京都・清水寺を会場に、近代絵画、現代美術、さらには文学、マンガ、映画まで、ジャンルを超えた古今東西の芸術が集う展覧会が開催される。監修するのは小説家の原田マハさん。本展に寄せる思いを聞いた

BY KANAE HASEGAWA

 画家やアートの登場する小説を通して、アートの読み方を提案してきた小説家の原田マハさん。作家としての道を歩み始める前はキュレーターの仕事をしていたこともあり、美術史に明るいことは知られている。子どもの頃から美術館に通い詰めるほど日常でアートと接してきた原田さんにとって美術鑑賞は娯楽ではない。

「アートは友人のようなもの。さしずめアートの居場所である美術館は友人の家。そして私にとって展覧会は、アートという“友だち”の家にみんなが集まるパーティ」という。また、原田さんはアートを通してアーティストと対話をしてきた、とも。「アート作品は私とアーティストとのコンタクトポイント。作品の向こうにはそれを作ったアーティストがいて、アートワークを介して彼らに触れてきたんです」

画像: 加藤泉 《無題》2019年(本展のための特別制作)布、革、アクリル絵具、パステル、ステンレススチール、アルミニウム、鉄、刺繍、石、 リトグラフ 清水寺 西門では加藤泉の新作インスタレーションが展示される © 2019 IZUMI KATO

加藤泉
《無題》2019年(本展のための特別制作)布、革、アクリル絵具、パステル、ステンレススチール、アルミニウム、鉄、刺繍、石、 リトグラフ
清水寺 西門では加藤泉の新作インスタレーションが展示される
© 2019 IZUMI KATO

 こうしたアーティストとの素晴らしい接点をより多くの人に持ってもらいたいという思いから原田さんが総合ディレクターとなって企画したのが、京都・清水寺で9月1日から8日間限定で開催される展覧会『CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート』だ。これは世界有数の美術館、博物館関係者が集うICOM(国際博物館会議) の京都大会開催を記念して企画されたもの。

 日本と世界のアートの接点(コンタクト)をテーマに、展示されるのは、アンリ・マティス、猪熊弦一郎、棟方志功 、東山魁夷による絵画、バーナード・リーチ、濱田庄司らの陶器、シャルロット・ぺリアンによる家具、さらに宮沢賢治、川端康成による文学、手塚治虫、竹宮恵子のマンガなど26作家の作品。現存するアーティストから物故作家まで、また幅広いジャンルからセレクトした意図について原田さんは次のように説明する。

「展覧会を構想するにあたって、まず日本と西洋の芸術家たちが互いの文化や思想に傾倒し、それをどんな形で自身の創作に取り入れてきたかを探っていきました。ここに並ぶ作品は、たしかに、つくられた時代や国も異なれば、トランスジャンル。でも、じつはそれぞれに“つながり”があるんです」

画像: 宮沢賢治 直筆手帳 1931年 病床の宮沢賢治が思いの丈を書きつけた『雨ニモマケズ』手帳。賢治の没後発見されて以来、これらの言葉は日本人にとっての心の拠り所ともなってきた © RINPOOSYA

宮沢賢治
直筆手帳 1931年
病床の宮沢賢治が思いの丈を書きつけた『雨ニモマケズ』手帳。賢治の没後発見されて以来、これらの言葉は日本人にとっての心の拠り所ともなってきた
© RINPOOSYA

画像: 猪熊弦一郎 《無題》1948-49年頃 板に油彩(3枚組の一部)個人蔵 アンリ・マティスを南仏に訪ねたのちに描かれた猪熊弦一郎の絵。マティスから学ぼうとしたのだろう。作品からはマティスの傑作『ダンス』の影響が色濃く見られる © THE MIMOCA FOUNDATION

猪熊弦一郎
《無題》1948-49年頃 板に油彩(3枚組の一部)個人蔵
アンリ・マティスを南仏に訪ねたのちに描かれた猪熊弦一郎の絵。マティスから学ぼうとしたのだろう。作品からはマティスの傑作『ダンス』の影響が色濃く見られる
© THE MIMOCA FOUNDATION

 その“つながり”は、アーティスト名だけでは、見えにくい。しかも、展覧会会場では展示作品のそばにキャプションも添えないという。「作品をわかりやすくすることが目的ではありません。アンリ・マティスの作品と思って見たものが、じつは猪熊弦一郎の作品かもしれない。見た人がそのように感じたのであれば、それでいいんです。ただ、その“つながり”のヒントとして、私が書いた作品解説をタブロイドにして会場で配布します。そこでマティスの作風を自分のものにしようとした猪熊弦一郎の作品だと知って、思わず膝を叩くかもしれません」。まずは初対面の人と会うように、第一印象を頼りにアートに接してほしいということだ。それは何も特別なことではなく、誰にでもできることだという。

「人類の歴史の中で人と芸術とのコンタクトが途絶えたことはほぼないと言えます。災害が起きても、戦いが起きても、権力者が変わっても、芸術を見るという人間の行為は変わることなくあり続けてきました。それほどアートに触れるという行為は普遍的であり、驚きに値すること。芸術の可能性はそこにあると思うんです」と原田さんは解釈する。古今東西、対象こそ違えども、誰もが芸術に触れてきた。そして当の芸術家同士も、遠い海の向こうの相手への接触を試みてきた。

画像: ミヒャエル・ボレマンス 《くちなし(2)》2014年 和紙/軸装に墨 掛け軸:133x36.7cm 本紙:55.6x34.5cm 個人蔵 ベルギーの現代画家ボレマンスが、京都で描いた掛け軸も展示される © MICHAËL BORREMANS

ミヒャエル・ボレマンス
《くちなし(2)》2014年 和紙/軸装に墨 掛け軸:133x36.7cm 本紙:55.6x34.5cm 個人蔵
ベルギーの現代画家ボレマンスが、京都で描いた掛け軸も展示される
© MICHAËL BORREMANS

画像: 森村泰昌 《エゴ・シンポシオン/ゴッホ》2017年 映像 6分55秒 作家蔵 歴史的な絵画の題材に、自身が扮装したセルフ・ポートレートで知られる森村泰昌。ゴッホに挑んだ映像作品を出品 © 2019 YASUMASA MORIMURA

森村泰昌
《エゴ・シンポシオン/ゴッホ》2017年 映像 6分55秒 作家蔵
歴史的な絵画の題材に、自身が扮装したセルフ・ポートレートで知られる森村泰昌。ゴッホに挑んだ映像作品を出品
© 2019 YASUMASA MORIMURA

 そうした接触が際立ったのが、特に日本の場合、明治時代以降といえる。江戸時代、権力者は民衆が異質なモノや思想から影響を受けることを恐れ、海外との接触を断った。長崎、対馬といったごく限られた港のみが日本と海外との接点になったわけだが、明治に入り、堤防が決壊したように日本と世界との交流が盛んになると、琳派や浮世絵のような日本の芸術表現に新鮮さを見出した西洋社会では“ジャポニスム(日本趣味)”というムーブメントが沸き上がる。その洗礼を受けたモネ、ゴッホといった画家たち、あるいはエミール・ガレなどの工芸家が自身の創作に日本の表現を取り入れようとした。

 その後、今度はキャッチボールするように黒田清輝といった日本の芸術家が西洋絵画の技法に自身の絵画表現を求め、藤田嗣治にいたっては、フランス文化に傾倒しつつも洋画と日本画のハイブリッドともいえる唯一無二のスタイルを築き上げたことは知られているだろう。「日本の芸術家も、がむしゃらに世界との接触を試み、文学においても(トルストイなどの影響を受け、印象派やビアズリーを紹介した)白樺派のような流れが生まれました。このように日本と世界がコンタクトしなければ生まれなかった芸術の潮流がある」と原田さんは言う。人間同士、いつの時代も異質なものに対する渇望にも似た憧れがあったからこそ、新しい思想や表現が生まれてきた。そう考えると、自国主義で内向きになりがちな今の世界が、それらを育む土壌としてとても貧しいものに思えてくる。

 ちなみに、先述のICOMは、第二次世界大戦後の1946年に、“戦争で分断された世界をミュージアムでつなぐ”という理念のもとに創設されたもの。その設立趣旨に共感したことが、じつは、原田さんが本展を開くいちばんの動機になったという。「70年前に掲げられたステートメントですが、いまの時代にも当てはまるもの。改めてシェアされるべきものだと思う」。原田さんが、展覧会を通じて提示する“つながり”の美しい物語は、ICOMの願いを内包し、わたしたち自身の生き方に対するポジティブなヒントを与えてくれるかもしれない。

 今回、原田さんは、展覧会の企画と同時に本展を舞台にした小説を書くことにも挑んだ。キュレーターの原田マハが、小説家の原田マハに“出展作家を含む20人の物故作家にコンタクトをとり、小説作品をつくり上げなさい”と指令を出すというユニークな設定の作品で、実際に『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』(幻冬舎)と題した短篇集が刊行された。展覧会とあわせて、本書を読むことで、“つながり”を巡る体験がさらに豊かなものになりそうだ。

画像: 『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』 原田マハ著 ¥1,482/幻冬舎

『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』
原田マハ著 ¥1,482/幻冬舎

註:ICOM(国際博物館会議)は世界141の国と地域から約37,000人のミュージアム関係者が加入する国際的非政府組織

『CONTACT つなぐ・むすぶ日本と世界のアート展』
会期:9月1日(日)~9月8日(日)
会場:清水寺(成就院、経堂、西門、馬駐)
住所:京都府京都市東山区清水1-294
開催時間:7:00〜18:00(最終入場17:00)
会期中無休
入館料:¥1,800、小学生以下無料
※モーニングチケット ¥1,600(7:00〜9:00入場)
公式サイト

会期中、原田マハが、竹中直人や山田洋次など多彩なゲストを迎えて行うトークイベント「CONTACT.ALK:アート経由・日本と世界のつなぎ方」も開催。チケットの販売、および詳細は公式サイトから

 

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