監督がすべての栄誉を独占しているように見える映画の世界。だが、誰もが映像に夢中で、映像を熟知しているこの時代に、視覚によって観客とコミュニケートする手法を操るのはプロダクション・デザイナーたちだ

BY BORIS KACHKA, PORTRAITS BY CLARISSA BONET, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: アダム・ストックハウゼン シカゴの路上に停められた大道具のトラックにて

アダム・ストックハウゼン
シカゴの路上に停められた大道具のトラックにて

 現代のプロダクション・デザイナーにとって最も大切な目標があるとすれば、それは真実味にどこまで肉迫できるかという点かもしれない。具体的に言えば、リアルさで勝負するのか、またはあえて人工的に作り込むのかということだ。または、その両方を組み合わせて、映画にしか表現できない、超現実的な雰囲気を作り出すべきなのか? かつて舞台デザイナーとして活躍し、ウェス・アンダーソン監督とともに仕事をしてきたストックハウゼンは、両方のやり方を自在に駆使してきた。アンダーソンの緻密な構図や空間の使い方、そしてスタイリッシュに記憶を捏造してしまう手法に、彼はぴったりだった。

ストックハウゼンはドイツのゲルリッツにある建物の中に、挑発的で豪華な架空の『グランド・ブダペスト・ホテル』(’14年)を作るべく、約12個のセットを詰め込んだ。だが『それでも夜は明ける』ではリアルさを出すだけでなく、史実を正確に再現するためにビジュアル効果を使った。彼は当時実際に使用されていた蒸気船のセットを作り、それをデジタル上で海に浮かべた。それは物語上で重要な鍵となる転換のシーンを残すためで、もし彼がデジタル技術を使わなければ、スタジオは予算不足を理由にそのシーンをカットしていただろう。「どうやって彼があのシーンを実現させたのか、今でもわからない。ただものすごく感謝している」とマックィーンは言う。

画像: ストックハウゼンは『それでも夜は明ける』などの映画も手がけてきた COURTESY OF RIVER ROAD ENTERTAINMENT / COURTESY OF ADAM STOCKHAUSEN

ストックハウゼンは『それでも夜は明ける』などの映画も手がけてきた
COURTESY OF RIVER ROAD ENTERTAINMENT
/ COURTESY OF ADAM STOCKHAUSEN

画像: ウェス・アンダーソン監督との共作2作目『グランド・ブダペスト・ホテル』から COURTESY OF ADAM STOCKHAUSEN;FOOTAGE STILL FROM “TWELVE YEARS A SLAVE”

ウェス・アンダーソン監督との共作2作目『グランド・ブダペスト・ホテル』から
COURTESY OF ADAM STOCKHAUSEN;FOOTAGE STILL FROM “TWELVE YEARS A SLAVE”

 さらに、あるひとつの場所を別の場所のように見せるのもひと苦労だ。私たちが有名な場所を見たり、その場所を思い出すには、ごくささいな視覚の要素に頼っていることが多いからだ。ライアン・マーフィのテレビシリーズ『フュード/確執ベティ vs ジョーン』のプロダクション・デザインを担当したジュディ・ベッカーは、今、同監督による『アメリカン・クライム・ストーリー』のプロジェクトにとりかかっている。その中で彼女は、ひとつかふたつの鍵になる部分を入れ替えるだけで違うセットを作り上げる。たとえば、ロサンゼルスの大通りの中央分離帯の上に、電光掲示板を設置することで、ダイナーの濡れた窓越しに見えるニューヨークの街に似せて見せたり、LAのハンコックパークにある豪邸にセキュリティ用の門をつけ、窓には簡易式の非常階段をつけて、ジェラルディン・ペイジ(訳註:往年の女優)が住んでいたマンハッタンのアパートのように見せるのだ。

 観客の目を欺(あざむ)くこの手法には、アートに加えて科学的な効果も織り込まれている。鍵となる要素を見た観客の脳内には、まるでだまし絵のように世界が作り上げられるのだ。撮影後のポストプロダクションの過程では、デジタル技術がベッカーやその他のデザイナーたちの助けになる。しかし、その映像を信じてもいいと思わせる領域まで観客を導く方法を、デザイナー自らが探しあてなければ、デジタル技術は役には立たない。アコーディオン型に開く門や、にじむように光るネオンがどんなふうに私たちの脳の神経を刺激し、「古き良きマンハッタン」のイメージを思い起こさせるかを把握しているデザイナーの力は、どんな特殊効果でも置き換えることはできない。見る者の目を操作するには、まず、人が何を見ると何を想起するのかを理解していなければならない。さらに、有名な場所や物を使って特定のイメージを喚起させるには、まず最初に、有名な場所とはどこなのかを定義できなければ話にならない。

 

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