国内外を旅して風景や人、土地の文化を撮影するフォトグラファー、飯田裕子。独自の視線で切り取った、旅の遺産ともいうべき記憶を写真と言葉でつづる連載、第3回

TEXT AND PHOTOGRAPHS BY YUKO IIDA

 正月に親戚や近隣の人が家に集い食べるという、唐辛子の効いたヤク肉の煮込みと、サフランで炊かれた甘いおこわを昼食にいただいた。子どもたちは皆テレビゲームに歓声をあげ、男性は賭け事に興じ、女性は料理をしつつたわいないおしゃべりを続けていた。かと思うと、急に外に出て輪になっては踊る。そしてふたたび腹時計が鳴る頃、おこわと肉料理がふるまわれた。

画像: 和やかなお正月、街の一般家庭にうかがって

和やかなお正月、街の一般家庭にうかがって

 刺激が多い先進国ではきっと退屈してしまいそうなたわいのないことで、ケラケラと明るく笑う人々。来る日来る日も同じ営みが続いた。実際、私自身も退屈しなかったといえばウソになる。幸せを求めすぎている限り、幸せの境地にはとうていたどり着けないもの。ブータンの人々には、そんな真理を垣間見させてもらったような気がした。

 ある日、プナカというブータンの古い都で祭りを訪ねることになった。専任のドライバーの男性は終始にこやかで、ハンドルを握っていないときは、たとえ数分でもマニ車(マニぐるま)という仏具を回して口中でお経を唱えていた。ブータン王国では、車といえば自動車ではなくマニ車の方が主流だ。お経が内部にセットされたマニ車は、回した数だけお経を唱えたというご利益がある。仏教への帰依度が高いこの国では、俗世にありながら全国民が僧侶と言っても過言ではない。

画像: ブータンの弓術ダツエ。歌や踊りを交え、ゆったりとしたペースで行われていた

ブータンの弓術ダツエ。歌や踊りを交え、ゆったりとしたペースで行われていた

画像: 祭りが開催される寺院の周りでは、多くの家族がピクニックを楽しんでいた

祭りが開催される寺院の周りでは、多くの家族がピクニックを楽しんでいた

 経文が描かれた旗、タルチョーがヒマラヤの風にはためく。祭りは刀を携えた戦士や、高地から下りてきた人々など大勢でにぎわっていた。二つの川が合わさる中洲に建つ寺院では、仮面をつけた踊り手たちが螺旋を描いて踊りながら着物の裾を翻す。寺院の脇には家族連れがお弁当を広げてピクニックをし、広場では男の子たちが弓に興じている。矢が数百メートル飛んで的に的中すると、ハイソックスの脚を振り上げてダンスしながら奇声をあげている。その日も晴れ渡ったブータンの空は、どこまでも青かった。 

飯田裕子
写真家。1960年東京に生まれ、日本大学芸術学部写真学科に在学中より三木淳氏に師事。沖縄や南太平洋の島々、中国未開放地区の少数民族など、国内外の“ローカル”な土地の風景や人物、文化を多く被写体とし、旅とドキュメンタリーをテーマに雑誌、PR誌で撮影・執筆に携わる。現在は千葉県南房総をベースに各地を旅する日々。公式サイト

 

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