今回のリストは、江戸時代の春画と現代写真のコラボレーション展、ファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンが選出した現代アーティストによる“解釈作品”展、そして奈良美智が“僕の大好きなせんせい”と敬愛する画家、櫃田伸也の個展

BY MASANOBU MATSUMOTO

櫃田伸也個展『罪なき理性 ー blame not on reasons』
KAYOKOYUKI 

 東京・駒込にある「KAYOKOYUKI」で、櫃田伸也(ひつだ のぶや)の個展が始まっている。櫃田は、その50年を超える画歴において、愚直に現代絵画、特に「風景画」を描き続けてきた画家だ。ただ彼が描くのは、いわゆる透視図法に則った王道的な風景画ではない。作家自身も“遠景と近景をひとつにプレスした平面”、“通り過ぎた風景”と作風を語っているが、絵として表れるのは、目の前の視覚的な光景の再現ではなく、風景の断片やその記憶をコラージュしたような、どこか抽象的なイメージだ。

画像: 櫃田伸也《箱》 2003-2019年 116.5×116.5cm COURTESY OF KAYOKOYUKI

櫃田伸也《箱》 2003-2019年 116.5×116.5cm
COURTESY OF KAYOKOYUKI

 こうした少し実験性をはらんだ櫃田作品の鑑賞体験を、より豊かなものにする言葉がある。「風景は生き物のように姿を変えながら、ゆったりとそこにある」。櫃田は過去のインタビューでそう言いながら、自身の大切な風景のひとつとして、幼少期から親しんだ蒲田の多摩川周辺を挙げた。戦後焼け野原だったその土地は、ある日アルファルトでしっかり舗装され、いまはその上にビルがそびえ立つ。櫃田は、“そのような変化も、時間が経てばまた自然と見慣れたものになる”と気づき、風景を“変容する生き物”として捉えたのである。

 本展には、過去に多摩川で起こった洪水をモチーフにした作品もあるが、浸水した街の光景とともに、水位が下がったのちに、また咲くだろう赤い花や草木の姿も画面にのぞかせる。目の前の一瞬ではない、時間による変容も内包した風景画は、自然の摂理のようなもの、よりスケールの広い世界の姿をも映し出しているようだ。また櫃田は、90年代以降、自身がかつて描いた旧作を加筆したり、切断や合体をしたりと、“自身が描いた風景をアップデートすること”にも挑んでいる。本展には、2019年に加筆された"新しい風景画”も集められている。

画像: 会場の壁面には、古今東西の風景画、天災を描いた日本の古典絵画、また自身が生まれ育った多摩川のスナップ写真などもインスタレーション作品として展示に。素描的で直感的とも見える彼の風景画だが、実際には、多様なコンテクストの上に生まれていることがわかる PHOTOGRAPH BY KEI OKANO

会場の壁面には、古今東西の風景画、天災を描いた日本の古典絵画、また自身が生まれ育った多摩川のスナップ写真などもインスタレーション作品として展示に。素描的で直感的とも見える彼の風景画だが、実際には、多様なコンテクストの上に生まれていることがわかる
PHOTOGRAPH BY KEI OKANO

 ちなみに櫃田は優れた教育者としても知られている。制作のかたわら、愛知県立美術大学と東京藝術大学で教鞭をとり、結果、国内外で活躍する作家を世に送り出すことに一役買った。現代美術家の奈良美智も教え子のひとりで、彼は櫃田を“僕の大好きなせんせい”と言い、今も敬愛してやまない。

 隣接するギャラリー「駒込倉庫」では、大学時代で櫃田に教わった作家、もしくは彼の創作に影響を受けた作家たち16名によるグループ展『その先へ — beyond the reasons』が開かれている。参加するのは、杉戸洋、長谷川繁、村瀬恭子、大庭大介、O JUN、西村有など、いままさに現代アートシーンで注目を集める作家たち。櫃田の個展とあわせて鑑賞したい。

『罪なき理性 ー blame not on reasons』
会期:〜3月31日(日)
会場:KAYOKOYUKI
住所:東京都豊島区駒込2-14-14
開館時間:12:00〜19:00(日曜は〜17:00)
休廊日:月、火曜
電話:03(6873)6306
公式サイト

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