BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS BY YUKO UEHARA
好物は多々あれど、思い出すたびにうっとりするのがトリュフ。とはいえ高価な食材なので、ふだんはなかなかお目にかかれない。目の前でうやうやしくトリュフをかけてくれる一流店のひと皿や、トリュフ尽くしでウン万円もする特別コースでしか出合えない……?
いえいえ、そういうものではないのです、私が食べたいのは。たとえばイタリア・アルバ(トリュフの産地)の食堂で食べたような、目玉焼きやオムレツの上にひらひらと舞い下りたトリュフや、クリーミーなソースのパスタにたっぷりからんだトリュフ。日本で、そんなふうに気軽に、でもその濃厚な香りにむせるようなお皿にお目にかかれる店といえば、私はこの店しか思いつかない。
東京・渋谷は松濤の、住宅街の入り口に佇むイタリア料理店「オステリア アッサイ」。2011年7月にオープンして丸8年。オリーブの枝が揺れるエントランス、赤いアンダークロスのかかったテーブルやカウンター。ほっこり和める雰囲気に、地元、遠方からを問わず、客が絶えない。オーナーシェフの星誠さんは、オープン前の9年間、北はマントヴァから南はシチリア、サルディーニャ、加えてスペインでも修業。三ツ星のリストランテから、街場の小さなオステリアまでを経験した。
「僕は器用じゃないんで、本場でイタリア料理を身体に染み込ませてこようと思ったんです。料理はその国の文化ですから、頭で理解するだけではイタリアの味を表現できない。イタリア人がどのように作って、どんな風に食べているか。それが知りたくて、生産者さんのところへも行きましたし、家庭におじゃましてマンマの料理を食べさせてももらいました」
当時、料理人は「技を盗む」とよく言っていたが、「技は盗むんじゃなくて、学ぶもの、感じるもの」と星さんは言う。それは、手先で作るだけの料理ではなく、イタリアの風土に身を置いて頭と身体で学び、自分の中で消化してから料理にするということだろう。
星さんの料理は一見無造作にも思えるが、食材への確かな目、料理への深い愛情が伝わってくる。コースも人気だが、私はアラカルトで食べることが多い。必ず注文するのは「トリュフのオムレツ」。バターの風味が際立つオムレツに、黒トリュフがたっぷりかかったお皿。バター、卵、トリュフ−は黄金の組み合わせだ。今回、撮影のために目の前で作ってもらって、そのおいしさの秘密がわかったような気がした。
材料は卵3個、バター大さじ3くらい、パルミジャーノ・レッジャーノのすりおろし、塩少々だけ。卵にほんの少しの塩を加えて溶きほぐし、パルミジャーノを加え、小さなフライパンを強火にかけてバターを入れ、溶けかかったところに卵液を入れる。ガーッとかき混ぜながら固まるか固まらないかくらいのところでお皿へ。これにトリュフをたっぷり。卵には生クリームも牛乳も入れない。バターとチーズの塩分で仕上げるので、塩もほんの少し。トリュフはけちらない。
「北イタリアの店のまかないで、オムレツはよく出ていたんです。底冷えする季節、バターの油脂分で身体を温めていたんでしょうね。だから僕もバターをたっぷり入れます」。なるほど。土地の料理の成り立ちには、すべて理由があるのだ。ふわふわとろとろの卵に、バターとトリュフの香りを口に入れれば、天国への階段を一気に駆け上るよう。いまや世界中でトリュフが採れる。夏はオーストラリア産、秋から冬はイタリアやフランス産と、年中楽しめるようになったのもうれしい。
こんなにシンプルでいて贅沢な一品、他ではなかなかお目にかかれない。パスタもメインもクオリティー高く、イタリアワインのラインナップも秀逸。「おいしいもの食べたい!」と心から思ったときに、予約の電話をしてほしい。
オステリア アッサイ
住所:東京都渋谷区松濤2-14シャンポール松濤107
営業時間:12:00〜14:00(LO)、18:00〜21:30(LO)
定休日:月曜・第3日曜、月1回不定休あり
電話:03(6407)9979
公式サイト