“キング・オブ・ショービジネス”のボブ・フォッシーの威光は、急逝から30年以上たった現在も衰えを知らない。そこには、フォッシーの偉業を形骸化させず、真意をていねいに伝えることに邁進する、チェット・ウォーカーのような愛弟子の存在がある

BY NATSUME DATE, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 6月10日に日本キャスト版が開幕した『ピピン』は、2013年にトニー賞の最優秀リバイバル作品賞など主要4部門を受賞したブロードウェイ・ミュージカルだ。そのオリジナル版の初演は1972年。映画『キャバレー』でアカデミー賞、テレビ『ライザ・ウイズ・ア・Z』でエミー賞を取ったボブ・フォッシーの構想および演出・振付によるもので、フォッシーはこの舞台『ピピン』ではトニー賞(最優秀ミュージカル作品賞と同振付賞)を獲得。アカデミー、エミー、トニーのアメリカ三大ショービズ賞をひとりで、しかも一度に受賞するという、前人未踏の快挙を成し遂げた。

 チェット・ウォーカーは、『ピピン』をはじめとするフォッシー作品の数々にダンサーとして出演し、振付や演出のアシストを担った、当時のフォッシーの仕事ぶりと人となりをもっともよく知る人物のひとり。今回のリバイバル版『ピピン』でも、振付だけでなく、作品のスピリットをキャストやスタッフに伝える重要な役割をつとめている。

画像: チェット・ウォーカー(CHET WALKER) 演出家・振付家。ダンサーとして16歳の時からブロードウェイの舞台に出演。20歳の時にボブ・フォッシー振付・演出『ピピン』初演に出演し、以後『ダンシン』『スィート・チャリティー』リバイバル版などフォッシーの作品でダンス・キャプテンやアシスタントとして活躍。1999年フォッシー作品の名場面で綴る『フォッシー』では構成・振付等で中心的役割を担いトニー賞最優秀ミュージカル作品賞を受賞。2012年ブロードウェイ初演のこの『ピピン』リバイバル版では振付を担当しながら、フォッシーのレガシーを伝授。そのほか多数のプロジェクトを抱えつつ、ダンサーの育成にも積極的に取り組んでいる

チェット・ウォーカー(CHET WALKER)
演出家・振付家。ダンサーとして16歳の時からブロードウェイの舞台に出演。20歳の時にボブ・フォッシー振付・演出『ピピン』初演に出演し、以後『ダンシン』『スィート・チャリティー』リバイバル版などフォッシーの作品でダンス・キャプテンやアシスタントとして活躍。1999年フォッシー作品の名場面で綴る『フォッシー』では構成・振付等で中心的役割を担いトニー賞最優秀ミュージカル作品賞を受賞。2012年ブロードウェイ初演のこの『ピピン』リバイバル版では振付を担当しながら、フォッシーのレガシーを伝授。そのほか多数のプロジェクトを抱えつつ、ダンサーの育成にも積極的に取り組んでいる

「1970年代に創った『ピピン』をただ再現しようとしたら、フォッシーさんはきっと怒ったでしょう。過去を振り返ったり、同じところに留まっていることが大嫌いな人でしたからね。今回の『ピピン』は、彼のテイストやスタイルを残しつつ、21世紀の今にフィットする新しいものになったと自負しています。サーカスの世界で物語が展開するという、演出のダイアン・パウルスのアイディアも素晴らしい。ゴージャスでミステリアスな見た目だけでなく、観客と舞台のあいだを継ぎ目なくつなげる効果を、見事に果たしています。フォッシーさんもサーカスが大好きだったんですよ。生きていたら、きっとこの舞台を気に入っていたと思うな」

「初演時の内容に固執するようなことは一切言わない」と、日本側スタッフが感心するウォーカーの姿勢は、まさに過去をなぞることを嫌悪したフォッシーの精神を引き継いだものなのだろう。そんな彼がダンサーとしてフォッシーに出会ったのは、19歳のとき。

画像: サーカス小屋を舞台にした今回の『ピピン』。アクロバットはブロードウェイ公演に出演していたパフォーマーたち © GEKKO

サーカス小屋を舞台にした今回の『ピピン』。アクロバットはブロードウェイ公演に出演していたパフォーマーたち
© GEKKO

「彼は私のことを、すごく面白い子だと思ったらしいんです。私たちのあいだには恋愛感情もなく、変に気を遣う必要もなかったせいか、私が畏れを知らないイノセントな人間に見えたらしい。私は自分自身のことを十分シニカルな人間だと思ってたので、その評価はいかがなものかと思うんですが(笑)」。終始早口でテンポよく、ときにおちゃめな表情を見せながら語る。

 ダンス・キャプテンやアシスタントを任されるようになると、厳しい言葉をかけられることもあったという。「でも、顔はいつも笑顔なんです。たとえば、劇場に朝9時集合といわれたので、8時59分くらいに行くと、フォッシーさんはすでに舞台にいる。駆けつけて「おはようございます」と言うと、フォッシーさんが「いま何時?」と聞くんです。「えーと、9時2分くらいです」と答えると、「僕は7時からここにいたよ」。これで会話は終わり。翌日も集合時間は同じだったので、6時30分に行って彼を待つことにしましたよ。

怒ることは一切なく、ただ『自分は7時に来ていた』と言うだけ。怒鳴ったりわめいたりしても、いい結果は得られないことを知っていたんでしょうね。そうやって人を操作することができる人でした。操作なんて言うとネガティブな意味に聞こえるかもしれませんが、演出家の仕事とは、そういうものです。相手にどう言えば、こちらがイメージするように動いてくれるかが重要なのですから。スマートな行為で、とても勉強になりました」

 

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