62年ぶりの復曲が話題に
豊竹呂勢太夫・竹澤團七が語る
義太夫『かさね』の魅力

KASANE PROJECTーー Interview with Toyotake Rosetayu&Takezawa Danshichi
清元『かさね』初演200年を記念したKASANE PROJECT。清元栄寿太夫(尾上右近)と清元斎寿に続き、今回は義太夫『かさね』でシンを勤める、人形浄瑠璃文楽座の豊竹呂勢太夫と竹澤團七のインタビュー。62年ぶりの復活となる義太夫『かさね』への意気込みを語った

BY AYANO TANAKA, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 清元と義太夫が、同じ演目『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)』(通称『かさね』)で、それも素浄瑠璃で共演するという意欲的な公演が話題を集めている。その義太夫の語りを勤める豊竹呂勢太夫は、尾上右近の自主公演、第五回研の會(2019年)で上演された『酔奴』に出演しており、今回の清元との共演にも縁を感じている。今年、米寿を迎える三味線の竹澤團七は、文楽座の現役技芸員のなかでは最高齢だ。

画像: 人形浄瑠璃文楽座の太夫、豊竹呂勢太夫(左)と三味線の竹澤團七(右)

人形浄瑠璃文楽座の太夫、豊竹呂勢太夫(左)と三味線の竹澤團七(右)

―義太夫『かさね』62年ぶりの復曲にあたって

Q: 清元『かさね』初演200年記念に際し、義太夫の『かさね』を62年ぶりに復曲することになりました。清元『かさね』は大正時代に歌舞伎舞踊で復活すると大人気となり、文楽では1936年に四世鶴澤重造(1899年-1987年)によって義太夫化され、1961年まで繰り返し上演されていましたが、それ以来、上演が途絶えています。今回の復曲についてお聞かせください。

呂勢太夫:私は13歳の時に重造師匠から三味線の手ほどきを受けていましたので、今回、重造師匠が作曲された『かさね』の復曲に関わることができて、たいへん嬉しく思っています。他流(長唄、常磐津、清元など)の作品を題材とした義太夫節には『連獅子』や『釣女』、『団子売』など今でも上演されている作品があります。重造師匠もおなじように作曲されたもので有名なのは『紅葉狩』です。しかし、過去の上演記録をみると、『紅葉狩』よりも『かさね』の方がはるかに数多く上演されていました。今回、尾上右近さんとのご縁もあり、義太夫『かさね』を62年ぶりにお披露目できることになってよい機会をいただきました。

Q:復活にあたり、團七師匠に復曲をお願いされた理由は?

呂勢太夫:しばらく上演が途絶えていたものを復曲する場合は、できればそれが上演されていた時に出演されていた方に復曲していただくのが一番いいのです。62年前ですから、もう少し早ければ、教えてもらえるお師匠さんたちはたくさんいらしたのですが……。上演記録を見ていたところ、團七師匠が前名の団二郎時代に出ていらしたことがわかって。それで團七師匠にお願いしたところ、快くお引き受けいただきました。

画像: 竹澤團七(TAKEZAWA DANSHICHI) 人形浄瑠璃文楽座三味線奏者。義太夫好きの両親の影響で、幼少のころより歌舞伎や文楽に親しむ。義兄が故吉田文雀(人形浄瑠璃文楽座人形遣い・人間国宝)だったこともあり、18歳の時、十世竹澤弥七に入門、四世竹澤団二郎を名のる。翌年の1954年、四ツ橋文楽座にて初舞台。1981年四世竹本津太夫の相三味線となり竹澤團七と改名。1987年9月の津太夫の死去まで相三味線を勤める。2016年に放映されたNHK木曜時代劇「ちかえもん」では義太夫指導を行い、竹澤権右衛門役で出演。作曲や復曲にも意欲的に取り組んでいる。今年、米寿を迎え、現在の現役文楽座技芸員の中では最高齢

竹澤團七(TAKEZAWA DANSHICHI)
人形浄瑠璃文楽座三味線奏者。義太夫好きの両親の影響で、幼少のころより歌舞伎や文楽に親しむ。義兄が故吉田文雀(人形浄瑠璃文楽座人形遣い・人間国宝)だったこともあり、18歳の時、十世竹澤弥七に入門、四世竹澤団二郎を名のる。翌年の1954年、四ツ橋文楽座にて初舞台。1981年四世竹本津太夫の相三味線となり竹澤團七と改名。1987年9月の津太夫の死去まで相三味線を勤める。2016年に放映されたNHK木曜時代劇「ちかえもん」では義太夫指導を行い、竹澤権右衛門役で出演。作曲や復曲にも意欲的に取り組んでいる。今年、米寿を迎え、現在の現役文楽座技芸員の中では最高齢

Q:團七師匠は、団二郎のお名前での初舞台が1954年の18歳の時でした。その年に二回ほど『かさね』の公演があり、三味線の並びで弾いていらっしゃいますが、その当時の舞台を覚えていらっしゃいますでしょうか。

團七:いやそれがね、松竹の時代(註:文楽座は当時、因会と三和会とに分裂しており、因会が松竹の経営)というのは本当に忙しくてね。今とは比べものにならないほど、朝から夜までいくつもの演目を上演していたわけです。必ず景事(舞踊)や道行物が入るのですが、『かさね』もその中のひとつでした。私は文楽の世界に入ったばかりで、覚える作品がたくさんあって、残念ながら当時の舞台そのものは覚えていません。ただ、私は小学校の時から文楽と同じぐらい歌舞伎もよく観ていまして。『かさね』といえば、十一世團十郎が海老蔵時代の与右衛門を観ていますが、その足が大変綺麗だった!ということはよく覚えています(笑)。

Q:團七師匠はこれまでも新作の作曲や過去の埋もれた作品の復曲を担当されていますが、『かさね』の復曲はいかがでしたか。

團七:『かさね』を作曲されたのは重造師匠ですが、この方は勉強熱心な方でしたから、その師匠の作曲されたものを復曲するというのは、たいへんなことを引き受けてしまった、と思いました。復曲、あるいは義太夫で新しく作曲する時も同じなのですが、まず語りのことを考えなければなりません。たとえば三味線が「チンチンテン」と弾いた時に、語りがどういう旋律を語るのか、というのを常に思い浮かべながら復曲するのが難しいです。次に芝居の運びを考えなければなりません。清元『かさね』は人間の芝居ですが、こちらは人形の芝居ですから、間合いやテンポは自ずと違ってきます。人形遣いが人形を動かす間や繋がりなども考えながら復曲をしました。

呂勢太夫:團七師匠の曲は、どの作品もそうですが、メロディラインがとても綺麗なのです。かつて私の師匠の南部太夫も團七師匠が作曲されたものを聴いて、いい旋律だと仰っていました。

画像: 豊竹呂勢太夫(TOYOTAKE ROSETAYU) 人形浄瑠璃文楽座太夫。13歳の時に四世鶴澤重造に師事、義太夫の手ほどきを受け、1982年に国立劇場文楽第8期研修生に編入。1984年に五世竹本南部太夫に入門、竹本南寿太夫と名のり、同年国立文楽劇場で初舞台。1985年10月五世豊竹呂太夫の門下となる。1988年4月、豊竹呂勢太夫と改名、2000年八世豊竹嶋太夫の門下となる。語り口の爽やかな美声と豊かな声量は、明快にして新鮮な芸風を生み出し大きな魅力となっている。本格の時代物をこなす力量をもつ一方、新作物にも力を発揮し、芸域を広げるなど、次代の文楽を担う太夫として大きな期待が寄せられている

豊竹呂勢太夫(TOYOTAKE ROSETAYU)
人形浄瑠璃文楽座太夫。13歳の時に四世鶴澤重造に師事、義太夫の手ほどきを受け、1982年に国立劇場文楽第8期研修生に編入。1984年に五世竹本南部太夫に入門、竹本南寿太夫と名のり、同年国立文楽劇場で初舞台。1985年10月五世豊竹呂太夫の門下となる。1988年4月、豊竹呂勢太夫と改名、2000年八世豊竹嶋太夫の門下となる。語り口の爽やかな美声と豊かな声量は、明快にして新鮮な芸風を生み出し大きな魅力となっている。本格の時代物をこなす力量をもつ一方、新作物にも力を発揮し、芸域を広げるなど、次代の文楽を担う太夫として大きな期待が寄せられている

―義太夫『かさね』の魅力

Q:清元『かさね』も旋律は美しいですね。先日、清元栄寿太夫さんと斎寿さんのインタビューでも、お二人が義太夫『かさね』をとても楽しみにされていました。義太夫『かさね』の魅力はどのようなところでしょうか?

呂勢太夫:過去の上演記録を見ても、太夫は美声の方たちが勤めています。とはいえ、義太夫らしさが満載です。義太夫は情緒的というよりは、直接的な……うーん、なんて表現すればいいのかな。まあ、くさいといえばくさいのですが(笑)、義太夫ファンが喜ぶような、そういう美味しい節がたくさんついています。

團七:他流のものを義太夫に移すとき、大体はね、原曲をあまり変えずにそのままの作品になってしまうのですよ。冒頭は義太夫だけど、あとはそのままの曲という感じで。『かさね』は重造師匠の作曲ですから、全てが義太夫のオリジナルな旋律になっています。

Q:義太夫らしさということですが、具体的な特徴はありますか?

呂勢太夫:義太夫には、内容を表現するのにふさわしい決まった旋律の型があり、それを物語の状況に当てはめて、組み換えて作ることにより、義太夫らしさが出るのですが。

團七:復曲するときに重造師匠の朱(譜面)をみると、ただ「メリヤス」(場面の雰囲気に合わせて三味線だけで短い旋律を繰り返す演奏)とだけしか書いていないところがあるのですよ。文楽にはたくさんのメリヤスがあります。それで困ったなあと思って、「カサヤ」というメリヤスにしました。「カサヤ」というメリヤスは、女性の立ち廻りの時に演奏する文楽特有のメリヤスです。

呂勢太夫:その後、出演されたことのある他の方が書き写した朱をみると、ちゃんと「カサヤ」のメリヤスと書いてあるのですよ。團七師匠が思いつかれた通りです。

團七:あとは、義太夫にはね、何とも言えない奥深い間合いというのがあるのですよ……。私は師匠(十世竹澤弥七)からは、三味線には一撥も意味のない撥はないから、意味を考えて弾きなさいと言われてきました。たとえば、『酒屋』のお園(他の女性と恋仲のため家に帰らない夫を待つ女性)の、「今頃は半七つあん」「チン」「どこにどうしてござろうぞ」の「チン」と一撥あるのですが、そのたった一撥の「チン」に帰らぬ夫のことを想うお園の心情や情景などを表現するように弾けと言われました。文楽の三味線弾きの仕事は、「模様」を弾くといって、登場人物の心情や景色など様々なものを、音色を通じて表現することです。三味線も太夫と同じようにとは言いませんが、それでも語る芸なのです。

画像1: 62年ぶりの復曲が話題に
豊竹呂勢太夫・竹澤團七が語る
義太夫『かさね』の魅力

Q:文楽で上演される「かさね物」といえば、『薫樹累物語(めいぼくかさねものがたり)』がありますね。

呂勢太夫:2016年に「土橋の段」を語ったことがあります。この「土橋の段」でかさねが与右衛門に殺されるのですが、文楽の与右衛門は悪人ではないのですよね。今回上演する『色彩間苅豆』の方は与右衛門が悪人、歌舞伎でいう色悪(外見は二枚目で性根は悪人の役)ですし、かさねが可哀想ですよね。信じていた相手に裏切られて、身体も不自由になって、殺されて……。かさねが可哀想だとお客様に感じてもらえるように語りたいです。

團七:私もその公演のとき、別の段に出ていたのですが、公演直後に腕に大怪我をしてしまいました。「かさね物」だったのですが、お詣りに行けなかったものですから……(苦笑)。今回は茨城県羽生町(かさね伝説が伝わる地)の法蔵寺さんでかさねのお墓参りをさせていただきました。復曲は、まだ少し手直しが残っていますが、公演までによい形の曲に仕上げて臨みたいと思います。

―復曲への意気込み

Q:62年ぶりの義太夫『かさね』の復曲に対する意気込みを改めてお聞かせください。

呂勢太夫:なるべく初演時(1936年)の形で復活したいと思っています。初演は昭和を代表する美声家の七世竹本土佐太夫師匠(当時:四世伊達太夫)がかさねを語り、人形は当時の大スターであるお二人、吉田文五郎師匠が与右衛門を、桐竹紋十郎師匠がかさねを遣われました。『かさね』はドラマも魅力ですが、今回は素浄瑠璃ですから音曲的な良さを味わっていただきたいですね。お芝居というと、どうしてもドラマ重視になりますが、義太夫には三味線音楽の音曲としての面白さもあります。

團七:清元も浄瑠璃ですが、どちらかと言えば唄の側面が強いですから、両方をお聴きになると、唄う音曲と語りの音曲の魅力があって、お客様はどちらも楽しまれるのではないでしょうか。

―『かさね』の素浄瑠璃公演、清元との同時演奏に向けて

Q:最後に8月12日のKASANE PROJECTに向けて、一言ずつお願いいたします。

呂勢太夫:今回の企画の魅力は、やはり清元と義太夫とを聴き比べることができる点ですよね。清元にとって『かさね』は代表作ですから練り上げられていますが、義太夫は復曲ですから、頑張っていいものにします。清元は江戸の粋(イキ)ですが、同じ文字でも上方で生まれた義太夫の場合は粋(スイ)なので、東西の芸風の違いを味わっていただけると思います。怪談物ですから、夏の公演にもぴったりです。

團七:私はねえ、師匠からは「我々の義太夫は泥臭いもんだ!」と言われました。ですから、今回のテーマは「粋(イキ)と泥臭さ」でもいいのではないでしょうか(笑)。同じ詞章ですが、随分、印象が違うものになると予想しています。それをお楽しみください。

インタビュー最後に團七から、今回の公演のテーマが「粋(イキ)と泥臭さ」と出て、皆が温かな笑いに包まれた。今年、88歳になる團七は、終始、にこやかに、冗談を交えながら、呂勢太夫とともに文楽の昔話からいまの舞台まで芝居談義に花を咲かせた。お二人の姿からは、先人たちへの尊敬と何よりも義太夫を語り、演奏することへの溢れる愛が伝わってきた。清元『かさね』と62年ぶりに復活する義太夫『かさね』。インタビューから、義太夫『かさね』が趣の異なる曲になりそうで必聴だ。一日だけの、まさに一期一会の素浄瑠璃公演は、それぞれの音曲の奥深い魅力を堪能できる公演になることは間違いない。

協力:青山「ARTS」

※KASANE PROJECT取材第一弾、清元『かさね』を演奏する清元栄寿太夫(尾上右近)と清元斎寿へのインタビュー記事はこちら>

KASANE PROJECT VOL.1 素浄瑠璃「色彩間苅豆」
上演日程:2023年8月12日 (土) 午後5時開演
演目:清元「色彩間苅豆」
    義太夫「色彩間苅豆」
    座談会
会場:国立文楽劇場 小ホール
住所:大阪府大阪市中央区日本橋1-12-10
料金:¥5,500(全席指定・税込)
チケット予約:6月30日(金)~
問い合わせ:株式会社コテンゴテン
  https://coten-goten.com/
   電話番号 070-8428-8515

画像2: 62年ぶりの復曲が話題に
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