フランスのミシュラン3つ星レストラン「Mirazur(ミラズール)」を手がけるシェフ、マウロ・ コラグレコ氏が、彼の日本初出店のフレンチレストラン「CYCLE(スィークル)」でフェアを開催。食材や料理に対するシェフとしてのこだわりと哲学を聞いた

BY SAE HARADA

 2019年度の「世界のベストレストラン50」で1位に輝いた「Mirazur(ミラズール)」を率いるシェフ、マウロ・コラグレコ氏が来日し、3月28日から30日まで大手町のフレンチレストラン「CYCLE(スィークル)」にてレモンフェアが開催され、レモンと柑橘類を生かした料理が提供されるランチに赴いた。

 マウロシェフによる日本初出店のレストラン「CYCLE(スィークル)」。その店名は、「このレストランと美食の体験を通して、常に生まれ変わる自然の美しさ、循環するエネルギー、そして私を魅了するすべての生物の相互作用を再表現したい」というマウロシェフの思いから名付けられた。

 店内は天井が9メートルと非常に高く、植物も多く配置されている。当日は天気のよさも相まって、ガラス張りの窓から自然光が降り注ぐほど差し込み、まるで心地よい森の中にいるかのような錯覚を起こすほどの魅惑の空間が広がっていた。

画像: 広々として居心地のよい店内 COURTESY OF GRANADA INC.

広々として居心地のよい店内

COURTESY OF GRANADA INC.

画像: TAPAS4種(写真上)タルト:パイ生地、レモンクリーム、ジェル キャビア (右上)ラビオリ:リコッタ、柑橘ゼスト(中央下)チアシードタコス:馬肉のタルタル、仏手柑コンフィ(左上)クリスピー海苔で白身魚とライムを巻いたもの

TAPAS4種(写真上)タルト:パイ生地、レモンクリーム、ジェル キャビア
(右上)ラビオリ:リコッタ、柑橘ゼスト(中央下)チアシードタコス:馬肉のタルタル、仏手柑コンフィ(左上)クリスピー海苔で白身魚とライムを巻いたもの

 前菜のTAPASのタルトは華やかな菊に盛り付けされていて写真映えも確実だ。ラビオリはクリーミーさと爽やかな味わいで、ソムリエがセレクトしたシャンパーニュ「ユリスコラン ブン・ド・ブラン レ・ピエリエール」の柑橘を感じさせる爽やかさとの相性もぴったり。

画像: 1品目:大根、アオリイカ、ラルド。 柑橘キャビアヴィネグレット(みかん、柚子、ブラッドオレンジ、マスの卵)

1品目:大根、アオリイカ、ラルド。 柑橘キャビアヴィネグレット(みかん、柚子、ブラッドオレンジ、マスの卵)

1品目は、大根とアオリイカの食感と酸味のバランスがよく、爽やかな日のランチにふさわしい一皿。

画像: 2品目:グリーンピースとホタルイカのラグー、ピスタチオペースト

2品目:グリーンピースとホタルイカのラグー、ピスタチオペースト

2品目は、ボイルしたホタルイカとグリーンピースを合わせた、春らしさがあふれる味わい。

画像: 3品目:ラルドコロナータを巻いた鳩詰め、柑橘(ポメロ)の中で蒸し焼き。ポメロの果肉とラルドを添えて。サルミソース

3品目:ラルドコロナータを巻いた鳩詰め、柑橘(ポメロ)の中で蒸し焼き。ポメロの果肉とラルドを添えて。サルミソース

 各テーブルを回って、柑橘(ポメロ)の中に入っている鳩詰めを開いて披露してくれるという心憎いサービスも。柑橘の白い皮の苦味を活かしたサルミソースは、食材の骨や内臓を加えつないで丁寧に漉したソースで、鳩との相性も抜群だ。

 デザートには、ヨーグルト、グレープフルーツのアイスクリーム、グレープフルーツチュイル、メレンゲとグラスロワイアルが提供された。

画像: 食後のミニャルディーズ(小さくて可愛いお菓子):(写真上右から時計まわりに)ジャスミンとレモンのタルト、こぶみかんのボンボンショコラ、グレープフルーツと生姜のゼリー、抹茶とライムのガナッシュの入ったサブレ

食後のミニャルディーズ(小さくて可愛いお菓子):(写真上右から時計まわりに)ジャスミンとレモンのタルト、こぶみかんのボンボンショコラ、グレープフルーツと生姜のゼリー、抹茶とライムのガナッシュの入ったサブレ

マウロ・コラグレコが語る、循環型ガストロノミーとは

画像: マウロ・ コラグレコ アルゼンチン出身。フランス、マントンのミシュラン3つ星レストラン「ミラズール」のオーナーシェフ。2023年10月、以前から親交のあった日本でレストラン「CYCLE」をオープン。地球を守るために尽力し、自然のサイクルを尊重した循環型ガストロノミーを提唱し、2022年には生物多様性のためのUNESCO親善大使にシェフとして初めて選出された

マウロ・ コラグレコ アルゼンチン出身。フランス、マントンのミシュラン3つ星レストラン「ミラズール」のオーナーシェフ。2023年10月、以前から親交のあった日本でレストラン「CYCLE」をオープン。地球を守るために尽力し、自然のサイクルを尊重した循環型ガストロノミーを提唱し、2022年には生物多様性のためのUNESCO親善大使にシェフとして初めて選出された

 初めて会ったマウロシェフの印象は、ニコニコして積極的に日本語で「こんにちは!」と挨拶してくれる人懐っこさがあり、3つ星レストランのシェフでありながらフレンドリーな人柄が非常に魅力的な人物だ。シェフの料理に対する思いと哲学を語ってもらった。

──マウロシェフにとって料理とは何ですか?

マウロ・コラグレコ(以下、マウロ) 私が考える料理は、誰にとっても手がとどく、全世界共通の創造的な表現のかたちです。そして料理は、人々がテーブルを囲んで楽しい時間を一緒に過ごすことができるような力を持っています。私にとって、料理は地球、生き物との深いつながりでもあります。この自然のすばらしさを創造的に表現し、それを他の人と共有するための方法です。私の料理に対するビジョンは、私の子供たちと地球上のすべての子供たちの未来を守り、地球、その資源、生物多様性を保護したいという願望によって動かされています。

 それが地球やコミュニティに価値と好循環を生み出すことができると私は確信しています。私たちのさまざまなプロジェクト、特に「CYCLE(スィークル)」においては、自然と深くつながり、高級料理と、社会や環境への貢献とを両立させる「循環型ガストロノミー」の考え方を伝えていきたいと思っています。

──これまで何度か来日されていますが、フランスと日本におけるの食材の違いはどのように感じましたか?

マウロ 私は常に、他とは一線を画す日本文化と食材に魅了されてきました。細部へのこだわり、技術の正確さ、伝統への敬意とそこからの進化、そしてそれを後世に残していこうとする強い意志にとても感銘を受けました。これらは、食材の質とお客様の体験に大きな影響を与えるものです。日本の食材と料理は、常に私にインスピレーションを与えてきました。ヨーロッパではあまり使われていなかっただしや味噌などの調味料も、私は取り入れて愛用しています。うま味の追求と食材の素晴らしさには、本当に学ぶことが多いです。

 また、私たちは、魚介類や海藻、そして魚の苦痛をできる限り軽減しつつ、鮮度を維持する活け締めの技法など、生き物への敬意を併せ持つ日本の技術からは、学ぶべきことがたくさんあります。私は日本の味わいのコントラストや、伝統的な発酵の仕事に魅了されていますが、農園(庭)からも常にインスピレーションを受けています。

 なぜなら、私のフランスの農園(庭)は、「パーマカルチャーの父」とも呼ばれる福岡正信氏の哲学との出会いがもとになっているからです。また、幸運なことに、日本とフランスは両国とも非常に高品質で、素晴らしいサヴォアフェールを備えた、食材、生産者、職人に恵まれています。食材の多様性に富む両国では、季節を反映した、質の高い料理を表現できます。 日本の魚介類の品質は本当に素晴らしく、フランスでは野菜や乳製品が同様にとても高品質です。個人的には、両国には違いよりも、共通点のほうが多いと感じています。

──お客様に良い食材を提供するために、気を配っていることはありますか?

マウロ 優れた食材は、シンプルな料理であっても、高級ダイニングであっても、良い料理、そして良い体験の基礎となります。生きた土壌で栽培された、近隣の新鮮な季節のオーガニック農産物や、バイオダイナミック農産物を使用します。食材そして料理全体を大切にし、地球に還元していく。環境に優しい美食を可能にする革新的な調理技術とツールの開発──これらが美味しく、色鮮やかで、感動的かつ健康的な料理を提供するための鍵となるのです。

 良い食材は、生命と自然への深い敬意と密接に関連しています。 良いトマトとは、夏、まさに旬の時期に食べられるもので、木の上で熟し、太陽の熱と根から吸収する大地のミネラルのおかげで素晴らしい風味をもったトマトのことなのです。また、良い魚とは、適切な時期に捕獲され、魚の苦痛を最小限に抑え、その命に敬意を表して保存および加工された魚のことです。これが、私が料理に使用する食材を選ぶときに最も重視していることです。

──マウロシェフから日本のフーディーにメッセージを。

マウロ 私達には果たすべき、そして引き継いでいかなければならない非常に重要な役割があります。私達はあらゆる形態の生命を守るべく努力する「循環型ガストロノミー」の代弁者でありたいと思っています。「何を食べるかを選ぶことによって、私たちは住む世界を選ぶのです」──これは私のモットーであり、日々の選択の指針となります。私は進化を心から信じていて、それが長い道のりであることを承知しています。だからまず一歩を踏み出して、明日はまた一歩というように、少しずつ確実に進んでいきたいのです。

 私は、日本の料理、シェフ、生産者、職人、そして日本のお客様を深く尊敬し、また感謝していて、東京に自分のレストランを持つという夢を実現できたことをとても嬉しく思っています。

CYCLE(スィークル)
住所:東京都千代田区大手町1丁目2番1号 Otemachi One 1F
TEL. 03-6551-2885
平日17:00 - 23:00 (L.O.20:00)  
週末・祝日11:30 - 15:00(L.O.13:00)/18:00 - 23:00(L.O.20:00)
月曜定休
公式サイトはこちら

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