硬派な社会派映画で名高いドイツの映画監督マルガレーテ・フォン・トロッタ。彼女が語る、初のコメディ映画、そして70年代フェミニズム、#Me too ムーブメント、イングマール・ベルイマン監督のこと

BY KURIKO SATO

画像: 10年前、モデルのジェイド(左)に夫を略奪されたマリア(右)は、ニューヨークの高級アパートメントの権利を得るために舞い戻る

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 1942年、ベルリンに生まれ20代で女優デビューしたのち、監督に転身したトロッタ監督は、70年代のフェミニズム運動を体験した世代であり、ドイツの女性監督としては草分けでもある。そんな彼女にとって、現在映画界を駆け巡る#Me too ムーブメントがどう映るのか、尋ねてみた。

「70年代に闘ってきた私たちの世代からすると、いまようやく、という気持ちですね。もちろん女性が声高に主張するのはいいことですし、状況はずいぶんよくなっていると思います。ただ、『私は被害者だ』と言っている女優たちを見ると、いささか違和感があります。私自身も女優時代に監督から、『役をあげるのと引き換えに』などと誘われたことはありますが、決して受け入れませんでした。それでチャンスを失ったこともありますが、もちろん後悔はしていません。つねに選択の自由はあるはずだと思います」

 女優として3作品でコラボレーションした名匠ライナー・ベルナー・ファスビンダーからは、映画作りについて大きな影響を与えられたという。「もともと監督になりたいと思っていたので、彼の仕事ぶりをずっと観察し、とても多くのことを学ばせてもらいました。彼は自分の望むものをよくわかっていて、フィルムや労力を決して無駄使いすることがない監督です。現場で迷うようなことはなく、すべてにとても緻密でした。だからこそ、撮影は規則正しく進み、多作でいられたのです。私もなるべく彼のやり方に倣(なら)うようにしています」

画像: 前妻マリアの料理はプロ級。子育てのためにキャリアを断念した彼女にとって、料理は最高のストレス解消法だった PHOTOGRAPHS: © 2017 HEIMATFILM G㎆H + CO KG

前妻マリアの料理はプロ級。子育てのためにキャリアを断念した彼女にとって、料理は最高のストレス解消法だった
PHOTOGRAPHS: © 2017 HEIMATFILM G㎆H + CO KG

 監督としての彼女に影響を与えたもうひとりの映画作家が、イングマール・ベルイマンだ。敬愛する彼について、トロッタ監督は2018年にドキュメンタリー『Ingmar Bergman』を制作している。

「ドキュメンタリーでも触れていますが、初めてベルイマンの『第七の封印』を観たとき、大きなカルチャーショックを受けました。私の父は画家で、私自身も当初は絵を描いていたのですが、自分にはまったく才能がないと気づいた。そんなときこの映画に出会って、まさに絵画のような作品だと思ったのです。絵画との違いは、生身の俳優を使っているという点だけでした。頭のなかにあるものすべてを映像に詰め込む映画は、音楽や演劇、精神的要素といったものが集まったアート・フォームであり、そこには人生のすべてがある。そんな点に魅了され、映画を作りたいと願うようになりました」

 1975年にフォルカー・シュレンドルフ監督と共同の『カタリーナ・ブルームの失われた名誉』で監督デビューを果たして以来、はや44年。すでに次回作も準備中というその歩みは、止まる気配がない。帰り際、彼女は「ありがとうございました」と、再び日本語で挨拶をしてくれた。その晴れやかな声が、いつまでも頭のなかにこだました。

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