BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY YUKO UEHARA
目の醒めるようなおいしいひと皿に先日、出合った。銀座『ラフィナージュ』の「フォアグラのテリーヌ」。目の前に置かれたそれは、端正な美しさを湛えていた。
『ラフィナージュ』は、『銀座レカン』の総料理長を10年務めた高良康之シェフが2018年の秋、オーナーシェフとしてオープンした。高良シェフはフランスでの修業はもちろん、国内でホテルやブラッスリー、グラン・メゾンを経験してきたが、自分の目指す道はやはりガストロノミーにあると、満を持してこの店を開いた。
「50歳になっての独立は遅過ぎると思うのですが」と笑うが、豊富な経験を積んできた料理人の“本気”はすごかった。名店『レカン』での蓄積を生かし、さらにモダンな味わいに。目指すは、メイン素材とソース、付け合わせの、皿の上での均等なバランスだという。どれかが突出した存在感を示すのではなく、食べ進むうちに素材とソース、付け合わせが渾然一体となり、完成された見事な味わいになる。
「焼いて塩をするだけといった、素材に頼り過ぎる調理は避けています。一方ではソースを過度に作り込まず、全体のバランスを最も大切にするよう心がけています。じつはこれまでと皿の上の構成は変わっていないのですが、構築の仕方を変えているのです」
この店でぜひ食べてもらいたいのが、季節ごとに様相を変える「フォアグラのテリーヌ」。冬バージョンは、スパイス風味のケーキであるパン・デ・ピスを敷き、赤ワインとポルト酒を煮詰めたソースを乗せている。スパイスと甘酸っぱいソースがフォアグラの濃密な風味に寄り添い、圧倒的な凝縮感に満ちた奥行きのある味と、ビロードのようななめらかな口当たり。しかも、風雅な佇まい。
従来、フォアグラのテリーヌといえば、フランスの二ツ星以上のレストランでは料理人の腕の見せどころと言わんばかりにメニューに載っていたものだが、最近はあまり見かけなくなった。「近年のフレンチは身近な土地の素材を使う傾向があり、フォアグラを使うことが少なくなりました。しかしフランス料理においてフォアグラは特別な素材ですから、これからもメニューに必ず載せていこうと思っています。僕にとっては、背筋が伸びる、特別な食材なのです」
フォアグラは鮮度勝負の素材だ。「ラフィナージュ」では、日本に輸入された翌日には店に到着するように手配。包丁を使わず、フォークの柄で血管を1本1本取り除くという。想像するだけでもクラクラする細かい作業だが、鴨の繊細な肝臓を傷つけないように血管を取り除くには、この方法しかないのだとか。
塩とこしょう、香辛料、コニャックなどで1日マリネしてから火入れをする。脂肪分60〜70%のフォアグラの火入れは、1℃でも間違うと脂が溶けてしまう。温度を厳密に管理し、火入れ時間を見極める。これを冷やし、1週間寝かせて味をなじませる。寝かせることで、味にきれいな丸みが出てフォアグラのよさが醸し出されるのだという。丁寧に丁寧に作られたテリーヌは、ゲストが食べる時間を見計らって室温に戻し、料理として完成させる。
こんなに濃やかな気配りをされた料理が、おいしくないわけがない。完成度の高さは、ここまでの道のり、すなわちひと皿にかけられた手間に比例している。力強さと繊細さ。高良シェフが作る料理には、美味を司る神様が宿っている。
「ラフィナージュ」とは、「熟成」の意味。すでに円熟期を迎えたシェフのさらなる「ラフィナージュ」を味わいに、フレンチ好きも、これから食べ歩いてみようと思っている若い人たちも、この店を訪れてほしい。きっと記憶に残る食事になるにちがいないから。
ラフィナージュ
住所:東京都中央区銀座5-9-16 GINZA-A5 2F
営業時間:12:00〜14:00(LO)、18:00〜20:00(LO)
ランチ¥7,000~、ディナー¥18,000~。
グラスワイン、またはお茶のペアリングあり(ランチ¥4,000~、ディナー¥7,000~)
定休日:月曜・第3火曜
電話: 03(6274)6541
公式サイト