BY KURIKO SATO
ホアキン・フェニックスをインタビューするのは容易ではない。いや、少なくともこれまではそうだった。彼には何度か取材をしているが、ずっと下を向いたままぼそぼそと話すこともあれば、センテンスにならないうちに黙り込んでしまうこともあった。「説明するのが苦手」「見知らぬ人に囲まれると居心地が悪くなり、どうしていいかわからなくなる」と、よく語っていた。
10歳から子役としてスタートし、『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』『ザ・マスター』『ビューティフル・デイ』など、多くの作品で評価されてきたキャリアを考えれば意外ではあるものの、そんな佇まいが逆に彼の不器用で正直なパーソナリティを映し出し、どこかほほ笑ましくもあった。
だが、いま目の前にいる彼は晴れやかで、以前に比べ、少なくとも答えることに能動的に思える。その雰囲気につられていささか厚かましくも、「年齢を経たせい?」と尋ねると、彼は笑って答えた。
「いや、今でも取材は苦手なことに変わりはないよ。とくに記者会見みたいに人がたくさんいるところでフラッシュを浴びると、すごく居心地が悪くなる。この仕事を25年やってきて、少しは慣れるかと思ったけど、まったくだめだ(笑)。マイクを通した自分の声を聴くのも奇妙な感じで……。質問にうまく答えられればいいと思っているし、みんなをいい気分にさせたいけれど、だからといってパフォーマーみたいにはなりたくないし、難しい。年齢を経て変わってきたかどうかは正直わからないな。いまでも自分を二十歳のように感じることもある。滑稽だけどね」
とはいえ、いつになく彼の舌が滑らかなのは、今日の話題がガス・ヴァン・サント監督による新作『ドント・ウォーリー』だからかもしれない。自動車事故による障害を負った、毒のあるユーモアに満ちた実在の風刺漫画家ジョン・キャラハンを描いた本作で、フェニックスはヴァン・サントと二度めのタッグを組んだ。最初の出会いとなった『誘う女』(1995年)から、じつに23年ぶりの再会だ。彼は当時を振り返りこう語る。
「初めてガスに会ったとき、僕は19才だった。僕にとっては映画における最初の『大人』の役柄で、多くのことを学ばせてもらった。彼の演出はとても繊細で、決して俳優に自分のやり方を押しつけたりはしない。覚えているのは、あるシーンで僕がどう動くべきか迷っていたとき、ガスが『自由にやっていいよ。なんでも試してごらん』と言ったこと。僕はそれまでテレビドラマなどで子役として、言われたことを素早く理解して素直に演じるということに慣れていたから、ガスにこう言われて目からウロコが落ちる気がした。突然そこに空間が開けて、部屋を見回して、なんでもできるんだと思えた。その感覚は、僕にはとても大事なもので、そのやり方を今でも心がけている。彼が俳優としての僕を形成した。そのことにとても感謝しているよ」