BY CHIZURU ATSUTA, PHOTOGRAPHS BY MIE MORIMOTO, EDITED BY JUN ISHIDA
エシカルな視点における食といえば、食材調達までの工程、農家や環境への配慮、フードロス対策が重要な課題とされがちだが、従業員の働き方や健康、コミュニティへの貢献までを考え、新しい食のシーンを構築するのが、西麻布のフレンチレストラン「レフェルヴェソンス」のシェフ、生江史伸(なまえ しのぶ)だ。同レストランは2018年、食のサスティナビリティという面からも高く評価され、イギリスに本部を置くSRA(サスティナブル・レストラン・アソシエーション)から「サスティナブル・レストラン賞」が贈られた。
現在、生江は日本の食の未来を牽引する一人として注目を浴びている。2018年には、六本木のけやき坂にある「ブリコラージュ ブレッドアンドカンパニー」をオープンさせ、こちらも話題に。取材当日もオープンと同時に人が押し寄せ、ランチ前にはすでに奥のダイニングスペースはいっぱいになっていた。
海外の名店で修業を積んだ生江が帰国して、東京に「レフェルヴェソンス」をオープンしたのは2010年。いわゆる「一流シェフへの道」を順調に歩んできた。店は成功を収めたが、ある疑問が浮かぶ。「はたしてこのレストランは幸せなのか」
「毎日14〜15時間働き続けることや、才能が第一に求められる厳しい競争社会、この先、自分も含めて働くスタッフたちにとって幸せな環境なのかを考えてしまったんです。そこで、レストランのクォリティを保ちながら、かつ従業員が幸せになれる場所をつくらなければならないと僕の中で思いが膨らんでいきました」
レストランの環境を整えながら、一方で新しい業態でチャレンジできることはないかと模索した結果、たどり着いたのが“パン屋”だった。
「高級レストランが非日常だとすると、パン屋は日常にあるもの。日常とはいえ、質をさらに高め、人々の健康だけでなく、僕らが住んでるコミュニティの環境にも貢献できるもの、そしてどんな人間でも挑戦する機会があって、幸せに働くことができるという場所をつくりたいと思ったんです」
コンセプトを立てるときにもまずヒューマンセントリック。“人ありき”で店づくりが始まった。
「実は、従業員はプロの職人ばかりではないんです。未経験でもやりたいという意思があれば働いてもらっていますし、多様性を重視しています。一番大切にしているのは、ここで働く者同士、互いに調和を大切にすること、誰かを押しのけてのし上がっていくのではなくて、全体で店の価値を上げていく。それに対して自分は何ができるのかを考えてもらうことです」
そういう意味でも、暮らしの延長上にあるパン屋というプラットフォームは開かれていて、かつ役割も広く求められるものとしてフィットした。「いつもより少しだけ幸せになれる、ここに来ると落ち着くねとか、そういう寛ぎのある場所にしたい」
日常を彩るパン屋には、「おいしい」を通じてみんなで豊かさを享受できる、幸せな時間が流れている。
「Bricolage Bread & Co.」
生江のレストラン「レフェルヴェソンス」と大阪・北新地のベーカリー「ル・シュクレ・クール」、東京・富ヶ谷のコーヒーショップ「フグレン」といった異なるジャンルの3つの店のコラボレーション。パンと料理とコーヒーがメインとなる。テイクアウトも可能。フランス語の“Bricolage(ブリコラージュ)”は、英語で“DIY(Do It Yourself)”の意味。
住所:東京都港区六本木6-15-1 けやき坂テラス
営業時間:8:00〜21:00
定休日:月曜(祝日は営業)
電話:03(6804)3350
公式サイト