彼が垣間見せた素顔は機知に富み、ひと癖もふた癖もあり、心を打つ情感をたたえていた。それは彼が写し出す世界にぴったりと重なっていた

BY AUGUSTEN BURROUGHS, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 エグルストンに「君は見るスピードが速すぎるよ」と叱られながら何百枚もの作品を眺めるうちに、僕は“彼が撮らない写真はどんなものか”が気になり出した。冷凍食品が詰まったフリーザーは撮影するのに、なぜすぐ下の冷蔵庫は撮らないのか。ある写真を撮ろうと思ったとき、あるいはカメラをすでに目の前に構えながら、撮るのをやめることはあるのか。僕はそんなことを聞いてみた。とにかく、どういう理由で“何かを撮らない”ことにするのかが知りたくなったのだ。「途中で撮るのをやめたことはない」とエグルストンはきっぱりと、威厳を込めるように答えた。カメラを目の前に構えるのは、写真を撮るためであり、写真自体が生まれようとしているから、ただそれだけのこと。被写体を一枚撮るか、いっさい撮らないか、そのどちらかしかない。彼の心には思案の必要も戸惑いもない。あるのは確実性だけだ。だからこそ彼には“特別な思い入れのある作品”もない。

「どの写真も同じように気に入っているよ。そもそも、好みでないものなんて写さないから」。エグルストンは、ふるいにかけなくても完璧な宝石を選び取ることができるのだ。「撮影の前に何かを考えたりはしない。私がその場に行く、すると何かが起き、一瞬のうちに写真が生まれるのさ」

画像3: PHOTOGRAPH BY WILLIAM EGGLESTON

PHOTOGRAPH BY WILLIAM EGGLESTON

 いっとき沈黙が流れたが、彼は気まずさやもどかしさを微塵も感じていないようだった。何を話そうと、あるいはまったく話さなくても、彼にとっては大した問題でないことに僕は気づいた。「唯一できることといえば、写真を真剣に見つめることさ。あれこれ語ってもあまり意味はないからね」とエグルストンは言った。

 時折うんざりしたように「これは前にも聞かれた質問だが」と前置きを加えながらも、彼はひとつひとつの質問に丁寧に答えてくれた。もし僕が彼のクレジットカード番号を尋ねて、彼も番号を覚えていたら教えてくれそうな、そんな雰囲気で。彼がのんきだと言いたいんじゃなく、何というか、彼には捉えがたいところがあるのだ。まるで飛行機でどこかを飛んでいて、必要に迫られたときだけ地上に降りてくるかのように。私がリアリティ番組のスター、キム・カーダシアン・ウエストのインスタグラムを見せると、彼は「この人は知らないし、名前も聞いたことがないな。というか、この女性も私のように有名なのかい?」と聞いてきた。彼には異次元の住人を思わせるふしがある。もし二度目の人生を生きるとして、フォトグラファーになれないとしたら何をするかと尋ねると、彼は即座に「量子物理学」と答えた。やっぱり、異次元との関わりがあるのは間違いない。

 こう考えるとすべてのつじつまが合う。確かに、エグルストンが食料品を買ったり、なにかの用紙に必要事項を書き込んだり、日常生活のありきたりの出来事をこなす姿なんて想像しがたい。けれど、ナプキンに走り書きした“万物の統一理論”を親切にもアインシュタインの手に押し込んで啞然とさせるような、冷静かつ鋭敏な異次元の住人なら彼に似つかわしい。タバコをひっきりなしに吸い、底なしに酒を飲み、絶えず写真を撮り、“物事に説明なんて不要だ”という男。エグルストンを見ていると、彼の本質には説明しがたい何かと、“シュレーディンガーの猫(量子力学の矛盾を批判するために行われた思考実験)”的なパラドックスが織り込まれていることがわかる。一方、この現実世界でのエグルストンは、独学で写真を学んだフォトグラファーだ。非情でエリート気取りの、頭の固い批評家たちが下した過去の酷評(ニ ューヨーク・タイムズも含まれている)が、まったく、見事なまでに不当だったことを彼は証明してみせた。エグルストンは、びしっと決めたスーツ姿で自らの正当性を示し、「アメリカンスピリット」のタバコに火をつけた指先から銃火を放つ、まさに“世界を変える男”なのだ。彼が目を向けた先には、どこであろうと他人が気づかない何かが現れる。「いつでも素晴らしいイメージが目に飛び込んでくる」と彼は言う。なんとまばゆい才能だろう。

画像4: PHOTOGRAPH BY WILLIAM EGGLESTON

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