国内外を旅して風景や人、土地の文化を撮影するフォトグラファー、飯田裕子。独自の視線で切り取った、旅の遺産ともいうべき記憶を写真と言葉でつづる連載、第1回

TEXT AND PHOTOGRAPHS BY YUKO IIDA

 英国の隣にありながら、国民のほとんどが敬虔なカトリック信徒でもあるアイルランド。5世紀に聖パトリックがキリスト教を伝導した。その伝導に3つの葉のクローバーを使い、三位一体を教えたことから、アイルランドの国花がシャムロック(クローバー)になったという説もある。家族を大切にし、子どもの数も多く、一家で音楽団を作ったりと、アイルランドの人はどこかのびやかな大らかさがある。

画像: 切り取られた大地『ボグ』を燃料に暖炉の炎は燃える。かつては多くの民家がここで調理もした

切り取られた大地『ボグ』を燃料に暖炉の炎は燃える。かつては多くの民家がここで調理もした

画像: 人懐っこく温かみのあるアイルランド人は、いつも音楽とともにある

人懐っこく温かみのあるアイルランド人は、いつも音楽とともにある

 ダブリンの街の名門大学、トリニティーカレッジを訪れた。天井までそびえる本棚。思索や思想が積み重なった、まるで地層のような書物の壁に圧倒される。以前から興味を持っていた「ケルズの書」の原本も、この図書館に保管されている。

 ケルズの書とは、9世紀前後に制作されたもので、羊の皮でできた羊皮紙に、精密に絡み合った文字と文様、図形などが描かれ構成された古文書。“原ヨーロッパ文化”とも呼ばれる、ケルト文化の傑作である。渦巻き文様や組紐文字、動物や人、植物などの絵文字は“島嶼の美術”とも称され、今も多くの学者の研究対象となっている。その現物を見て、触り、不思議な世界を垣間見たような気がした。まるで、かつて魔法というものが存在していたかもしれない時代のもののように思えた。

画像: ダブリン、トリニティカレッジの図書館。古色を帯びた書物が壁のように天井までそびえるさまは圧巻

ダブリン、トリニティカレッジの図書館。古色を帯びた書物が壁のように天井までそびえるさまは圧巻

 アイルランドは、いわばヨーロッパの中の辺境地。北欧バイキングの到来や、幾多の戦乱はあったもののローマ帝国の支配からは免れた。ゆえに、ケルトの文化が色濃く残されたのかもしれない。ケルト文化に見られる文様は、どこか日本の縄文の文様とも似ている。東の端と西の端に位置する島国の民族が、同じ渦巻き文様に普遍の美を見出した不思議に想いを馳せた。

 

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