BY EMI ARITA, PHOTOGRAPHS BY YUKARI KOMAKI
20代後半〜30代前半の3年間はパリ暮らし、さらには世界55カ国以上を旅してきた古牧さん。ギャラリーのように飾られた壁のアート、旅で集めてきた器、趣あるヴィンテージの家具…と素敵なものたちで彩られた部屋には、いつも心地のいい音楽が流れている。
「今はデジタルデバイスで音楽を聴く方が多いと思いますが、私はいつもCDを流しています。レコードほどではないですが、CDの方がデジタル音より低音が心地よく、やっぱり耳触りがいいなって。それに、レコードをかけるのと同じで、CDをかける所作が好きなんです」と古牧さん。今回は、古牧さんの心地よい部屋を叶える大切な要素となっているお気に入りのCDを、特別に教えてもらった。
清々しい朝の空気と共に聴く、クラシック
「朝流すのはクラシック。起きたらまずは窓を開けて空気の入れ替えをし、CDをセットするのが日課です。若い頃からクラシックが好きで、海外に行くと教会に演奏を聴き行ったり、オペラを観劇したりしています。オーストリアに旅した時は、何度もウィーンやザルツブルグに行き、オペラやクラシックのコンサートにも足を運んでいました。
最近よく聴いているのは、グレン・グールドの『MOZART PIANO SONATAS Nos.11.9.2 & 8 Etc.』と、イタリアの弦楽四重奏団による『Johann Sebastian Bach:Preludi Ai Corali』。
グールドが弾くピアノの音色はもちろんですが、途中に彼が口ずさむハミングが大好き。演奏を自由に楽しんでいるような気がして、聴いていてとても心地がいいんです。『Johann Sebastian Bach:Preludi Ai Corali』は、友人の家に遊びに行った時に流れていたもので、ジャケットもとても素敵なので購入しました。弦楽四重奏なので、教会音楽のような雰囲気が感じられてとても素敵です。少年合唱団の歌声も美しく、いつも聴き惚れてしまいます」
チェット・ベイカーの儚げな歌声に酔いしれる、夜のジャズ
夜はムードを大切に、静かに過ごすのが好きだという古牧さん。そんな夜の雰囲気づくりに欠かせないというのが、チェット・ベイカーのジャズだそう。
「ジャズは10代から好きだったんですが、20代前半の頃、仕事関係の友人からチェット・ベイカーのCDをプレゼントされてから、儚く繊細なチェットの歌声にすっかりハマってしまい、今でも毎日のように聴いています。
チェットのCDはたくさんあってどれも好きですが、夜によく聴くのは『Gitanes Jazz 'round Midnight』と『Sings And Plays From The Film Let' s Get Lost』の2枚。どちらもジャズバーにいるような雰囲気が漂う楽曲が収録されていますが、『Gitanes Jazz 'round Midnight』は5曲目『You're Mine, You!』と14曲目『Everything Happens To Me』、『Sings And Plays From The Film Let' s Get Lost』は2曲目『Imagination』と8曲目『Zingaro』が、ムーディな夜にぴったり。友人と過ごす夜も、ひとりの夜も、チェットの甘くかすれたような歌声に酔いしれながら、お酒を楽しんでいます」
旅情に浸る、ワールドミュージック
「旅の気分に浸りたいときは、ワールドミュージックを流しています。東欧のノマドミュージック、アイルランドのケルト、キューバン、アンデス、ブラリジアン、アフリカン、ハワイアン…。訪れた先々で、路上ライブやパブでの演奏を楽しんだり、手売りしているCDを購入したりした思い出が蘇ります。旅情を感じながら、また旅に行きたいな、と思いを巡らせています」
中でもお気に入りは、ルーマニアン・バンド、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの『TARAF DE HAIDOUKS』とペルーで購入した『THE ANDES AS HIGH AS THE MACCHU PICHU』だそう。
「ノマドミュージックの『TARAF DE HAIDOUKS』は最初の音が鳴ると一気に心が揺さぶられるんです。パリのカフェにいるような、異国の夜の街に迷い込んだような…たちまち旅をしているかのような気分になれる一枚です。
『THE ANDES AS HIGH AS THE MACCHU PICHU』は、ペルーを旅したときに、クスコのマーケットで手売りしていたミュージシャンから購入しました。全てアンデスのインストゥルメンタル曲で、ちょっと不思議な音楽なのがクセになります」
物語を思い出しながら気ままに聴く、映画音楽
「映画音楽も大好きで、サウンドトラックCDもよく購入します。特に気に入っているのは、『THE SHELTERING SKY』と『THE MAN WHO CRIED』の2枚。どちらも映画を鑑賞して帰りに購入しました。
『THE SHELTERING SKY』は、坂本龍一が映画音楽を担当しているので、全体を通して、坂本龍一らしい、叙情的でたおやかな楽曲になっているのですが、最初に流れるコーランがなんともいい!14曲目『Je Chante』のシャンソン、19曲目『Goulov Limma』の民族的な音楽も好きです。
『THE MAN WHO CRIED』は、ビゼーやヴェルディ、プッチーニのクラシックオペラと、ノマドミュージックが交互に流れる、大好きなサントラです。ノマドミュージックは、ルーマニアン・バンドのタラフ・ドゥ・ハイドゥークスやアメリカの弦楽四重奏団、クロノス・カルテットが担当しています。繊細なクラシックと、素朴で力強いノマドミュージックの対比が、私にはとっても心地いいんです」
古牧ゆかり
スタイリスト/ビジュアルディレクター。ファッション誌で活躍後、渡仏。パリに暮らす。帰国後『エル・ジャポン』のファッションエディターに。現在はフリーでファッション、インテリアのスタイリングや動画制作のビジュアルディレクションを手がける。本誌ファッション特集でも活躍中。
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