二足のわらじといっても、シャネル日本法人の会長として世界各国を飛び回りつつ、長編小説の執筆も手がけるリシャール・コラスのエネルギーは、想像の域を超えている。創作や表現への意欲は尽きることがない

BY AZUMI KUBOTA, PHOTOGRAPHS BY AYUMU YOSHIDA

 シャネル日本法人取締役会長、リシャール・コラスは、これまで5作の長編を手がけた小説家でもある。44年前に来日し、ファッションビジネスの最前線に立ちながら、日本の伝統文化に深く親しみ、表現活動を続けてきた。執筆の場は、鎌倉、長谷寺のほど近くに構えた日本邸宅だ。アジア、アフリカなど多様な文化を背景にもつアートが集められ、彼の美意識が現れるこの場所で、ビジネスマンでありながら小説家であることをどう両立してきたのだろうか。

画像: RICHARD COLLASSE(リシャール・コラス)。鎌倉に転居後、庭に離れを建築した。茶室と座敷、書斎からなる、日本庭園の中に能舞台のように佇む端正な純日本家屋。以来、作品のほとんどをこの座敷にある掘りごたつで執筆してきた。作家としての道具は、構想を書き留めたノートと辞書、そしてPCとタブレット。週末や長期休暇を利用し、この部屋にこもる。時には窓を開け庭を眺めながら。冬になるとそばに火鉢を置いて......。ビジネスから離れ、アーティストとしての自分自身に戻るひととき

RICHARD COLLASSE(リシャール・コラス)。鎌倉に転居後、庭に離れを建築した。茶室と座敷、書斎からなる、日本庭園の中に能舞台のように佇む端正な純日本家屋。以来、作品のほとんどをこの座敷にある掘りごたつで執筆してきた。作家としての道具は、構想を書き留めたノートと辞書、そしてPCとタブレット。週末や長期休暇を利用し、この部屋にこもる。時には窓を開け庭を眺めながら。冬になるとそばに火鉢を置いて......。ビジネスから離れ、アーティストとしての自分自身に戻るひととき

「もともと芸術家気質の家に生まれて、ビジネスマンになるとは思いもよらなかった。ただ、シャネルという美に関わる会社にいたからこそ、小説を書くことにたどり着いたのかもしれない」。最新長編『<Le pavillon de thé> 茶室』は、茶道を嗜(たしな)むフランス人が主人公。日本を舞台に、時空を行き交いながら描き出されるのは、深窓の日本人女性との道ならぬ恋と、その果てにある一種スキャンダラスな情痴の世界だ。主人公Rはリシャール・コラス自身かと問うと、謎めいた笑みで答えをはぐらかしたが、茶の湯や日本建築の端然たる描写も含め、内部と外部、ふたつの視点から日本を見つめる彼の姿勢が現れているのは間違いない。ただし、物語の通奏低音として響くのは、失われてゆくものへの悲しみと怒りだ。

「日本人は、自分たちの素晴らしい文化を大切にしない。不思議です」。コラスは言う。「来日した当時は、まだみんなが日本の未来に希望をもっていたように思う。今まで、失われた日本のよさを描いてきたけれど、その先が見えにくくなってしまった。だから、日本を舞台にした小説は一旦ここで休止して、今は次の舞台、登場人物を探しているところだ。現在、私自身が自分の子どもに世界がよくなっていることを提示できずにいて、人間に対する絶望感をもっている。それでもひとりひとりの人間に対しては、興味を捨てられないからね」

画像1: 世界トップのビジネスマンにして
小説家、リシャール・コラスの
愛するもの、こと

茶室としても使用する、離れの座敷の一間。障子、欄間などの建具は、友人が熱海に所有していた古い家を取り壊す際に譲り受けたもの。現在の技術では再現できない職人技の結晶である。桟のつくりが実に繊細な雪見障子は、もともと猫を飼っていた家だったために、このように高い位置に配置されているという。宮大工の経験もある職人が住み込み、丹精を込め仕上げた建物に、時代を経た家の魂も宿っている

画像2: 世界トップのビジネスマンにして
小説家、リシャール・コラスの
愛するもの、こと

16世紀、アユタヤ王朝当時のタイの仏像。現在は焼失したものも多く、入手困難なもの。やさしく穏やかな表情で佇んでいる。背後の丸窓は、コラス自身がデザイン。職人の手で、釘を1本も使わず繊細に作られている

 

This article is a sponsored article by
''.