アフリカはファッションの救世主となるか。栗野宏文がファッションの持つ力と希望をアフリカ・ナイジェリアの若手アーティストたち――カダラ・エニヤシや南アフリカのテベ・マググ、そして日本の新進ブランドとの交流から感じた、これから始まるものとは?

BY HIROFUMI KURINO, JUN ISHIDA(対談), PHOTOGRAPHS BY YUSUKE ABE

 私がこれらに関わる理由は、“ファッションとは単なる服の流行ではない”と考えるからだ。ファッションは変化(Change)を楽しむものであると同時に、ファッションは世界を変える(Change)ことができるものと信じる。アフリカ発の新しい美意識や創造性を支援しつつ、地元に利益や雇用を生み出す産業も興隆させるべきだろう。

 冒頭に挙げたデザイナーのテベを、東京で行ったFACE.A-Jでも紹介したが、彼は商品に製作過程や素材背景を知らせるチップをつける。ナイジェリア人デザイナーのケネス・イゼは、母国伝統の手織り技術を作品に取り込む。彼もLVMHプライズでセミ・ファイナルに残った一人だ。

画像: アニャンゴ・ムピンカは、モデルがダンスを繰り広げる躍動感に満ちたショーを発表。ケニア出身で、ファッションを正式に学んだ経験はないが、ファッションへの情熱から2015年にブランドを立ち上げた。年間最優秀ケニアデザイナーに2回ノミネートされている

アニャンゴ・ムピンカは、モデルがダンスを繰り広げる躍動感に満ちたショーを発表。ケニア出身で、ファッションを正式に学んだ経験はないが、ファッションへの情熱から2015年にブランドを立ち上げた。年間最優秀ケニアデザイナーに2回ノミネートされている

 もともとアフリカは素晴らしい色彩感覚とアクセサリー使いのお洒落(しゃれ)達人の宝庫である。NHKのドキュメンタリーにもなったコンゴの「SAPEURS(サプール)」(お洒落紳士集団)という伊達男たちの哲学は、お洒落に生きること。言うなれば“お洒落道”。お洒落は相手を尊重し、次世代に価値観を伝え、争いごとを起こさない......と主張する。およそ“お洒落する”という概念がない人種は皆無だろう。服を選び着る行為を通して、人は自己を発見する。最高技術の仕立て服から腰布まで、纏う行為には“人間であることの理由としてのファッション”が存在していたはずだ。だが、肥大化した産業や過剰な消費の渦中にいて“ファッションの魂”は失われつつある。こうした現状の打破もFACE.A-Jでは目指したい。

画像: sulvamの服を着て演奏した、“民謡クルセイダーズ”

sulvamの服を着て演奏した、“民謡クルセイダーズ”

画像: FACE.A-Jに参加した日本のデザイナーの作品。左は山縣良和が手がけるcoconogaccoから選出された若手デザイナーユニットCOYOTEの作品。右はイエール国際モード&写真フェスでグランプリ受賞のWataru Tominaga

FACE.A-Jに参加した日本のデザイナーの作品。左は山縣良和が手がけるcoconogaccoから選出された若手デザイナーユニットCOYOTEの作品。右はイエール国際モード&写真フェスでグランプリ受賞のWataru Tominaga

 バズを起こすことやソーシャル・メディアに過度に依存する現在の業界に閉塞感をおぼえるジャーナリストたちは、ラゴスで行われたファッション・ウィークに赴いている。“多様性を尊重する”理由はモラルの意識からだけではない。ダイバーシティは革新的な視点や価値観を生み育て、新たな経済効果を生むものでもある。違いがあるから美しく、違いを楽しむ。それはファッションの原点であり可能性でもあるのだ。最後に、私がアフリカを“先進国”と見る理由を記しておこう。

1.貧困ゆえに農薬が買えない、ゆえにオーガニックな土壌がある。エチオピアのコーヒーや綿が注目されている理由のひとつでもある。
2.インフラが整う以前に携帯電話が発達した結果として、安全という意味で、電子マネーや電子銀行が浸透しつつある。
3.ルワンダではポリ袋禁止が徹底され、他国も後を追う。
4.高価な石油などに代わるエネルギーとして、太陽光、風力、水力などの自然エネルギーが急速に発展しつつある。

 そしてファッション本来の独創性と着る喜びを伝える国......。アフリカにさまざまな未来を見るのは、私だけではない。

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