BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
ここ数年、“ニュー・カリフォルニアワイン”の進化が目覚ましい。従来のカリフォルニアワインの果実味豊かで重厚なスタイルとはまたひと味違う、新しい世代のつくり手による、テロワールを生かした繊細なワインが世界的に注目を浴びている。
この新潮流の中、独創的な個性で多くのソムリエやワイン・ファンに熱狂的に支持されているのが「クルーズ・ワイン・カンパニー」と「ウルトラマリン」、ふたつのブランドを持つマイケル・クルーズ氏だ。
「クルーズ・ワイン・カンパニー」では、ヴァルディギエ(ナパ・ガメイ)などのマイナーなブドウ品種を復活させてエレガントなワインを生み出し、「ウルトラマリン」ではシャンパーニュのレコルタン・マニピュラン(自家栽培小規模生産者)の哲学に基づき、単一畑、単一収穫年のブドウからスタイリッシュな味わいのスパークリングワインをつくっている。ニューヨークやサンフランシスコの最先端のレストランから引く手あまたで、入手困難なことから”幻のワイン”とも評される。
「今まで誰もやらなかったことをやってみたかったんだ。現在のカリフォルニアではほとんど使われなくなってしまったけれど、ヴァルディギエは元来、果実味がチャーミングな品種。これを生かしておいしいワインをつくりたいと思った。スパークリングワインも、今までのカリフォルニアにはないスタイルにしたかった」とクルーズ氏。
だが、運転資金も少ない若い生産者が、リリースまで3年はかかるスパークリングワインを手がけたり、マイナーなブドウ品種を復活させたりするのは、想像以上の時間と労力がかかるはず。躊躇することはなかったのだろうか?「ワインづくりのテクニックが自分にあるなら、それを極めてみたいと思ってる。それに、簡単なことをやって一番でいるより、難しいことをやって二番でいるほうに満足感を感じるんだ。そのほうが、いつも上を見ていられるからね(笑)」
じつは彼は、当初から醸造家を目指していたわけではなかった。大学での専攻は生化学。化学者になるべくラボで研究に明け暮れていた。だが、ある時期から発酵学に興味を持ち、さらに担当教授が個人的にワインをつくっていたことから、ワインづくりに魅力を感じはじめたという。その後、ナパ・ヴァレーのワイナリーで実践的に醸造を学び、2013年に自身のワイナリーを立ち上げた。「つくりたいのは、ワインの知識がなくてもおいしいと思える、親しみやすいワイン。自分の母が『おいしい』と言ってくれるワインが理想です」と満面の笑顔を見せる。
今、”ニュー・カリフォルニアワインの旗手”として、ワインのプロやメディアから注目を浴びる彼だが、その笑顔の中に気負いはまったく感じられない。今回、2回目の来日を果たし、彼が発した言葉が印象的だった。「自分がカリフォルニアで一生懸命つくったワインが、こうして海を越え、日本で楽しんでもらえている。それだけですごいことだと思うし、その光景を目の当たりにすることができて、今、本当にハッピーなんだ」
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