BY ALEXANDER FURY, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
ファーに作業着風ボイラースーツ、入り乱れた装飾的なプリント、それに映画「グレート・ギャツビー」を彷彿させる着こなし。
これらに共通していることは? すべて、2018年春夏ミラノ・メンズ・コレクションで様々なデザイナーから提案された要素だということにほかならない。今シーズンのコレクションで押さえておくべきポイントは、それぞれのデザイナーが自分たちの特色をはっきり押し出したということ。トレンドは度外視して、自分たちにとってのベストを提案したのだ。今のような混沌とした時代には、こういった信念が顧客に求められるのだろう。
PRADA(プラダ)
「仮想現実と現実」。これは、デザイナーのミウッチャ・プラダが最近興味を持っているテーマ(というよりはむしろ偏愛)について、ショー終了後に語った言葉だ。

モデルたちが着たのは、マンガのコマのイラストで飾られたウェア。カラートーンは、ロイ・リキテンシュタイン風の鮮やかなコバルトブルー、イエロー、レッド。それに強調されたプロポーション。それはまさに、現実と非現実の邂逅だ。

アイテムはすべて、コットンとナイロン製。ナイロンはプラダの定番素材であると同時に、「非現実的」な人工素材の代表格だ。シルエットは、裾を絞ったパンツから、ウエストが調節可能なショートパンツのボイラースーツまで。

会場セットのデザインも、前述の服や小物と同様に、コミックブックのイラストをフィーチャーしたもの。2人のアーティスト、オーリー・シュラウウェンとジェイムズ・ジーンによるもので、後者は5月にプラダ財団の新しいフォトギャラリー「オッセルヴァトリオ」で開催されたプラダ2018年リゾートコレクションでのコラボレーション相手でもある。

随所に現れたのは、肩のラインを目立たせたシルエット。袖はロールアップされ、ウールとカシミアのコートにはパッドを入れて肩の広さを強調した。コミックブックのイラストのせいか、どこかスーパーマンを彷彿させるコレクションだった。

バックステージで、スーパーマンと「現実と仮想現実」との関連についてどう思うか、ミウッチャに聞いた。ソーシャルメディアにおいて自分自身を「スーパーヒューマン」のように見せなくてはならない、もしくは少なくとも実際の自分自身よりもよく見せなくてはならいというのは、われわれすべてにとって急務の課題だ。
「それについてはずっと考えています」とミウッチャ。

フォガッツァーロ通りの会場は、プラダによってコミックの世界に変身。観客はそこに座ってショーを鑑賞した。これはリアルな仮想現実とでもいうべきものだが、ミウッチャが主張するように、実際には逆なのだ。
「これはハンドメイドで、シンプルで、リアルにできているもの」と、会場セットとウェアを飾る手描きのドローイングについて彼女は説明した。
「仮想現実の中に座っているようでも、それは現実のものなのです」

ウェアや壁に広がったコミックのコマのイラストだけで、ストーリーのすべてがわかるわけではない。
プラダと、最近のコラボレーション相手である設計事務所OMAによるプレスリリースによると、今回のコレクションのテーマは「物語の断章」だとのこと。ルックの中には、シュールレアリストのアート制作手法を思わせるものも。一見、無関係に見える要素をつなげたり対極に置いたりすることで新しいものを生み出す、「優美な死骸」と呼ばれる手法だ。写真では、フォーマルなコートとカジュアルなショートパンツという、相容れないアイテムどうしを合わせている。

PHOTOGRAPHS BY YU FUJIWARA
重なりあったコミックのコマは、ときにはウェブブラウザのウィンドウの重なりのように、さらに言えば、頭上に掲げられた、たくさんのスマートフォンの重なりのように(まさにプラダのショーで観客たちがしていたように)見えた。
ミウッチャはこう言った。
「これからは、私たちはインターネットやスマートフォンのスクリーンからすべての情報を得ることになる。私も、そしてだれもが、仮想現実と現実のはざまにいるのです」