きのエッチングを施した金メッキの文箱など)を、館内のポップアップショップで限定版として販売された。

THE HAAS BROTHERS(ザ・ハース・ブラザーズ)

ニューヨークの“ボデガ”がアート・バーゼル・マイアミビーチに出現

画像: チャバララ・セルフの作品の展示風景。(左から)《President Yellow》、《Counter》、《Red Ballantine Beer Bottles》 2017年 COURTESY OF THE ARTIST ANDTHIERRY GOLDBERG GALLERY

チャバララ・セルフの作品の展示風景。(左から)《President Yellow》、《Counter》、《Red Ballantine Beer Bottles》 2017年
COURTESY OF THE ARTIST ANDTHIERRY GOLDBERG GALLERY

 一週間にわたって開かれた世界最大級のアートフェア「第17回 アート・バーゼル・マイアミビーチ」には、世界中から200を超える近・現代アートのギャラリーが集結。「ハウザー&ワース」や「リッソン・ギャラリー」、「ギャルリー・ペロタン」などの名だたる画廊がこぞって出展するなかで、多くの小規模なギャラリーは一風変わった個展を開いた。

「ティエリー・ゴールドバーグ・ギャラリー」のブースでは、28歳のアーティスト、チャバララ・セルフの個展『ボデガ・ラン』を開催。セルフは、生まれ育ったニューヨークの街角に点在する小さな食料雑貨店“ボデガ”の店の前にあったあれこれを再現。まるで店の中にいるような錯覚を覚える空間を作り上げた。彼女は、商品が豊富に並んだ棚のスケッチや、客たちを描いた絵、特大の牛乳ケースのオブジェを通じて、アフリカ系やラテン系のコミュニティに欠かせない街角の食料品店の存在を讃えた。そこには、セルフがこだわる「現代文化における黒人女性の体」というテーマ性も見てとることができる。

 一方で、サンパウロの「ガレリア・ジャケリネ・マルチンス」(芸術作品やドキュメント資料などの調査・研究スペース)では、ブラジルの作家レジーナ・ヴァーターの作品に関する調査結果をプレゼンテーションした。ヴァーターは、アフリカからブラジルに伝わった神話にインスパイアされたフェミニズム的インスタレーションで知られる。1960年代の芸術運動「トロピカリア」の流れを受け、ブラジルのミュージシャンたちが制作した最初のオムニバス・アルバム『トロピカリア』のジャケットを手がけ、高い評価を得ている。

TSCHABALALA SELF(チャバララ・セルフ)

NADAのアートフェアにはクィア&フェミニストのアートがいっぱい!

画像: 一枚のポリエステルの布に、125点のユニークなドローイングを描いたマリー・ジャコティの《“Morning Defeats & Gloria Victis(朝の敗北&敗者に栄光を)》 COURTESY OF THE ARTIST AND HANNAH BARRY GALLERY

一枚のポリエステルの布に、125点のユニークなドローイングを描いたマリー・ジャコティの《“Morning Defeats & Gloria Victis(朝の敗北&敗者に栄光を)》
COURTESY OF THE ARTIST AND HANNAH BARRY GALLERY

 第16回目となるインディペンデント系アートフェア「NADA(The New Art Dealers Alliance)」は、かつての会場であったベネチアン・コーズウェイ橋を渡った「アイスパレス・スタジオ」に再び舞い戻ってきた。125のギャラリーが一堂に会したこのイベントでは、クィア&フェミニスト・アーティストのさまざまな注目作品が見られた。

 NYのクイーンズにある「Mrs. ギャラリー」は、FIAR(LGBTQのアーティストの団体)の創設者クリス・ボギアによる大型の木製彫刻や、鮮やかな水彩画を展示。また、「フィアマン」と「シチュエーションズ」の2つのギャラリーは、ジミー・ライトの個展を共同で開催した。ライトは、70年代のセクシャル・カルチャーを描いた比喩的な絵画で知られる。その後のエイズ危機の最中に描いた花をモチーフにした作品は、今なお生き生きとした輝きを放っている。

 ロンドンの「ハンナ・バリー・ギャラリー」は、提携ギャラリーの「バルーン・ルージュ・コレクティブ」との共催で、フランス人作家マリー・ジャコティの作品を展示。ジャコティのテキスタイルの大型インスタレーション《Morning Defeats & Gloria Victis(朝の敗北&敗者に栄光を)》は、カーテンで仕切られたナイトクラブの楽屋や、貴婦人の居室を連想させるものだった。

CHRIS BOGIA(クリス・ボギア)

JIMMY WRIGHT(ジミー・ライト)

MARIE JACOTEY(マリー・ジャコティ)instagram

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