TEXT & PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO
和食
鷹峯 アマン京都「鷹庵」
観光客で賑わう街中を離れ、車を北へ走らせること約20分、左大文字山から続く鷹峯三山の麓にある森の庭に「アマン京都」が佇んでいる。緑が生い茂る入り口を進むと、一つ目の門が現れ、さらに進むと正門にたどり着く。今回紹介する「鷹庵」は、ホテルの日本料理店ながら、この正門の外にあり、まるで独立した店舗のような佇まいを見せている。

ホテルの正門。門の中は宿泊客とレストランを予約しているゲストしか入れないプライベートな空間
「アマン京都」は2019年、プライベートリゾートとして開業したが、開業当初から、「鷹庵」は宿泊客以外も訪れやすい店にしたいという思いで、あえて正門の外に店を構えたという。
鷹庵」の総料理長を務めるのは、金沢の料亭「銭屋」の主人、髙木慎一朗さん。髙木さんは、高校時代をアメリカで過ごし、大学卒業後、「京都吉兆」で修業を積む。その後、金沢に戻り、父の創業した「銭屋」に入り、ミシュラン二つ星に導いた。
豊かな国際感覚を持ち、世界のホテルやレストラン、企業からオファーを受け、海外を飛び回り、日本料理の普及にも一役買っている。
鷹峯は、江戸時代初期、本阿弥光悦が芸術村を作った場所であり、琳派発祥の地としても知られている。髙木さんにとって本阿弥光悦は憧れの存在であり、この地で仕事をすることになり、思いもひとしおだそう。
「本阿弥光悦は、刀剣の研磨や鑑定を家職としつつ、書家・陶芸家・画家・茶人など多彩な顔を持つアーティスト。そして、どの分野にもしっかり軸を持ち、本筋は外さず、独特の世界観を確立された名プロデューサーでもありました。私も、光悦にちなみ、本道を外さず、一歩踏み込んだ新しい料理を提供したいです」。
とは言え、奇をてらうという意味でなく、素材に手を加えすぎず、なるべく本来の持ち味をストレートに出す料理を信条に「何を食べているかわかる料理を意識しています」と、髙木さん。

総料理長は、金沢でミシュラン2つ星を取得する料亭「銭屋」の主人、髙木慎一朗さん
アマン京都「鷹庵」
住所:京都市北区大北山鷲峯町1
営業時間:12:00〜15:00(13:00入店)、17:30〜22:00(20:00入店)
定休日:無休
TEL. 075-496-1333
ランチ¥20,000、ディナー¥40,000(共にサービス料込)
ランチ・ディナー共に前日20時までの要予約
公式サイトはこちら
京都駅 ザ・サウザンド京都「KIZAHASHI」

会席「華 HANA」¥14,916より、鱧と冬瓜の椀
「ザ・サウザンド京都」は、京阪電車を有する京阪グループのフラッグシップホテルとして2019年に開業。JR京都駅中央口から徒歩2分という好立地なことに加え、日本料理「KIZAHASHI」では、昼夜ともに会席コースを予約なしのウォークインで楽しむことができ、まさに京都出張で時間が読めないという方にもぴったりだ。

20メートル以上の吹き抜けとなったロビーフロアにはホテルのシンボルとなる寺社仏閣にインスパイアされた大階段が。「KIZAHASHI」は大階段をのぼった2階にあり
ホテル内の日本料理店ながら、宿泊客のみならず、顔合わせやお食い初め、還暦祝いといった慶事、法事、接待など、地元・京都人の利用も多いという「KIZAHASHI」。
料理長・岡野真介さんは、ホテルのほか、京都の懐石料理店でも経験を積み、和食の料理人歴は20年以上。割烹で研鑽を積んだ経験を生かし、店内には“カウンター割烹”と銘打ったカウンター席を設け、“カウンター割烹”専用コースも用意されている(¥24,860~、3日前15時までの要予約)。
最近は、オーバーツーリズムでタクシーもつかまりにくく、道も混んでいたり。街中で晩ご飯を食べていても、新幹線の時間に間に合うか心配で早めに店を後にする人も多いが、この立地なら安心。新幹線の時間ギリギリまで食事を楽しむことができる。
ザ・サウザンド京都
住所:京都府京都市下京区東塩小路町 570
営業時間:11:30〜15:00(14:30LO)、17:30〜21:30(コース20:00LO)
定休日:火曜
TEL. 075-351-0700
ランチ・弁当「SEN 千」¥5,594〜、ディナー・会席「KAZE 風」¥9,944〜、カウンター割烹コース¥24,860〜(3日前15時までの要予約)
公式サイトはこちら
下木屋町の「suba」

紅しょうがと白味噌のペーストを添えた「国産牛ホルモンと黄ニラのそば」¥1,300
2021年大晦日にオープンして以来、連日賑わう立ち食いそば店「suba」。京都でわざわざ立ち食いそば?と思う方もいると思いますが、京都に来た友人たちが、食いしん坊のみならず、感度の高い大人たちもこぞって”今、行きたい店”として名前を挙げる話題の店です。

簡素ながら目を惹く店構え
店を開いたのは京都で飲食店を展開する鈴木弘二さん。食×カルチャーの融合を得意とし、7年前に開いた「sour」はフレッシュフルーツを使ったサワーブームの火付け役となり、東京のアパレルショップやホテルなどでもポップアップショップが開催されるほど話題になりました。
suba(すば)
住所:京都市下京区木屋町通松原上る美濃屋町182番地10東
営業時間:12:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:不定休
TEL. 075-708-5623
公式インスタグラムはこちら
御所南「而今 平たて」

デザートに見えて実は白和え。季節の白和えはフルーツや野菜をかえて毎日オンリスト。豆腐を攪拌した後、裏ごしし、クリームのようなふわふわの口当たり。この日は、イチゴとうるい¥1,200
京都には値段もスタイルもさまざまに星の数ほど和食店があり、「和食のオススメ店は?」と、ばっくり質問されると正直、答えるのが難しい。今回紹介する「而今 平たて」は、「昔ながらの割烹のように店主と相談しながら好きなものをいろいろ食べたい」という方や、日帰り出張や旅の最終日にディナーを早めにとりたい方にぴったりな一軒です。

お客さんに合わせて料理の内容や量を柔軟に対応する店主・平舘亮祐さん
店は、15時からオープンという割烹には珍しい営業時間に。15時から17時は”酒と肴”の時間、17時以降は”一品料理とおまかせコース”の時間と銘打っているが、15時から17時はコースがいただけないだけで、一品料理に関しては夜と同じラインナップになっている。「早い時間は一品料理をアテに軽く一杯という酒場遣いでも来て欲しい」という思いから、”酒と肴”とあえて謳っているそう。
店主・平舘亮祐さんは、昨年4月に独立する前は、先斗町の名割烹「余志屋」で別館の料理長を任されていた和食歴18年の料理人だ。
而今 平たて(じこん ひらたて)
住所:京都市中京区車屋通夷川上ル少将井御旅町352の1
営業時間:酒と肴15:00~17:00、一品料理とおまかせコース17:00~(L.O.21:00)
定休日:月曜(月1回連休あり)
TEL. 075-221-2288
おまかせコース¥14,300~(前日までの要予約)
公式インスタグラムはこちら
四条河原町「志る幸」

山芋の中でもコクと粘りのある大和芋をすりおろし、名前の通り、椀にポトンと落として、白味噌仕立ての吸地をはった「おとしいもの白味噌椀」¥900
「志る幸」は、昭和7年創業、旅行者にも人気の和食店だ。かやくごはんやサワラの幽庵焼、若鶏のうま煮、半熟卵など茶事風の点心「利久辨當」は食べたことがある方も多と思うが、次回訪れた際は、ぜひ「利久辨當」に付いている汁ものをアップグレードしてみてほしい。
「志る幸(しるこう)」とい店名は、昔、客がめいめいに飯を持って寄り合い、主人が汁ものを用意して行った宴「汁講」に由来。もてなしの気持ちをただ一杯の汁に込めた日本古来の風習を大切に、店でも汁ものに力を入れている。具材は季節がわりを含め10種類以上から選べ、白味噌、赤味噌、合わせ味噌、すましから選ぶことができる。

「利久辨當」¥3,000。白味噌椀の具材を豆腐から「おとしいも」に変更した場合¥3,700
「志る幸」
住所:京都市下京区四条河原町上ル一筋目東入ル
営業時間:11:30~最終入店14:00、17:00〜最終入店20:00
定休日:水曜、火曜夜
TEL. 075-221-3250
四条堺町「千丸屋」

「大名物 湯葉鍋」¥2,400。炊き込みごはん、ゆば汁が付く
「千丸屋」は文化元年(1804年)創業、京都の各宗総本山御用達の湯葉の老舗だ。もともと食事処はなく、物販のみだったが、6年前から売り場内にイートインスペースを設け、「大名物 湯葉鍋」が始められた。
テーブルに運ばれてきた湯葉鍋のフタを開くと、平べったい湯葉が鍋一面を覆っているそのビジュアルに驚かされる。ぐつぐつ煮えた出汁と湯気で湯葉が膨れ上がる様子も楽しく、動画を撮る人も多いそう。

鍋の具材がまったく見えない湯葉で覆われた鍋
最近は、刺身のようにいただく生湯葉が人気だが、古くから精進料理や京料理で使われていたのは乾燥湯葉であり、こちらの鍋に入っているのもすべて乾燥湯葉だ。
京都の家庭でも、卵と炊いたり、魚や野菜と炊き合わせにしたり、昔は食卓に登場していたが、最近は乾燥湯葉離れが進んでいる。
「千丸屋」で湯葉鍋を提供するようになったのも「どうやって食べたらいいかわからない」「味の想像がつかない」という声が多かったことがきっかけだそう。
呉汁(豆乳)を加熱し、表面にできた薄い膜を職人さんが一枚一枚、引き上げ、乾燥し・・・未だに手作業で作られる京湯葉は、薄く、口当たりも滑らか。ぐつぐつ炊けば、出汁をぐんぐん吸い、合わせる具材や調味料で味が変化していくのもおもしろい。
「千丸屋」
住所:京都市中京区堺町通四条上ル八百屋町541
営業時間:10:00~18:00(イートインは10:30~15:00)
定休日:水曜
TEL. 075-221-0555
公式サイトはこちら
洋食
東山七条「フォーシーズンズホテル京都」
「フォーシーズンズホテル京都」では、今年4月、1階のダイニングが「エンバ・キョウト・チョップハウス」として名前も新たにオープンした。

炭火を操る肉のエキスパート、料理長・セバスチャン・バルクデス
料理長・セバスチャン・バルクデスは、アルゼンチン出身。17歳で料理の世界へ飛び込み、「シャングリ・ラ ドーハ」ではアルゼンチン料理レストランの料理長に就任。その後も、「マンダリン グリル」や「マンダリン オリエンタル クアラルンプール」、「シャングリ・ラ ザ・フォート」で腕を磨き、世界的にも有名な肉職人”ダリオ・チェッキーニ”が手がけるステーキレストラン「SLSバハマール」でも料理長を務めた。

30日熟成鹿児島県黒毛和牛サーロイン200g¥15,000
アルゼンチンには、肉の塊を炭や薪で豪快に焼き上げる伝統的なアサードと言われるバーベキュー料理があり、セバスチャンにとってもアサードはDNAに刻まれている郷土料理であり、レストランでも、炭火焼きをスペシャリテにしている。
炭火焼きのなかでも特にオススメなのが熟成肉のステーキ。「日本では、鮮度いい状態で牛肉が仕入れられるのがすばらしい」と、セバスチャン。厨房に熟成室を設け、フレッシュな牛肉を仕入れ、自ら管理してエイジングを行っている。
フォーシーズンズホテル京都「エンバ・キョウト・チョップハウス」の情報をもっと見る>
フォーシーズンズホテル京都「エンバ・キョウト・チョップハウス」
住所:京都市東山区妙法院前側町445-3
営業時間:11:30〜14:30、ディナー17:30〜22:00(21:00LO)
定休日:無休
TEL. 075-541-8288
公式サイトはこちら
清水五条「洋食屋なかご」

「ふくどめ小牧場・幸福豚と国産牛のハンバーグ」150g¥2,250。ボリュームはフライパンに入りきる300gまで増やすことができる
ハンバーグを見て、「むむ、もしやこれは?」と思われた方がいれば、それはかなりの京都通!「洋食屋なかご」は、2019年に惜しまれつつ閉店した「ビストロ セプト」の料理長・松本奈火吾さんが開かれた店であり、細長い形のハンバーグにたっぷりのマッシュポテトを添え、黒々としたデミグラスソースがかかったスタイルも、「ビストロ セプト」譲りだ。
「洋食おがたのハンバーグかと思った」という方もご名答!「ビストロ セプト」は、全国からグルマンが訪れる上等洋食「洋食おがた」のシェフ緒方博行氏が、2007年のオープン時から料理長を務めていた店である。緒方さんと「洋食屋なかご」松本奈火吾さんは、今から20年以上前、長崎「ホテルヨーロッパ」で上柿本勝シェフの元、共に研鑽を積んだ兄弟弟子であり、松本さんは店を開く前は、サービスを学ぶため、「洋食おがた」で半年間働いていたそう。

ランチの「ハンバーグセット」¥2,000。ディナーと同じサイズのハンバーグに、無農薬野菜のたっぷりサラダ、具だくさんの野菜スープ、ごはん(またはパン)付き
昼はハンバーグをはじめ、カツレツやポークジンジャーなど、セットで気軽にいただけ、夜はアラカルトをシェアするスタイルに。
「高坂地鶏のカツレツ デミグラスソースとタルタルソース」や「極上 大人のナポリタン目玉焼きのせ」など、自慢のデミグラスソースを使ったメニューもいろいろ。
王道の洋食メニュー以外に、季節の食材を使った一品やビストロ的前菜もそろい、ワインをはじめ、ハイボールや自家製ジンジャーエールを使ったモスコミュールなど、アルコール類も豊富で、お酒をお酒を飲みながらゆっくり食事が楽しめる。
洋食屋なかご
住所:京都市下京区松原通御幸町西入ル石不動之町682-4 もみじの小路
営業時間:11:30~14:30(13:30LO)、17:30~23:00(21:00入店)
定休日:水曜、木曜不定休
※予約がベター
TEL. 075-600-9655
公式サイトはこちら
四条木屋町「ブラッスリー カフェ オンズ」

11月から4月初旬までの期間限定、オニオングラタンスープ¥1,760
「ブラッスリー カフェ オンズ」のオニオングラタンは、毎冬、何度も食べにいく大好物だ。店で仕込む際は、毎回、10キロのタマネギを寸胴鍋でじっくり弱火で炒め、タマネギのかさが減ってきたら、小さい鍋に移し替え、また炒め・・・を繰り返し、最終的には10分の1のボリュームになるとか。さらに飴色タマネギを鶏だし、バター、ミネラルたっぷりのゲランドの塩でことこと煮ること1時間。注文後に、スライスしたバゲットでフタをして、グリエールチーズをたっぷりかけ、オーブンでこんがり焦げ目がつくまで焼かれる。

一般的なタマネギより糖度が高いと言われる兵庫県・淡路島産を使用。じっくり炒めることで甘さが引き出されている
Brasserie Café ONZE(ブラッスリー カフェ オンズ)
住所:京都市下京区木屋町四条下ル斎藤町125
営業時間:15:00~24:00
定休日:無休(年末年始除く)
TEL. 075-351-0733
下鴨「グリル生研会館」

ハンバーグ200g目玉焼き付き、サラダ・ライス付き¥1,500(目玉焼き付きは夜のみ)
洋食店のハンバーグが大好きなのに、幼い頃から親に連れられ通っていたお気に入りの店がことごとく閉店し、自分のなかのスタンダードハンバーグを失っていた頃(と言っても今から20年前)に出会ったのが「グリル生研会館」のハンバーグだ。色が濃いめのデミグラスソースがたっぷりかけられ、仕上げにはとろ~り半熟の目玉焼きがのった食欲をそそるビジュアル!デミグラスソースは、牛スネ肉やバラ肉、香味野菜を炒めてじっくり煮ること1週間。マデラ酒とポルト酒で深みと甘みも加わり、これぞデミグラスソースのお手本というべき味わいだ。ハンバーグ自体も牛8、豚2の合い挽き肉で、牛肉100%よりふんわりと。それでいて、肉感もしっかり味わえる。

下鴨神社から徒歩2分ほど。最寄りの京阪出町柳駅からは徒歩約13分
「グリル生研会館」
住所:京都市左京区下鴨森本町15 生産開発化学研究所ビル1F
営業時間:12:00~13:30LO、17:00~18:30LO(夜は完全予約制)
定休日:木曜、水曜夜
公式インスタグラムはこちら
烏丸御池「洋食とワイン Ao」

「北海道生雲丹をのせた黒いオムライス・雲丹の濃厚リゾット」¥3,520
京都のイタリア料理店「Lino」の新展開として昨年5月にオープンした「洋食とワイン Ao」。
「家庭でもおなじみの洋食に挑戦したくて。料理人が厳選素材を使って作ったらこんなにも違うのかってところを味わってください」と、オーナー・岩井永吉さん。
イタリアのソーセージ・サルシッチャを使ったナポリタンやフォアグラのソテーをのせたハンバーグなど、イタリア料理やフレンチの食材や技法を用いた変化球洋食も勢揃い。
「北海道産生雲丹をのせた黒いオムライス・雲丹の濃厚リゾット」は、ビジュアルからインパクト大。イカスミでコクを出したふわとろのオムレツと雲丹入りのトマトクリームリゾットはそれぞれで食べても一緒に食べてもおいしく、さらに生雲丹をトッピングし、パルミジャーノレッジャーノを添え、濃厚な旨みが押し寄せる。
昔ながらの町の洋食店の中には、シェアをせず、一人でひと皿をいただくスタイルの店も多いが、こちらは、店名に”洋食とワイン”とあるように、お酒を飲むながら、みんなでアラカルトを分け合いながら楽しむことも。人数に合わせて量の調整や、希望があれえば取り分けてサーブもしてもらえる。

地下鉄烏丸御池駅から徒歩2分、または阪急烏丸駅から徒歩8分。街中にあり、アクセスも良し
烏丸御池「洋食とワイン Ao」
住所:京都市中京区三条通烏丸西入御倉町73
営業時間:12:00~13:30LO(土日祝のみ)、17:30~21:00LO
定休日:火曜、水曜不定休
TEL. 075-253-6089
公式インスタグラムはこちら
宮川町「グリル 富久屋」

70年ほど前、芸妓さんのリクエストで誕生した名物「フクヤライス」¥980
「グリル 富久屋」は京都五花街の一つ、宮川町に明治40年創業。現在も、座敷に出る前の芸舞妓の食事として置屋さんにお弁当を配達したり、座敷での宴会用にオードブルを特注で作ったりと、花街に親しまれている。ランチとディナーの間に休憩時間を取らず、通し営業なのも、置屋やお茶屋の女将さんが忙しくなる夕方前に訪れたり、稽古終わりのお師匠さんが遅めの昼食を食べに来たり、花街時間に合わせているそう。

壁には、芸舞妓さんが夏の挨拶にお世話になった方に配る名入りのうちわが飾られている
片面だけ焼いた具だくさんの卵をケチャップライスにのせた名物の「フクヤライス」は、金鶴という芸妓さんの「やわらかいオムライスが食べたいねん」というリクエストで生まれたそう。金鶴さんが食べているのを見たほかのお客さんから「私もアレ食べたい」という声が増え、レギュラーメニューに昇格。昔はハイカラな洋食店として、旦那衆が芸舞妓さんを連れて食事に行く”ごはんたべ”にもよく利用されていて、金鶴さんに最初に出した「フクヤライス」も、卵に松茸や蟹身など豪華な食材を使っていたが、メニュー入りするにあたり、グリーンピース、ハム、トマト、マッシュルームに変更されたそう。
ハムと玉ねぎ入りのケチャップライスの上に具だくさんのトロトロ半熟の卵がのっていて、見た目や名前は違えど、食べると、「優しい味わいのオムライス」といった風。
卵の上にのったフレッシュなトマトもみずみずしくさわやかさを添えている。
宮川町「グリル 富久屋」
住所:京都市東山区宮川筋5-341
営業時間:12:00~21:00(20:30LO)
定休日:木曜、第3水曜休
TEL. 075-561-2980
酒場・バー・立ち飲み
木屋町松原「The sunset beach」

「ホタテととり貝とアジのてっぱい」¥1,400
「The sunset beach」という店名を聞いて、「海に面していない京都市内でなぜ?サーファーがやってるカフェっぽい」と思っていたら、その正体は大人の居酒屋。「海が好きなこともあるんですが、かっこいい店名つけるのが小っ恥ずかしくて、ふざけちゃいました」と、笑う店主・四方大輔さん。
「鴨ロースと新ごぼう」や「松茸フライ」、「うなぎのタレ焼きなど、割烹ライクな素材ありきの一品もそろい、料理は、大衆居酒屋とはひと味違う、日常以上ハレの日未満なラインナップに。それでて、立ち飲みカウンターも備え、Tシャツに短パン、ビーサンといったビーチに行くようなラフな格好でふらりと立ち寄れる、そんな気負わなさも、今っぽい。
お品書きは、昔ながらの居酒屋や割烹に多い値段を書かないスタイルに。一人客にはポーションを小さくしたり、人数に合わせて調整して出してくれる。
辛子酢味噌で魚介や野菜を和えた、京都の家庭や居酒屋ではお馴染みの「てっぱい」は、ホタテやトリ貝、アジ、九条葱、玉ねぎ、茗荷など、具だくさんでサラダ感覚で食べられるよう仕立てたり、どの料理も無難に終わらず、ひと手間やひとひねりにそそられる。

古民家風情が残る2階の個室
「The sunset beach(ザ サンセット ビーチ)」
住所:京都市下京区材木町423-2
営業時間:18:00〜23:00(22:00フードLO)
定休日:日曜・月曜
TEL. 080-4914-8949
公式サイトはこちら
The sunset beach(ザ サンセット ビーチ)の情報をもっと見る>
五条「STANDING OVATION」
京都には昔から酒場が集合した“会館”と名付けられた建物があり、そこで飲むことを“酒場飲み”と呼ぶほど親しまれている。
今回紹介する「STANDING OVATION(スタンディングオベーション)」は今年2月に誕生した「湯浅会館」内にあり。飲食店のテナントが入った建物というと大きなビルを想像するが、“会館”は木造建築の町家内を分割して飲食店が入っていることが多く、「湯浅会館」も大正6年に建った湯浅さんの屋敷を利用。現在、6店舗の飲食店が営業している。

以前は湯浅さんの家だったことから「湯浅会館」と名付けられたそう
「STANDING OVATION」は、「湯浅会館」の近くにある「ハシヤとナカセ」の2号店として今年5月にオープンした。「ハシヤとナカセ」は、イタリア料理店でみっちり腕を磨いた料理人・端谷さんとサービス担当の中世さんによる居酒屋で、ボーダレスな料理と気取らない雰囲気で愛されているが、「STANDING OVATION」はよりカジュアルに。立ち飲みオンリーで、お酒に合うひねりの利いた料理を提供している。

炭火で焼いた鯖をほぐし、トマトやスパイスで和えて揚げたピザ生地で挟んだ「サバサンド」1個¥400
最寄りの地下鉄五条駅から京都駅までは1駅とアクセスも良く、午後4時からオープンしているので、帰路に就く前のさく飲みにもちょうどいい。新幹線でよく寝られそう!
「STANDING OVATION(スタンディングオベーション)」
住所:京都市下京区高倉通五条上る亀屋町172 湯浅会館1F
営業時間:16:00〜23:30LO
定休日:日曜、ほか不定休あり
TEL. なし
公式インスタグラムはこちら
STANDING OVATION(スタンディングオベーション)の情報をもっと見る>
西木屋町「オテル・ドゥ・オガワ」
「食堂おがわ」が2024年5月に店から徒歩30秒の同じ通り沿いに「オテル・ドゥ・オガワ」をオープンした。
「食堂おがわ」と言えば、現在、新規予約は受け付けていず、京都一予約が取れない店とも称される大人気店だが、「オテル・ドゥ・オガワ」は予約不可、さらに店前の通りが狭いこともあり、店の外で待ったり、並ぶのも禁止になっている。つまり入店できるかはタイミング次第。扉を開けてみて席が空いていたり、もうすぐ店を出るお客さんがいる場合のみ入店できるのだ。

店内はカウンター8席のみ
「食堂おがわ」は、割烹級の料理を“食堂”というカジュアルなスタイルでいただけるとあって、2009年のオープン直後から話題に。とはいえオープン当初は、予約と次の予約の間のすき間時間や遅がけを狙えば、ふらりと立ち寄ることもできたが、瞬く間に予約が取れない店となり、常連さんが来店時に次の予約を取って帰るため、新規予約も受けられない事態に。さらに、「数ヶ月待ったのだからおまかせで食べたい」という人が多く、今ではコースがメインの店になってしまった。
「西木屋町の界隈ははしご酒を楽しむ人も多いエリアで、私も以前からこの界隈の雰囲気が好きだったんです。それで、うちもそんなはしご酒の一軒になれればと思って、15年前に[食堂おがわ]を出しました。ところが、ありがたいことなんですが、最初に思っていたものとは店の形が違ってきてしまって」と、店主・小川慎太郎さん。そのため、「オテル・ドゥ・オガワ」では、予約を取らず、ふらりと立ち寄れ、ビール一杯とアテでさくっと使いもできる店になっている。

看板や暖簾もなし。中の様子がうかがい知れず、扉を開けるまではドキドキがつのる
「14時にオープンしてすぐ満席になったり、土曜のディナータイムは予約をして食事に出かける人が多いからか意外に空席がある日もあったり、日によって混み方もバラバラで読めないです」と、羽尾さん。
私はこれまで扉を開き、3割は入店でき、7割は振られているが、もっと高確率で入店できている友人もいたり。最近は、仕事終わりやノープランで四条河原町界隈にいる日は「とりあえずオガワ、のぞいてみる?」がお決まりになっている。
「オテル・ドゥ・オガワ」
住所:京都市下京区西木屋町通四条下ル船頭町230
営業時間:14:00〜21:00LO
定休日:月曜 ※不定休あり
TEL. なし
公式インスタグラムはこちら
一乗寺「coimo wine & cafe」
2022年夏、一乗寺にオープンした「coimo wine & cafe」。京都通でないと、一乗寺と言っても、ピンと来ないエリアかもしれませんが、こだわりを持つ店主が営むショップや飲食店が点在していて、地元人に人気のエリアです。

コーヒーはもちろん、赤ワインにもよく合うパルミジャーノプリン¥500円。パルミジャーノチーズは仕上げに生クリームの上からトッピングするだけでなく、プリン液のなかにも使われていて、濃厚な味わい

叡山電鉄・一乗寺駅から徒歩4分。地元人のみならず旅行者にも人気の書店「恵文社」もご近所
「coimo wine & cafe」はナチュラルワインを昼から気軽に飲める店ながら、それだけではなく、店主・高橋順子さんの引き出しが多彩!
元パティシエの経験を生かしたパフェやケーキ、アイスクリームなど、スイーツメニューもあり、ワインバーのような堅苦しさはなく、ワインを飲む人も飲まない人も楽しめる店になっている。
しかも、パティシエ時代はタイのベジタリアンカフェで10年働いていたこともあり、フードメニューには、和やフレンチに加え、タイテイストをミックスした料理も並び、食欲をそそられっぱなし。
さらに店を開く前には、ヴィーガンベーカリー「アペリラ」でパン職人としての経験を積み、自家製天然酵母パンを使ったタルティーヌも絶品だ。
coimo wine & cafe
住所:京都市左京区一乗寺払殿町38-3 パールハイツ1F
営業時間:15:00~22:00LO(水曜18:00~)
定休日:火曜、他不定休あり
TEL. なし
公式サイトはこちらから
御所西「酒場 井倉木材」

店内のほか、材木置き場でも立ち飲みできる
「酒場なのに木材?」という謎めいた店名。その正体は、昼は木材屋、夜は酒場という前代未聞な二毛作店。夕方5時になると、材木置き場に、ビールケースを積み上げた簡易テーブルが置かれ、立ち飲みスペースに早変わりする。
当初は、家業の材木店を継ぐつもりはなかったという井倉康博さん。元々、食べ歩くのが大好きで、いずれは自分の店を開きたいと思っていたなか、12年前、その夢を叶えるために、会社勤めを辞め、居酒屋で働き始めたところに、御父様が急逝。急に会社をたたむわけにもいかず、平日は材木店を切り盛りし、週末は居酒屋修行を行い、1年を過ぎた頃、「自分の代で店をやめるのは申し訳ない。でもやっぱり飲食店をやりたい」という思いで、一念発起。材木店の事務所を店舗に改装し、今のスタイルでの営業が始まった。

「ポテトサラダ」¥90。鮭などを凍らせ、薄くスライスして食べる北海道の郷土料理、ルイベ。カニの味噌と身を凍らせた「かにみそルイベ」¥900。生ビール¥600
「季節のちょっといいもんを食べたいという声も多くて」と、初冬にはコッペガニをさばいて甲羅に盛り付けた割烹さながらの「特大コッペ蟹」も登場する。
店内カウンターは店主や隣客とも距離が近く、一人客も居心地抜群。真夏や真冬は特にカウンターから埋まりすく、口開けの17時が狙い目。
酒場 井倉木材
住所:京都市上京区薮之内町77-1
営業時間:17:00~22:00(21:00LO)
定休日:日曜、祝日
TEL. なし
公式サイトはこちら
韓国料理・中華料理
河原町「ははは」

3つの小皿が付いたコングッス定食¥1,200
京都で韓国料理店を6店舗展開する「ピニョ食堂」。店ごとに違ったスタイルで韓国の食文化を発信し、「ははは」は、現地の”呑める食堂”を再現。「韓国では昼呑み文化が定着していて、食堂でも昼からビールやチャミスルを楽しんでいる光景をよく目にします」と、オーナーの全敞一さん。メニューには定食もあれば、お酒の供になるパンチャン(惣菜)やアンジュ(肴)がそろっている。

通年出されているコサリユッケジャン定食¥1,500。ゼンマイと豚肉を煮込んだチェジュ島の郷土料理
定食の中で今の時期にオススメなのが、夏限定のコングッス。キーンと冷えた冷麦をすりつぶした大豆といりこだしを合わせたスープでいただく韓国の夏の定番。こっくりとろとろのスープは大豆のそのもの。濃厚ながらあっさりしていて、食欲のない時にもスルスルいけるおいしさだ。
「ははは」
住所:京都市恵美須之町516-1
営業時間:11:30~21:30(21:00L.O.)
定休日:木曜、第3水曜
TEL. 075-204-2202
公式サイトはこちら
祇園「廣東料理 平安」

カラシソバ¥1,000
ニンニクや香辛料が控えめのあっさり薄味の京都中華。京都で生まれ育った私は、正統な広東料理だと思って食べていたものが、実は京都だけのスタイルだったと大人になってから気づき、驚いた。
京都中華の先駆けと言われる「第一樓」や「鳳舞」はどちらも今はもうないが、現在もお弟子さんたちが活躍していて、今回紹介する「廣東料理 平安」も「第一樓」出身の元木登さんが営む店だ。
祇園という場所柄、芸舞妓さんがお座敷に上がる前も安心して食べられるよう、創業時からにんにくは不使用。鶏ガラを10時間炊いた出汁に、かつおを加えたまろやかなスープをベースに、日本酒や濃口醬油、穀物酢といった和食のような調味料で仕上げていく。そのため、あっさり親しみしやすい優しい味わいで、それをはんなり京都っぽいと称する人も。
メニューには、京都中華を代表するメニュー「からしそば」もあり。こちらは、からしで和えた中華麺の上に具だくさんのあんかけがのった麺料理で、「第一樓」の料理人だった高華吉さんが考案。「第一樓」や「鳳舞」の系譜を継ぐ店で出されていることが多い。
「廣東料理 平安」では、酢で練った洋辛子を使い、辛さを選べるのが特徴。
辛さの段階を中学生(辛さ控えめ)、高校生(標準)、大学生(辛め)と表現するのも平安流。「辛さは?」と聞かれた時、「社会人」と答える激辛好きもいるそう。

とろみがついているので冷めにくく、体も温まる
からしそばが運ばれてきたら、まずは具材と麺を豪快にかき混ぜて。麺をすすると、鼻がつんっとなる辛さを感じ、それがクセになり、箸が進む。鶏スープをベースにした餡もしみじみとした味わいで、辛子との相性も抜群。ごろりと大ぶりにカットされた鶏肉や海老やタケノコ、木クラゲなど、たっぷりの具材も食べ応えがあり、シャキシャキのレタスもいいアクセントになっている。最後は酢を加えてさっぱり味変するのもオススメだ。
廣東料理 平安
住所:京都市東山区縄手通富永町131たから船ビル1F
営業時間:12:00~14:00、17:00~22:00
定休日:水曜、木曜
TEL. 075-531-2287
四条河原町「広東料理 芙蓉園」

看板メニューの鳳凰蛋(ホウオウタン)と焼売
「広東料理 芙蓉園」の初代は、今はすでに閉店しまった京都中華の先駆け「第一樓」や「鳳舞」を開いた高華吉さんの日本で初めてのお弟子さん。現在は、二代目・加地数男さんが父の味を引き継いでいる。
京都中華は、ニンニクや香辛料を使わないあっさり薄味を特徴とするが、こちらでは、ニンニクのみならず、ショウガも一切使っていないという。京都中華の流れを組みつつ、独自の工夫やアレンジを加えたメニューも多く、人気の鶏肉入り卵焼き、鳳凰蛋(ホウオウタン)も初代が考案したものだ。
広東料理から独自の進化を遂げた京都中華は鶏ガラスープを味のベースにした料理が多く、ホウオウタンも鶏ガラスープをたっぷり使い、卵も半熟とろとろに。しかもこちらでは、鶏ガラスープを毎日、追いたして作っているそうで、スープの味が濃い。醬油と砂糖が入ったちょっと甘めの味付けで、私は長らくこれがこの店のオリジナルと気づかず、京都中華の定番だと思っていたぐらい親しみやすい味わい。チャーハンと一緒に食べるのもお気に入りだ。

昭和30年創業。親子3代で通う常連さんもいる地元で愛される店
広東料理 芙蓉園
住所:京都市下京区市之町240
営業時間:昼は二部制12:00~、13:10~、17:30~20:00(L.O.)
定休日:火曜、水曜
TEL. 075-351-2249
紫野「中華のサカイ本店」

名物の冷麺。そして中華料理店ながらオムライスも人気だそう
「中華のサカイ本店」と言えば、冷麺。逆もしかり、京都で冷麺と言えば、「中華のサカイ本店」と答える人も多い。ちなみに冷麺とは全国的に言う冷やし中華のことである。
大徳寺の東側に位置し、決してアクセスがいい場所ではないが、サカイの冷麺を食べるために、わざわざ訪れてしまうほど、シンプルにして唯一無二のおいしさだ。
自家製マヨネーズや酢、からし、鶏ガラスープを使ったソースはクリーミーかつコクもあり、爽やかな酸味とほのかな辛みもふわり。親しみやすい味ながら、再現不可能な味わいで、湯がいた後に氷水でしめたキンキンに冷えた太麺にたっぷりからませていただけば、箸が止まらない。
「うちは麺とタレがメインやしね」と、具材はあえて焼き豚(またはハム)、キュウリ、刻み海苔と、シンプルに。自家製の焼き豚もあっさりしていて、主張しすぎず、脇役に徹している。
冷麺は昭和28年から出しているメニューで、最初は他店と同じく、夏限定だったとか。ところが、サカイの冷麺で育った人たちが、正月に実家に帰った時に食べたいという声や、年末に帰省する際に田舎に持って帰りたいという声が多く、30年前から一年中出すようになったそう。

テイクアウト専用の小窓カウンターもあり。冷麺も持ち帰れる
中華のサカイ本店
住所:京都市北区紫野上門前町92
営業時間:11:00~16:00(15:50L.O.)、17:00~21:00(20:30L.O.)
定休日:月曜(祝日の場合営業、翌火曜休)
TEL. 075-492-5004

天野準子
生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント