「ミラー ハリス」の創業者で、注目のフレグランスブランド「パフューマー H」の代表でもある調香師のリン・ハリス。その香りのアイデア源となる“ネイチャーハンティング”の朝の散歩に同行し、フレグランスづくりのプロセスを追った

BY AIMEE FARRELL, PHOTOGRAPHS BY JAMIE STOKERS, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

「私はテーマをすべて寄せ集めてひとつにするのが好きなの」とハリス。その脇では、元気いっぱいのボーダーテリア、愛犬のポップが白い花の咲くバッカリスの茂みを探索している。「これが私の制作プロセスの始まり。どの季節も好きだけれど、春はなんと言っても特別な季節ね。ブルーベルが咲き始め、ラッパスイセンが終わりかける。風が吹き、花が散る。どうすればこれを匂いに移し替え、封じ込められるのか、いつも考えているんです」。アトリエに戻ると、彼女は手に入れた草や花を並べ、香りの構想を練りはじめる。天然の精油や化学的成分をバランスよく使って、香りを調合し、再現するのだ。

画像: ハリスの草花コレクションがしまってあるチェスト。中に入っているのは、ポルトガルへの旅で見つけたユーカリや松、NYのハドソンバレーで見つけたブルーシダー、フランス西岸に浮かぶ島イル・ド・レへの旅で集めたイモーテルの花、ノース・ヨークシャーにあるボルトン修道院のコケなど

ハリスの草花コレクションがしまってあるチェスト。中に入っているのは、ポルトガルへの旅で見つけたユーカリや松、NYのハドソンバレーで見つけたブルーシダー、フランス西岸に浮かぶ島イル・ド・レへの旅で集めたイモーテルの花、ノース・ヨークシャーにあるボルトン修道院のコケなど

画像: パフューマー Hのフレグランスは昔のアポセカリー風に、色つきのガラスボトルに入っている。この吹きガラスのボトルはロンドンのガラス作家、マイケル・ルーの工房によるもの

パフューマー Hのフレグランスは昔のアポセカリー風に、色つきのガラスボトルに入っている。この吹きガラスのボトルはロンドンのガラス作家、マイケル・ルーの工房によるもの

 パフューマー Hは、半年に一度、5種類の季節の香りを発表している(現在約35種類を展開中で、セミオーダーサービスもある)。伝統的なフレグランスの系統に沿った、シトラス、フローラル、ウッディ、フゼア(シダ)、オリエンタルの5種類だ。どれもかぐわしい天然香料を用いたか、あるいは自然をテーマにした香調で、たとえばいかにも英国的な最新ラインナップのひとつは、スイートピーをテーマにしたフレグランスだ。イギリスの夏を象徴する花から名前をとったこの香りのほか、「レイン・ウッド」、「ミスト」などの香りがある。

画像: 香りを思い描くのは、ハリスにとって瞑想的な体験だ。「考えがうまくまとまるときには、たったの5分でも多くのことができる。そしてその後の数時間は、何もせずにただアートブックを眺めて過ごしたりするの。こうしてアイデアの種を蒔いているんです」 ほかの写真をみる

香りを思い描くのは、ハリスにとって瞑想的な体験だ。「考えがうまくまとまるときには、たったの5分でも多くのことができる。そしてその後の数時間は、何もせずにただアートブックを眺めて過ごしたりするの。こうしてアイデアの種を蒔いているんです」
ほかの写真をみる

 この日の収穫は、どこかから落ちた豆のサヤと、樹皮のかけら、ヤマニンジンの白い花、タンポポなどだった。これら採集品は、ハリスが夏に向けてつくり出そうとしている香りの出発点となるに違いない。そして彼女は、人目につかない公園の裏手の片隅で、ついに探していたものを見つけた。「ライラックだわ!」

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