伊勢海老、車海老、アワビ、サザエ、牡蠣、フグ……。古くから「御食つ国(みけつくに)」と呼ばれていた、海の恵み豊かな伊勢志摩・鳥羽。地元の食材を生かしたフレンチで定評ある「志摩観光ホテル」の樋口宏江総料理長と共に、三重ブランド「あのりふぐ」が水揚げされる安乗漁港を訪ねた

BY YUMIKO TAKAYAMA, PHOTOGRAPHS BY KAN KANBAYASHI

 どの魚介類も美味だが、10月から冬にかけての安乗の名物は「あのりふぐ」だ。「あのりふぐ」とは、伊勢湾を含む遠州灘から熊野灘にかけての海域で漁獲される、体重700g以上の天然トラフグのこと。そのブランド化の立役者的存在が淺井さんだ。

画像: 三重外湾漁協組合長で「あのりふぐ協議会」会長でもある淺井利一さん(左)と、「志摩観光ホテル」の樋口宏江総料理長

三重外湾漁協組合長で「あのりふぐ協議会」会長でもある淺井利一さん(左)と、「志摩観光ホテル」の樋口宏江総料理長

 安乗では100年以上前からフグ漁は行われていたが、漁獲高はそれほど高くなかった。淺井さんはフグで有名な山口県の産地へ足を運び、下関や徳山の漁師から指導を受け、1986年から三重でもフグの稚魚の放流を行う。その甲斐あって、3年後には日に10トンものフグが揚がるようになった。大漁の日々が平成に入るまで続いたが、ある時からガタッと漁獲高が下落したという。

「獲りすぎだった。“これじゃいかん”ってことで、2003年に協議会を作って、さまざまな規制を定めました。操業期間は10月から翌年の2月まで、底延縄のみを使うこと、小さいトラフグは釣れたら放流する、といったものです」と淺井さんは語る。底延縄とは、長い幹縄に枝縄と呼ばれる海底に垂れ下がる縄を取り付け、枝縄につけた針にかかった魚を引き上げる漁法だ。1匹ずつ釣り上げられるため、魚に傷がつきにくい。

画像: 安乗漁港の「あのりふぐ」の看板。「あのりふぐ協議会」では、毎年2月9日を「あのりふぐの日」と定め、伊勢神宮に献納し、漁の安全と大漁を祈願するそうだ

安乗漁港の「あのりふぐ」の看板。「あのりふぐ協議会」では、毎年2月9日を「あのりふぐの日」と定め、伊勢神宮に献納し、漁の安全と大漁を祈願するそうだ

 また、それまでは獲れたフグを山口県の業者が高額で購入してくれていたのだが、淺井さんは三重県内でのフグの認知を高めるべきだと地元の旅館に声をかけ、県の協力も得て、2006年にフグは三重ブランドに認定された。

「あのりふぐ」の特徴はその繊細な身、部位によって異なる食感や歯ごたえ、クリーミーで濃厚な旨味の白子にある。「淡白で繊細な味わいで、白子がとてもおいしい。和食だけでなく、生クリームやバターをたっぷり使うフランス料理にもとても合うので、料理がしやすい魚ですね。骨からは深みと旨みの詰まった出汁が取れるんです」と樋口シェフ。

画像: (左)「志摩観光ホテル」のフレンチレストラン ラ・メールの「あのりふぐのパピヨット」。樋口シェフがふぐ鍋をヒントに洋風に仕上げたふぐの身と白子の温製の皿。シャキッとした歯ざわりとトロッとした2つの白菜の食感がアクセントに。「あのりふぐ」の出汁とチキンブイヨンのクリアなスープを注いで (右)「ラ・メール」の「あのりふぐ ア・ラ・ミニッツとアスピック せとかと虎の尾のヴィネグレット」。フグの身を焼き、フグの出汁の旨味とともに皮と身をゼリー寄せにして閉じ込めた冷菜。ルッコラやラディッシュ、キャビアで華やかに 志摩観光ホテル(SHIMA KANKO HOTEL) 「フレンチレストラン ラ・メール」 TEL. 0599(43)1211(ホテル代表) PHOTOGRAPHS: COURTESY OF SHIMA KANKO HOTEL

(左)「志摩観光ホテル」のフレンチレストラン ラ・メールの「あのりふぐのパピヨット」。樋口シェフがふぐ鍋をヒントに洋風に仕上げたふぐの身と白子の温製の皿。シャキッとした歯ざわりとトロッとした2つの白菜の食感がアクセントに。「あのりふぐ」の出汁とチキンブイヨンのクリアなスープを注いで
(右)「ラ・メール」の「あのりふぐ ア・ラ・ミニッツとアスピック せとかと虎の尾のヴィネグレット」。フグの身を焼き、フグの出汁の旨味とともに皮と身をゼリー寄せにして閉じ込めた冷菜。ルッコラやラディッシュ、キャビアで華やかに
志摩観光ホテル(SHIMA KANKO HOTEL)
「フレンチレストラン ラ・メール」
TEL. 0599(43)1211(ホテル代表)
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF SHIMA KANKO HOTEL

「あのりふぐ協議会」では鮮度や品質を維持し、ブランド力を高めるため、徹底した商品管理を行っている。水揚げされたフグは同じイケスに入れると魚同士が噛み合う習性があるので、漁師が鋭い歯の先端を切ってからサイズ別にいけすに分けられる。入札は港に着いたばかりの船の上で行われ、生きたままの状態でレストランや小売店へと専用のトラックで運搬。なるべくフグにストレスをかけないようにするため、考え抜かれた工夫だ。

 淺井さんは、「志摩観光ホテル」で樋口シェフが料理した「あのりふぐ」を食べたことがある。「あんなの食べたことなかった。いやあ、美味しかったなぁ」とうれしそうに微笑んだ。淺井さん自身、フグをとるようになってから、フグの調理師免許をとったという。「自分で釣った魚を食べられないなんてね。やっぱり漁師は魚がどんな味かちゃんと知っていないと。でも自分が小さい頃はフグの毒が怖くて食べられなかった。うちの80歳過ぎたばあさんなんて、私が調理したフグを私たちが食べてなんともないのを見てから、“うまい、うまい”って食べているよ(笑)」。

 漁師たちの知恵と努力のもと、自然に囲まれた豊かな伊勢湾ですくすくと育つ「あのりふぐ」。ぜひ、秋から冬にかけての旬の時期に「志摩観光ホテル」を訪れ、その繊細な味わいに舌鼓を打ちたい。

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