スペイン、バスク地方の天才料理人、エネコ・アチャ・アスルメンディが主演するドキュメンタリー映画が公開中だ。「すきやばし次郎」の主人、小野二郎さんを訪ねる旅を追った映画について、そして自らの料理について聞いた

BY MIKA KITAMURA

 彼の店「アスルメンディ」はビルバオ空港から車で20分ほど。林やぶどう畑を見下ろす丘の上に建ち、ダイニングの南側はすべてガラス張り。そこで楽しめるのは、バスクの食材をふんだんに使ったガストロノミーの世界だ。エネコシェフが味、テクスチャー、色彩の完成度を高めながら、ひと皿ひと皿作り上げている。一方、「すきやばし次郎」は東京のど真ん中、銀座の地下にある。今年93歳の小野二郎は毎日、基本に忠実に鮨を握り続けている。

画像: 世界中の料理人たちの尊崇を集める小野二郎さん。「すきやばし次郎」は2007年に三ツ星を獲得、以来、現在まで三ツ星を保持しつづけている

世界中の料理人たちの尊崇を集める小野二郎さん。「すきやばし次郎」は2007年に三ツ星を獲得、以来、現在まで三ツ星を保持しつづけている

 三ツ星最年長の小野と、スペインで三ツ星を最年少で獲得したエネコ・アチャ。巨大都市・東京と、森や山に抱かれるスペイン・バスク。あまりに対照的なふたりだが、共通しているのは「食べてくれる人を幸せにしたい」という気持ちだ。

「私は食べることが好きなんです。美味しいものを食べたい、食べさせたい。その気持ちが嵩じて料理人になりました。二郎さんからもその気持ちが強く伝わってきました。初めてお会いしたときのことは興奮し過ぎてよく覚えていないのですが(笑)、鮨を握る手の動き、その優美さがとても印象に残っています。最も感銘を受けた鮨はカツオ。わらで炙ったカツオと酢飯が口の中で完璧に調和して……本当に感動しました」

画像: エネコ・アチャが「一番忘れられない味」と感嘆した、「すきやばし次郎」のカツオ PHOTOGRAPHS: © COPYRIGHT FESTIMANIA PICTURES NASA PRODUCCIONES, ALL RIGHTS RESERVED.

エネコ・アチャが「一番忘れられない味」と感嘆した、「すきやばし次郎」のカツオ
PHOTOGRAPHS: © COPYRIGHT FESTIMANIA PICTURES NASA PRODUCCIONES, ALL RIGHTS RESERVED.

 映画『世界が愛した料理人』には、すきやばし次郎ほか、エネコシェフが訪ねた銀座の会員制日本料理店「壬生」や、『サン・パウ』のカルメ・ルスカイェーダ、先日急逝したジョエル・ロブションなど、世界の美食を牽引する料理人たちが登場。彼らが語る料理哲学の先に、エネコシェフが追い求める”理想の食”が見えてくる。

 昨年9月、「アスルメンディ」の東京店「エネコ東京」がオープンした。スペイン本店の味を日本の素材で表現した料理や、東京店のために作られたものなど、彼のエッセンスが存分に伝わってくるメニュー構成だ。また、スペインの店で実践している"エネコシステム"と自ら呼ぶ「持続可能な循環システム」も、可能な限り広げていきたいと語る。

「アスルメンディ」では、料理に使うハーブや花をレストラン内で育て、生ゴミはコンポストにして近隣の農家へ。これまでに、絶滅寸前の野菜の種、400種類あまりを復活させたという。店内の室温調整には地熱を利用。食材は納入業者がおのおの納品するのではなく、レストラン独自の配送センターに集められて1日1回トラックで運ぶことで、CO2の排出を削減している。さらには、病院食のための簡単でおいしいレシピを紹介した書籍を出版し、売り上げをユニセフや子どもの肥満防止協会へ寄付したりも。

画像: 穏やかな口調でゆっくりと言葉を選びながら話すエネコシェフ。少しシャイな笑顔が真摯な人柄を映し出す PHOTOGRAPH BY YASUYUKI TAKAGI

穏やかな口調でゆっくりと言葉を選びながら話すエネコシェフ。少しシャイな笑顔が真摯な人柄を映し出す
PHOTOGRAPH BY YASUYUKI TAKAGI

 エネコ・アチャにとって、「料理とは人を幸せにすること」なのだ。ひと皿ひと皿の料理に、必ずストーリーがあると彼は言う。バスクと日本を結ぶ料理で、これからまた新しいストーリーが紡ぎ出されていくにちがいない。

『世界が愛した料理人』
YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開中
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