BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY MIE MORIMOTO
荒木飛呂彦は、間違いなく、日本の漫画史に長く名を残す作家だ。代表作は、1987年に『週刊少年ジャンプ』で連載をスタートした『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ。現在もなお続くストーリーのすべての始まりは、主人公のジョースター家の跡取り息子ジョナサンと、この家に養子としてやってきたディオの戦いだ。少年漫画の王道たる“バトルもの”に、“同じ家に住む身近な他人が、吸血鬼になり、自分の命を脅かす存在になる”というホラー&サスペンス要素を掛け合わせたこの物語は、第2部以降、主人公と舞台を子孫の世代へとシフトし、ドラマとしてスケールを拡張していく。コミックスは今までに122巻が刊行され、その累計発行部数は1億部を超える。アニメ、小説、映画にもなった。

荒木飛呂彦
国立新美術館でのプレス内覧会にて、東京会場用の公式ビジュアルとともに。国立の美術館で漫画家の個展が開かれるのは、手塚治虫以来二人目
といっても、荒木はただ単に“売れている漫画の著者”というだけではない。パリ・ルーヴル美術館のバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)プロジェクトに日本人で初めて招聘され、オリジナル作品を制作。また『ジョジョ』のキャラクターにグッチのコレクションを着用させたコラボレーション原画を描き、世界のグッチ店舗のウィンドウをその作品が飾った。ブルガリとはコラボレーションアイテムを制作。アメリカの権威ある生物学誌『セル』の表紙イラストを描いたこともあった。日本の漫画が海外で認知されるようになって久しいが、荒木のようにサブカルチャーの範疇を超え、世界基準のサイエンスやアート、ファッションのシーンにまで歓迎された漫画家は、珍しい。

(写真左)『岸辺露伴ルーヴルへ行く』(集英社刊、2011年)の表紙。
パリ・ルーヴル美術館が企画したバンド・デシネプロジェクトの作品。普段は入れない美術館の地下室などを取材し、独自の物語を膨らました。荒木にとって初の完全フルカラー作品
(写真右)《徐倫、GUCCIで飛ぶ》『SPUR』2013年2月号別冊より。
グッチとのコラボレーション第2弾。第6部の主人公(シリーズ初の女性主人公)徐倫(ジョリーン)が着用しているのは、当時のグッチの最新コレクション。花柄や竹素材などに見られるグッチの自然への賛美に荒木も共感したと話す
© HIROHIKO ARAKI & LUCKY LAND COMMUNICATIONS / SHUEISHA
この5月、荒木は新しい試みに挑んでいた。いつものアトリエを離れ、都内に用意された臨時の作業場で、12枚の大型原画を描いていたのである。その作品は『ジョジョ』誕生から30年の集大成となる『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』で、目玉として披露されることが決まっていた。私たちが作業場を訪れた日、荒木は制作途中の絵に筆を入れながら、そこに描かれているのが等身大の『ジョジョ』のキャラクターであることを教えてくれた。

初の大型原画制作だったため、「画材の量や絵の具の乾燥時間など、予想外のことが多く苦戦した」と話す。荒木が描いているキャラクターは、キラークイーン。人気の“スタンド”だ
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12枚の大型原画を仕上げる荒木。
モチーフは『ジョジョの奇妙な冒険』のキャラクターだ。「等身大だと、顔や体をなでるように筆が動く。すると何千回も描いてきたキャラクターが、いっそう愛おしく感じられるんです」
「原画展の東京の会場は国立新美術館。これまでの原画展の会場と比べても、かなり広い。空間に負けないものが必要だと思ったのです。以前、現代画家の山口晃さんが、『漫画ほどのサイズの絵が描けるのなら、大きいものも描けますよ』と言っていて、この機会に試してみようと。そして、せっかくならばキャラクターを等身大に。鑑賞者がこの作品を観たとき、その人とキャラクターたちで同じ場所を共有している――そんな一体感を生む絵を描こうと思ったのです」