イスタンブールから電車で3時間ほどの位置にあるエスキシェヒル。ガイドブックにも取り上げられることの少ない、トルコの地方都市に完成した「オドゥンパザル近代美術館」は、美術館における“21世紀的なビジョン”を具体化している

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: Ahmet Elhan《Suleymaniye》2012 COURTESY OF ODUNPAZARI MODERN MUSEUM

Ahmet Elhan《Suleymaniye》2012
COURTESY OF ODUNPAZARI MODERN MUSEUM

 一方、ハルドンが言う「どこにでもサプライズがある美術館」のもっともサプライジングな場所には、ハイライトのひとつとして、日本人の竹工芸作家、四代田辺竹雲斎のインスタレーション作品が置かれている。

 田辺はこれまで、伝統的な竹細工の技法と造形美、空間性といった彫刻的な感性を織り合わせ、かつサイトスペシフィック(場の特性を活かしたアート)な作品を国内外で発表してきた。今回は、ハルドゥンから直接依頼を受け、美術館に2週間ほど滞在し、制作。土地やその歴史からインスピレーションを得ながら、1万本の竹ひごを編み、立体作品を完成させたという。

 使用しているのは、高知県の山にしか生えない「虎竹(とらちく):表面に虎の模様が浮かんだ竹」。これを“リサイクル”しながら田辺は作品をつくる。「ひとつの展示が終わったら、編み込んだ竹ひごをほどき、次の展示場所で使う。それぞれの土地の記憶を竹に宿しながら、作品を作っていくわけです」。それは、アート展を行うとたくさんのゴミが出てしまうことへ抵抗のでもあったと田辺は言う。伝統的な素材と技法に加え、サステナブルな未来志向の態度も、彼が世界的に注目されている理由だろう。また、昼過ぎから14時くらいまで、この作品は自然光を浴びてまた違った表情になる。2時間だけの田辺と隈のコラボレーションも見どころだ。

 田辺は、この美術館での制作中に、思いがけない出会いがあったことを教えてくれた。「美術館のスタッフの子どもが、制作中になんども僕のところにやってきて、仲良くなったんです。僕は8人弟子を抱えているのですが、彼女を最年少の弟子に。僕が帰国したあとも、ここに来て作品を見守ってね、と約束しました」

画像: 四代田辺竹雲斎《CONNECTION-GODAI-》2019 © NAARO

四代田辺竹雲斎《CONNECTION-GODAI-》2019
© NAARO

 展覧会のタイトルにつけられた『VUSLAT』とは、オスマントルコ時代に使われていた古い言葉で、“会いにいく”の意味。ハルドンは、その意図をこう説明する。「偶然に出会うのではなく、明確なビジョンや思いを持って、誰かに会いにいくこと。実際に、エロルは、自身の夢だった美術館を現実のものとして出会い、エスキシェヒルの人々は、美しい美術館と出会った。また、これからも人々は、ここで素晴らしいアート作品に出会えるわけです」

 隈もまた、ここでトルコの木造建築を発見し、未来のコミュニティのかたちを創造した。田辺は、土地のムードや歴史を形にし、愛弟子に出会った。エロルは言う。「この美術館が、誰かが誰かと出会う起点になり、新しい文化を創造する場所になればいい」

画像: 美術館のテラスや、室内のいくつかの窓からは「オドゥンパザル」地区の街並みも眺められる © NAARO

美術館のテラスや、室内のいくつかの窓からは「オドゥンパザル」地区の街並みも眺められる
© NAARO

『VUSLAT(The Union)』
会期:〜2020年1月1日(水)
会場:オドゥンパザル近代美術館
住所:Şarkiye Mah. Atatürk Bul. No: 37, Odunpazarı Eskişehir, Türkiye
電話番号:tel:+90 222 221 27 37
公式サイト

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