BY NORIO TAKAGI
「太陽王」と呼ばれたルイ14世、その息子ルイ15世は「最愛王」と称賛された。フランスの宮廷文化が花開いた18世紀のその時代、欧州各地の職人や芸術家は、ヴェルサイユを目指した。そこにある宮殿に集う各国の王侯貴族が、彼らの重要な顧客となったからだ。その中には、時計師も少なからずいた。そして裕福な顧客を得たことで、時計機構はこの地で大きく進化を果たすこととなる。
時計ブランド「BREGUET(ブレゲ)」の創業者アブラアンールイ・ブレゲも若き頃、ヴェルサイユに住む時計師の下で修業をしたという。今ある時計機構の多くを革新・発明した“稀代の天才”と呼ばれる彼は、アラビア数字や針のデザインにもその名を残す優れた美的センスの持ち主でもあった。
Vol.1にて既報通り、去る5月14~16日にスウォッチ グループ傘下の6つの高級時計ブランドは、独自の新作時計発表会「TIME TO MOVE」をスイスで開催した。むろんブレゲも、その6ブランドのひとつに含まれる。
フランスとの国境に横たわるジュウ渓谷の街ロリエントに位置する「ブレゲ マニュファクチュール」で披露された新作の中で、招待客が息をのんで見つめたのが、「クラシック トゥールビヨン エクストラフラット スケルトン 5395」だった。時計にかかる重力の平均化を計り、精度を向上させるトゥールビヨン搭載モデル。初代ブレゲが発明したこの複雑機構を、現代のブレゲは究極の薄さに革新してみせた。
さらにその最新作である本作は、ムーブメントを構築する金属プレートであるダイヤル側の地板と裏蓋側のブリッジとを手作業でスケルトナイズし、工芸的な美を与えた。各パーツが支えられるギリギリにまでオープンワークされた地板の随所には、やはり初代ブレゲが時計のダイヤルに初めて用いたギヨシェと呼ばれる実に繊細な彫り装飾も施されている。それに使われる道具は、初代が生きた時代と同じ仕組みの手彫り旋盤。ダイヤモンド製の刃を新たに考案し、細いフレームへの手彫りがかなえられた。偉大なる創業者の発明と美意識とを、現代のブレゲは受け継ぎ、進化させる。
このモデルに象徴されるように、精巧な機構を持つだけでは、真の高級時計とは呼べない。機械式時計が進化した18~19世紀当時、顧客であった王侯貴族は、精緻なメカニズムと同時に華やかな外装を望んだ。エナメルやエングレービング(彫金)、宝飾などなど、様々な工芸技巧と融合しながら、高級時計は今日まで美も研鑽してきたのである。