日本の伝統衣装である「きもの」の遍歴を紹介する企画展、写真家・森山大道の「東京」の最近作を集めた写真展、また世界的な彫刻家リチャード・セラの日本では20年ぶりとなる個展など、現在開催中の3つのエキシビションのみどころを紹介する

BY MASANOBU MATSUMOTO

『森山大道の東京 ongoing』|東京都写真美術館

 パンっと銃の引き金を引くように、被写体を眼で射抜くーーいわゆるスナップショットを得意とする写真家はいるが、ほとんどスナップショットだけを撮り続けて来た写真家は森山大道の他に多くない。細江英公のアシスタントを経て、フリーカメラマンになってから57年、ときに野良犬のように街をさまよいながらシャッターを切ってきた。「考えるまえに写し撮れ、直感したものはためらわず写すべし」とは森山の言葉だが、とりわけ、その直感と向き合うスナップの舞台になってきたのが、東京の路上だった。

画像: 東京を撮影した作品に加え、会場の入り口には森山の代表作《三沢の犬》 (1971年)も展示 © DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

東京を撮影した作品に加え、会場の入り口には森山の代表作《三沢の犬》 (1971年)も展示
© DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

『森山大道の東京 ongoing』は、森山が撮り続けてきた“東京”の最近作を中心に紹介する展覧会だ。おもにこの5年のうちに発表された4つのシリーズからセレクトされた作品が並ぶ。ひとつは2016年から17年までの1年間に撮影した280点をまとめた大型写真集『Pretty Women』で、森山曰く“ぼくの視線が見た東京俗物図鑑”。主に繁華街から少し離れた路地を広角レンズで撮影した『K』(17年)。「とにかく全体をグラフィカルに、あるいはキッチュでポップに、あるいはチープでエロティカルに」というコンセプトのもと、令和に変わる前の東京をカラーで収めた『東京ブギウギ』(18年)。そして、もうひとつが雑誌形式の『記録』(1972〜73年、2006年〜)だ。

画像1: 『Pretty Woman』より 2017年 © DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

『Pretty Woman』より 2017年
© DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

画像2: 『Pretty Woman』より 2017年 © DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

『Pretty Woman』より 2017年
© DAIDO MORIYAMA PHOTO FOUNDATION

 この『記録』誌は、いわば森山のライフワーク的な個人写真誌。72年に発行をスタートさせ、73年のオイルショックを理由に中断されていたが、2006年に復刊した。ある1日のうちに撮った写真だけで1冊を作り上げるなど(『記録』33号/2016年)、森山の自由なアイデアと実験精神が反映されているプロジェクトでもある。

 ちなみに、展覧会名の“ongoing(=進行中、進化し続ける)”は、いまも精力的に作家活動を続ける森山自身を示唆するものだが、この『記録』誌もまさにongoingだ。実際に、会場のテーブルには制作中の『記録』誌の最新号のためのカットも並べられているが、会期中、制作にあわせて作品が増えていくという。

画像: 森山大道の個人写真誌『記録』の最新号のために撮影された写真 PHOTOGRAPH BY SAYUKI INOUE

森山大道の個人写真誌『記録』の最新号のために撮影された写真
PHOTOGRAPH BY SAYUKI INOUE

画像: シルクスクリーンで写真を転写したキャンバス作品シリーズも並ぶ PHOTOGRAPH BY SAYUKI INOUE

シルクスクリーンで写真を転写したキャンバス作品シリーズも並ぶ
PHOTOGRAPH BY SAYUKI INOUE

 2016年に発表した、シルクスリーンで写真をキャンバスに転写した作品群も並ぶ。デビュー作である『にっぽん劇場写真帖』のカットを含む、“スキャンダラス”なカットが採用されており、森山独特の“アレ・ブレ(ハイコントラストで、フィルムの粒子を強調した写真)”のイメージが、また違った質感で映し出されている。こちらも「写真は現実のコピーである」と言い切り、オフセットによる写真集など様々な技法でイメージ複製することに積極的に挑んできた森山の現在形を象徴する作品である。

『森山大道の東京 ongoing』
会期:〜9月22日(火・祝日)
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1-13-3
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館時間の30分前まで)
休館日:月曜、8月11日 ※ただし祝日・振替休日の場合は開館。翌平日休館。8月10日、9月21日は開館
料金:一般 ¥700、大学・専門学校生 ¥560、中高生・65歳以上 ¥350、小学生以下、都内在住・在学の中学生 無料
電話:03(3280)0099
公式サイト

※ 新型コロナウイルスの感染・拡散防止のための入場の際のルールは、各公式サイトをご確認ください。

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