BY YUMIKO TAKAYAMA, PHOTOGRAPHS BY BUNGO KIMURA
本誌10月25日号掲載の特集「おいしいひと皿から世界が変わる。」で取材をしたフランス料理「レフェルヴェソンス」のシェフ 生江史伸さんが手がけるブーランジェリー「ブリコラージュ ブレッド アンド カンパニー」。この店のお皿の上を彩るのはすべて、生江シェフが敬愛してやまない生産者たちが、天塩にかけてつくった食材だ。その“おいしいひと皿”をつくる6人の生産者の声を、全6回にわたりお届けする。
第一回は愛媛・佐田岬で、オーガニックのピュアな甘さの「ハチミツ」をつくる養蜂家を紹介。
四国の最も西に位置し、愛媛県伊方町にある日本一細長い半島、佐田岬半島。北の瀬戸内海と南の宇和海を隔てる半島の先端にある海岸に立つと、九州佐賀関を確認することができる。長生(ちょうせい)博行はそんな伊方町出身の柑橘農家兼養蜂家だ。過疎化が進み、耕作放棄地が増え続けているこの地域で、持続可能な農業形態を考え、自然栽培で柑橘の木々を育てるかたわら、オーガニック養蜂を6年前からスタートした。
目にも楽しいカラフルな養蜂箱からは何百匹ものミツバチがせわしなく出たり入ったり。ミツバチが集めるのは春は柑橘類や原生林の山桜、夏は山椒、秋はハマセンダンの蜜。長生の無添加非加熱のハチミツは四季によって味わいも香りも異なることに驚かされる。「ミツバチの味覚は人間とほぼ一緒だと言われています。人間がおいしいと思うものが、彼らにとってもおいしい。だから、そのとき一番おいしい花の蜜にミツバチは集まるんです」と長生はほほえむ。
オーガニックのハチミツを求めるならば、養蜂箱を設置する場所の条件として、まずオーガニックの蜜源である樹木や植物の植栽状況が整っていることが必要だ。残念ながら、世界中で今ミツバチの異常行動が見られるが、その原因のひとつが蜜源となる植物に散布された農薬ではないかといわれている。同じく重要なのが、近くにきれいな水場があること。養蜂に川や泉などに近いロケーションを選ぶのは、水はミツバチが生きるために不可欠なものだからだ。ミツバチは巣内を一定の温度、35度前後に保つためにさまざまな取り組みをする。
ミツバチは、夏は水場から水を運び入れ、羽で外からの風を送って巣を冷却し、冬には体を寄せ合って温度を保つ。巣箱のなかは、まさに高性能のエアコンを完備した状態だ。個々のミツバチにはそれぞれ個性があり、蜜を集めるのが好きな群れ、子育てが得意な群れ、巣作りが得意な群れなどをつくるという。