BY SHINICHI NAKAZAWA, EDITED BY ITOI KURIYAMA
動植物は種を見分けるのに好都合な、特徴のある形態をしている。動物たちは海に棲むもの、陸上を歩くもの、空を飛ぶものの三つに大きく分類され、それぞれが特徴ある身体の形態や色彩を備えている。鳥は羽根の色、くちばしのかたち、生活形態などにおいて、めざましい特徴的差異をしめす。植物の場合もお互いのしめす差異は目につきやすい。植物の生殖器である花は、文字どおり千変万化の変化を見せる。じつに動植物の世界は差異に満ちており、お互いを見分け、分類するのに好都合にできている。
そのため、人類は旧石器時代からすでに、人間集団を互いに区別するために、動植物のしめす差異を利用してきた。これが人類学で有名な「トーテミズム」である。トーテミズムでは、ある集団はインコ、別の集団は大ワシ、あるいは熊や虎などと呼ばれて、自分をほかの集団から区別した。親族組織も結婚制度も食料の分配なども、こういうトーテミズム的区別をもとにコントロールされた。人間はみな同じような姿形をしているので見分けるのが難しいが、こうして動植物の区別しやすい差異を利用して、「私はインコ族」「私は熊族」などという社会分類をつくっておけば、社会内部に物と人の交換によるダイナミックな動きを生み出しやすい。こうして各トーテム集団は各自の紋章をもち、そこには自分たちが深い関係をもつ動植物の図案が描き込まれた。
このトーテミズムが「ファッション」のひとつの起源をなした。自分の属する集団をほかの人々から区別するために、それぞれの集団は自分と関係の深い動植物の形態的特徴を美しく図案化して、衣装に縫いつけて、それをお祭りや結婚式の祝宴やおごそかな儀式の折に着用した。のちに「民俗衣装」と呼ばれることになる衣装デザインは、そこから発生したのである。じっさい民俗的な衣装には、鳥や爬虫類やさまざまな植物をかたどった意匠が、好んで縫いつけられている。
しかし装身具に描かれた動植物のデザインは、戦士=騎士=貴族階級にとっては、別種の意味をもっている。戦争集団でもある彼らは、戦場において敵と対峙したときに、もはや平常の人間ではいられない。戦場で生き残るためには、戦士の精神は通常の人間を超えた存在へと、生成変化をとげていかなくてはならない。そこで戦士たちは、人間を超えた領域に棲む生き物である獰猛(どうもう)な虎や獅子や蛇と一体化して、超準的な存在に自己変容していこうとした。
そのために、戦士は自分の乗る馬や戦闘で用いる盾や旗などに、これら非人間の領域に棲む強力な動物たちの姿を図案化した紋章を着装した。貴族とは死をも恐れぬ精神の持ち主の謂(いわ)れである。戦闘における彼らは、人間でありながら人間を超えた領域への生成変化をとげたものであると誇示するために、馬具や武具に動植物の意匠を着装した。