“日本ワインと和食のマリアージュ”の中でも、いまだトライする機会が多くはないのが天ぷら。甲州ワインと天ぷらのジャストな相性を「シャトー・メルシャン」チーフ・ワインメーカーの安蔵(あんぞう)光弘氏が教えてくれた
BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY EDDY OOMURA
“日本ワインと和食のマリア―ジュ”は、もはや定番。たとえば、お造りと甲州、すき焼きとマスカット・ベーリーAなど、日常の料理と日本古来のブドウ品種をカジュアルに楽しむ人も増えてきた。だが、天ぷらに関しては、スパークリングワインやシャブリを合わせるのがまだまだ一般的。「天ぷらの油を切ってくれるのは爽やか系の泡か、ミネラル豊かなシャブリ」が定説で、天ぷら専門店においてもシャブリ人気は依然として高い。
「じつは、天ぷらには甲州がピタッとはまるんです」と言うのは、シャトー・メルシャン チーフ・ワインメーカーの安蔵光弘氏だ。甲州の繊細な酸味が油をすっと切り、豊かなミネラル感が旬の食材のおいしさを引き立ててくれるという。加えて、フローラルながらも控えめな香りは食事の邪魔をせず、マリアージュに華やかさを与えてくれる。
そんな安蔵氏の招きで訪れたのは、京都・祇園にある老舗「天ぷら 八坂圓堂」。旬の素材のおいしさを生かした軽やかな味わいの天ぷらが人気の店だ。最初に合わせたのはイクラをのせた先付「柚子豆腐」に彩り豊かな前菜と、「シャトー・メルシャン 日本のあわ トラディショナル・メソッド トリロジー 2014」。シャルドネ、ピノ・ノワール、甲州の3セパ―ジュを用い、瓶内二次発酵のあと澱(おり)と一緒に3年熟成させてから澱抜きをした、味わい深いスパークリングワインだ。甲州由来の和の要素をもち、澱からのうまみとキリッとした酸味が、イクラと前菜の「合鴨ロース山椒煮」の山椒の香りをやさしく包む。
だが、続く天ぷらのコースで実力を発揮したのはなんといっても「シャトー・メルシャン 岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ2017」だろう。スダチのような和柑橘の香りとキリッとした酸が特徴的で、これがどの天ぷらにも合い、それぞれの甘みを際立たせている。
甲州がなぜこんなにも天ぷらに合うのか。安蔵氏は、こう教えてくれた。「甲州は、ブドウが熟しても糖度があまり上がらない品種。アルコール度数もほかの品種に比べて高くなく、10.5%から11%といったところでしょうか。香りも甘みも突出してはいませんが、その分、酸が繊細でエレガントな果実味のあるワインに仕上がります。天ぷらは、素材そのものを大切にした料理ですから、甲州のデリケートなニュアンスがよく合うのだと思います」
安蔵氏によれば、フランスワインがソースを大切にするフランス料理に合うのと同じように、素材を大切にする和食には、繊細な甲州が自然な形でマッチするのだという。かつてはフランスワインをお手本としていた甲州だが、近年では甲州本来の繊細さと穏やかな香りを表現した、ナチュラルな味わいの“甲州でしか表現できないタイプ”のワインが主流となっている。まずは、天ぷらと合わせて楽しんでみれば、知っているようで知らなかった新鮮なマリアージュに驚かされるに違いない。
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