BY NATSUME DATE, PHOTOGRAPH BY SHINSUKE SATO
日本に、初のオペラ、バレエ専用劇場をもち、オペラ、バレエ、ダンス、現代演劇を専門に上演する国立劇場「新国立劇場」ができたのは1997年のこと。それまでは、オペラといえば海外の有名歌劇場による超高額なチケット代の引っ越し公演か、国内で地道に活動する日本人のカンパニーによる上演か。おもな選択肢はそんなところで、オペラは限られた富裕層とマニアのものでしかなかったと言っていいと思う。
新国立劇場の誕生によって、海外の優れたオペラのクオリティを担保しつつ、手の届く価格で水準の高いオペラが観られるようになり、観客のすそ野はだいぶ広がった。そして昨秋2018-2019シーズンから、オペラ部門の芸術監督に世界の第一線で活躍中の、脂の乗ったスター指揮者、大野和士が就任したことで、日本のオペラ・シーンは次なる段階へと踏み出しはじめた。
「日本からすぐれた新制作のオペラを発信すること」というのが、大野芸術監督ならではの明確な方針だ。これまでにも日本で新たに制作されるオペラはもちろんあった。が、ただ日本で上演して終わりでは、展望がない。日本で創った作品が世界の注目を集め、輸出されるようになる次元を目指さなければならない、というのだ。そこで活かされるのが、ヨーロッパの最前線で活躍する旬のアーティストや、レジェンド級の大物など、大野自身が彼らと仕事をともにしてきたことで培われた経験と知見。
「ヨーロッパで売れっ子の演出家が日本にやって来て新たな演出作品を手がけ、日本で初演する。そうすれば当然、世界中のオペラ関係者が注目することになり、『じゃあうちの劇場でもやってくれ』と、海外の歌劇場から声がかかる。つまり新国立劇場の創った作品が海外に売れて、歌劇場としての認知度も高まるというわけです。
今年はさっそく、世界でいちばん忙しい演出家のひとり、アレックス・オリエを呼んで『トゥーランドット』の新演出をしてもらいます。これはもう、すごいスペクタクルですよ。高さ11メートルの壁みたいな装置があって、その上からトゥーランドットが降りてくるんです。劇場の天井を超える高さですから、大変だよと忠告したんですが、彼は『絶対に妥協できない』と言うんですよ。そういうところにこだわるのが、一流のアーティストなんですよねぇ。楽しみにしてください。ほんとにビックリしますから!」
そう話す様子がじつにエネルギッシュかつチャーミングで、一気に引き込まれてしまう。このカリスマ性とパワーが、大勢の人々を駆り立て動かしてゆく、歌劇場の原動力になるのだろう。