急速な進化を遂げ、私たちの日常に溶け込み始めたAIやロボット。その開発者や研究者が思い描く、人とロボットがともに在る未来とは?

BY NORIO TAKAGI, PHOTOGRAPH BY YASUYUKI TAKAGI, ILLUSTRATION BY QUICK OBAKE, EDITED BY MICHINO OGURA

AIとロボットの倫理と法を考察しながら、科学技術で平和を築く

 開催中の「きみとロボット」展では、汎用人型重機「零式人機(れいしきじんき) ver.1.2」の操縦体験にいつも列ができている。その指先を握る紳士は開発者ではなく、同展の総合監修を務めた浅田稔である。日本ロボット学会前会長にして、国際的ロボット競技大会ロボカップの創設者のひとり。浅田が思い描く、右のイラストにもあるような“人とロボットが共生する近未来”は、会場に展示されるロボットや義肢、デジタルクローンなどを見ると夢物語ではないように思える。

「工学系の研究・開発者の多くは、利便性や機能を高めることに労力を使います。そしてロボットに人と同じ能力を求めるようになる。それを実現するためには、現状ではまだまだ技術が足りていません。たとえばセンサーも、人の視覚や聴覚に匹敵するまでには至っていない。一方で、ここ10年でAIは、長足の進歩を遂げています。深層学習やデータサイエンスも含め、かなりの膨大なデータを集めて解析する、ある種の自動化技術が発達し続けている。それはロボット以外のさまざまな分野で使われています。また音声認識、音声合成が実用化されたことで、AI技術の有用性はより高まりました」

画像: 浅田 稔 1953年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同大学工学部教授などを経て、1997年に同大学大学院工学研究科教授に就任。現・同大学特任教授。認知発達ロボティクスを推進し、国際的ロボット競技大会ロボカップを共同で創設。2019年に日本ロボット学会会長就任(任期は2020年度まで)。2021年4月からは国際工科専門職大学の副学長も兼任する

浅田 稔
1953年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。同大学工学部教授などを経て、1997年に同大学大学院工学研究科教授に就任。現・同大学特任教授。認知発達ロボティクスを推進し、国際的ロボット競技大会ロボカップを共同で創設。2019年に日本ロボット学会会長就任(任期は2020年度まで)。2021年4月からは国際工科専門職大学の副学長も兼任する

 AIは家電に使われ、人の暮らしに溶け込んでいる。音声認識、音声合成も、日常のあちらこちらにある。それらと同じように、ロボットが当たり前のように人と共生するために研究が進められ、浅田が「今、ホットな分野」というのが、ソフトロボティクスである。

「今は硬い素材のロボットが多いですが、人と共生するにはぶつかっても害を与えない柔らかい素材であるほうがいい。またアクチュエーター(動作をつかさどる機械装置)は、今は電気モーターとギアの組み合わせが主流ですが、これは制御しやすいけれど動物のようなダラ~んと弛緩した動きができない。それに代わるゴムや空気圧を使ったアクチュエーターの開発も進んでいて、これだと人に似た柔らかな動きをロボットができるようになり、より親密になれる」

 ロボットに用いられる技術は多岐にわたり、それらは専門家にとってはまだまだ進化の途中にあるのは事実であろう。しかし素人目には、驚くほどの速度で発達していると感じる。そしてロボットの進化に伴い、議論の俎上にたびたび上がるのが、倫理の問題である。

「ロボットに限らず、科学技術の進展には利便性と同時にリスクもあります。それでも人は、多くの科学技術を使いこなしてきた。そして若い研究者には、人工物は利便性、機能性だけを求めて設計してはダメだと、設計したものが世に出たときに、それが社会に対してどんな影響を与えるのかまで考えるべきだと、常々伝えています」

 設計者に倫理観を求める浅田は、ロボット自体にも倫理観をもたせられないかと、痛みを感じるロボットの研究を進めている。「痛みが不快であることをロボットが知れば、自分がやられたくないことは他人もやられたくないという、モラルが生まれる。また人との共感も高まります。ただ痛みにはさまざまな状況が関わっているので、それをロボットに埋め込むのは、非常に難しい。データサイエンスで集約できるのだろうか? 僕にとって大きなチャレンジです」

画像: ロボットアームやロボット脚でレジャーを楽しむ人、見守りロボットと外出する高齢者、アバターで世界中の仲間と会話を楽しむ人。緑の中、人とロボットが共生する近未来の日常風景

ロボットアームやロボット脚でレジャーを楽しむ人、見守りロボットと外出する高齢者、アバターで世界中の仲間と会話を楽しむ人。緑の中、人とロボットが共生する近未来の日常風景

 ロボットに、特に人工知能に倫理を求めるのであれば、それに伴う法整備は不可欠である。浅田は「科学技術の進化に、法整備は全然追いついていない」と嘆くだけでなく、京都大学法学部の教授らとともに、人工知能に関する法律の研究にも取り組む。

「たとえば自動運転で事故が起きた場合、ドライバーが悪いとなると誰も買わなくなる。メーカーが責任をもつとしたら開発を萎縮させる。もしかしたら、自動運転車自体に責任の一端があるかもしれない。では人工物に事故の責任を問う場合、どういう形になるのか? まず事故の原因を徹底的に解明することを大前提とし、保険などでカバーすることで、メーカーが開発を萎縮せず、ドライバーが大きな責任を負わない状況をつくり出す。こうした技術の進展に適応した法整備ができないかと議論を続け、働きかけをしています」

 倫理や法整備までを含め、人とロボットとの共生社会のあり方は、「みんなで一緒に考える必要がある」と、浅田は語る。「ドラえもんに象徴されるように、日本には“ロボットは家族”という感覚が根づいています。日本人がもつ、ロボットと人の親和性の高さを世界に広げていきたい」と言う。そして「戦争が現実となっている今、人と人とが共生できていない。ロボットやアバターが介在することで、国境を超えて人と人とをつなげ、思いやりのある社会を構築できないか?と願い続けてきました。小学生から高校生が参加するロボカップジュニアの出場者たちは将来、研究者になるかもしれないし、政治家になるかもしれない。ロボット開発という原体験を共有する彼らの活躍に期待します」

特別展『きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?』
国内展覧会史上最大規模となる約90種130点のロボットが大集結。ロボットを通じて「人間とは何か?」を考える。一部のロボットとは実際に触れ合ったり、操縦体験もできる。
会期:~ 8月31日(水)
会場:日本科学未来館 
住所:東京都江東区青海2-3-6
開館時間:10:00~17:00 (入場は閉館の30分前まで)
休館日:火曜(7月26日~8月30日は開館)
入場料:大人(19歳以上)¥2,100、中人(18歳~小学生)¥1,400、小人(小学生未満~3歳)¥1,400
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

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