BY AZUMI KUBOTA, PHOTOGRAPHS BY AYUMU YOSHIDA

「文字に自分のパーソナリティが表れる。サインペンやボールペンでは出ない」と、執筆用のメモやサインには万年筆か鉛筆を使用。筆跡は柔らかく太いタッチを好む。万年筆は青山骨董通りのお気に入りの店「書斎館」で購入した、モンブランや蒔絵のものなど。愛用のヤンセンのインクは、それぞれの色にアーティストの名前がつけられている。ゲラの校正は、赤い〈モーツァルト〉インクで

現在、谷崎潤一郎の全作品を読み返している。この『春琴抄』フランス語訳は、リヨンに生まれ、第二次世界大戦をまたいでフランス、スイス、日本を行き来した翻訳者、山田 菊(Kikou Yamata)によるもの。偶然にも、彼女の孫が鎌倉の自宅の近所に住んでおり、知己を得た

愛蔵の大判本は、トマ・ローカ著『御遠足 <L’honorable partie de campagne>』。1927年刊行のフランス人による、芸者を巡る日本見聞記。初めて日本に行くことを決めたとき、父から薦められたもの。「エールフランスのパイロットだった父は、非常に日本を愛していた。また、アマチュア映画の製作にも情熱を傾け、カンヌでの受賞経験も」。芸術と日本への親しみは、父から譲り受けた部分が大きい

4歳の頃、幼稚園にて。この頃から読書好きで、テーブルの下で本を読みふけっていた。「掘りごたつが好きで、今もそこで執筆をしているのは、当時の影響があるのかもしれない」。レイ・ブラッドベリをはじめSFを愛読していた少年は、レヴィ=ストロースをひもとき、やがて日本文学を濫読するようになる