BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY MIDORI YAMASHITA
そもそも、この“単一食材”の概念は、ブドウに対するクリュッグのリスペクトの精神から生まれたものだった。オリヴィエ氏はこう語る。「これは、“クリュッグ アンバサダー”のシェフたちとのなにげない会話から生まれたものでした。彼らは、食材について知り尽くしたプロフェッショナル。そして、私たちはブドウについて深く知っている。エキスパート同士、ひとつの食材を深く掘り下げたら、どんな楽しみに出合えるのか――。そんな好奇心から始まったものだったのです」
畑には“テロワール”があり、それは畑ごとに様々な個性を見せる。食材を絞ることで、そこにまた新たなシャンパーニュと食のストーリーが生まれるのではないかと考えたという。オリヴィエ氏は続ける。
「“Krug Encounters”は、この楽しみをさらに内的に広げてくれるものだと私は考えます。ここに音楽が加わることで、さらにシャンパーニュが美味しく感じられるようになるのです。たとえば、今日はcobaさんのアコーディオンに加え、木管楽器の演奏がありましたが、特にファゴットと『クリュッグ グランド・キュヴェ』の酸味とのマリアージュはすばらしかった。シャンパーニュは五感で楽しんでこそ、さらにおいしくなると再認識しました」
また、今回、Krug Encountersのディナーで最も盛り上がったのが、オリヴィエ氏と多田氏の“共同作業”による「ちらし寿司ミルフィーユ」だった。多田氏は語る。
「ちらし寿司は、海老や卵があれば世界中どこでも作れると私は思っています。元来、家庭の味ですから、“クリュッグ家のちらし寿司”があってもいい。世界中でクリュッグが飲まれるように、ちらし寿司も世界的なものになってくれたらうれしいですね」
多田氏の言葉を受け、オリヴィエ氏が続けた。
「“単一食材”というテーマを難しく考える必要はありません。これは究極の遊びなのですから(笑)。シャンパーニュは自由に楽しむことが大切。私たちが造っているのは“歓び”です。五感で、それを感じてください」