身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む

TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

画像1: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.16 チャコットのバレエウェア

 40代に入った頃からか、だんだん身体が重たく感じるようになってきました。お腹まわりも何だかもたつく。これまでせっせと溜め込んできた洋服のサイズが合わなくなっては困るし、土台となる身体に違和感があってはファッションを心置きなく楽しめない気がします。かと言って、全然グルメではありませんが大好きな飲み食いは我慢したくはない。そこで、思い切って運動をスタートすることにしました。

 ミーハーゆえにファッション関係のイベントには意気揚々と出向くのですが、基本的にはインドア派で、暇さえあれば配信ドラマやリアリティ番組を観ています。自然を愛でる感性が欠落していることもありキャンプや山登りといったアクティビティには全く関心が持てず、口呼吸で生きてきてしまったので腹式呼吸を強要されるヨガやピラティスは苦しみでしかない。そんな私が手を出せそうな運動とは何か。思い当たったのは、バレエでした。

画像2: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.16 チャコットのバレエウェア

 実は、3歳から高校卒業まで地元のバレエ教室に通っていて、何よりも舞台で煌びやかな衣装を纏ってスポットライトを浴びるのが好きでした。わりと柔軟性はあった気がするのですが、大学に進学して東京のバレエ教室に行ってみたらテクニックは大して身についていなかったことに愕然とした記憶があります。以降は大阪に移ったり、仕事が忙しくなったりで、時折思い出したように再開することもあったのですが、すっかり遠のいていました。

 そんなこんなで、徒歩圏内にあって時間に融通が効く、という理由でバレエ・ダンス用品を展開するチャコットが運営するスタジオに改めて入会してみることに。コロナ禍で中断したりはしましたが、時間が空けばできるだけレッスンに参加するようにしています。

 すっかり身体も硬くなってしまい、記憶力低下で振りも全然覚えられなくなっているし、そもそも扁平足なのでトウシューズを履くのには向いていない。レベルアップは考えず、ともかく少しでも身体を軽くするのを目的に掲げて粛々と取り組むつもりでした。かつて愛用していた、だまっていても自然と汗が出るサウナウェアをはじめ、当初は手持ちの練習着でやりくりしていたのですが、周囲の参加者を見ているといろいろなタイプが展開されていそう。割引もきくからとチャコットのお店に足を踏み入れたが最後、ファッション心がむくむくと湧き上がってきてしまったのでした。

 バレエの世界はやはりパステルカラーが主流で、レオタードには昔はなかった柄物やメッシュ素材、レース使いが増えている。「タイツとシューズはピンクベージュに限る」とそこだけはなぜか保守的なのですが、レオタードやサウナウェアは黒をはじめ、ベージュ、カーキ、グレーといったシックな色味で自分の好みに極力合うデザインを見つけてはスタイリングするのがちょっと楽しくなってきてしまいました。全然冷えを感じるタイプではないのに、全体のバランスを取るためだけにレッグウォーマーにも手を出す始末。お店やウェブサイトでバレエ用品をチェックするのが日課となり、今度パリに行ったら、レペット(すっかりファッションアイテムとしてのバレエシューズで名を馳せていますが)を覗いてみようかしらとまで目論見始めています。

画像3: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.16 チャコットのバレエウェア

 スポーツウェアは、鍛え抜かれた肉体やテクニックを有してこそ活きるとはわかっているのですが、どうにもファッション要素を無視できなかった。ますます懐具合も、クローゼットの空きも心配になる今日この頃です。

栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama

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