BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
「『ゾエミ』は、私たちの祖母の名前です。祖母が若かった頃は、フランスではちょうど女性解放運動の時代。新しい時代が来たと、祖母は希望に胸を膨らませていたそうです。だから、“現代を美しく生きる女性のためのシャンパーニュを”という願いを込めて、メゾン名を『ゾエミ・ド・スーザ』としました」
そう笑顔で話すのは、姉のシャルロット・ド・スーザ。醸造責任者として、ナチュラルでエレガントな味わいのシャンパーニュを生み出している。「ネックにあるイラストの女性も祖母がモデル。ベル・エポックの時代のヘアスタイルがおしゃれでしょう?」と続けるのは、おもに栽培を担当する妹のジュリー・ド・スーザだ。ふたりともまだ20代。幼い頃からブドウ畑を遊び場に育った。

(左)姉のシャルロット・ド・スーザ。輸出最高責任者兼栽培醸造顧問。ワイン業界におけるマーケティング&マネージメントの最高資格“OIV”マスター修士課程修了。
(右)妹のジュリー・ド・スーザ。栽培・渉外担当。ディジョン大学大学院で醸造と栽培の国家資格を取得。ブルゴーニュ「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」、ボルドー「シャトー・シュヴァル・ブラン」などで研鑽を積む
「ゾエミ・ド・スーザ」は、2004年に“シャルドネの聖地”といわれるコート・デ・ブランに創設されたメゾン。ビオディナミの名手として世界的に名高い「ド・スーザ」の2代目で、彼女たちの父であるエリック・ド・スーザが「ゆくゆくは娘たちのために」と新しく立ち上げたブランドだ。幼い頃からシャンパーニュづくりに強い興味を示していた娘たちの才能を見抜き、「姉妹の感性を生かせるように」と用意したメゾンだった。設立当初こそ、姉妹は父のもとで“修行”を積んでいたが、今では独立し、力を合わせて「ド・スーザ」とはまたひと味違うフェミニンなスタイルを表現している。

メゾンはコート・デ・ブラン地区アヴィーズ村に位置。 “グラン・クリュ”の村、アヴィーズのシャルドネはミネラル豊かで酸味もシャープ

父のエリック・ド・スーザ(左)。「ド・スーザ」の2代目で、いち早くビオディナミを実践したレコルタン・マニピュラン(自家栽培小規模生産者)として名高い。「ゾエミ・ド・スーザ」創設者
シャルロットとジュリーのすごさは、父が与えてくれたチャンスをしっかり受け止めながらも、彼女たち独自のスタイルを確立し、世界の名だたる醸造家たちと同じ土俵で肩を並べていることだろう。特に、ビオディナミへの取り組み方には人一倍の情熱を傾けている。
本拠地アヴィーズ村の“グラン・クリュのシャルドネ”という利を生かしながら、化学物質をいっさい使わず、カモミールや西洋タンポポなどで作った独自の調合材で栽培を行っている。また、土中の微生物を活発化させるために頻繁に畑を耕すなど、細やかな作業を怠らない。畑の土を踏み固めず、やわらかく保てるよう鍬入れには馬を用いている。「ビオディナミはなにより土が大事。ブドウが気持ちよく育つ環境を整えたいの」とジュリーは語る。

自社畑はすべてビオディナミ。白亜質の土壌のもつミネラル分をしっかり吸収するため、馬で畑を耕す鍬入れを年に6回行っている
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ZOEMIE DE SOUSA
「ジュリーは本当に勉強熱心。ここ2年のあいだ、ニュージーランドやチリ、カナダなど世界のワイン産地で研鑽を積んできました。これからは、二人で腰を据えてシャンパーニュづくりに取り掛かれるのがうれしい」とシャルロット。「私がいないあいだは、姉が頑張ってくれていたから(笑)。父が『そろそろ戻ってきなさい』と言うので……」とジュリーが笑う。
「じつは、日本の『ココ・ファーム・ワイナリー』でも研修を受けたの。日本で働いたことは、素晴らしい経験でした。ワインづくりはもちろん、日本人の気配りや仕事の緻密さに感銘を受けました。また、味覚の繊細さも日本人ならではものと感じました。ゾエミ・ド・スーザには『UMAMI』というキュヴェがありますが、日本料理の“旨味”に感銘を受けた父エリックが、その繊細さにインスパイアされてつくったものです」。たしかに、『UMAMI』には石灰質土壌で育つシャルドネの厚みのあるミネラルが感じられ、日本料理の“旨味”と共通する。

(左から)「ゾエミ・ド・スーザ ブリュット メルヴェイユ」<750ml>¥7,100
シャルドネ50%、ピノ・ノワール40%、ムニエ10%。ドザージュ6~7g。グレープフルーツやアカシアの香り。優しく、フェミニンな印象。アペリティフやチーズなどに
「ゾエミ・ド・スーザ ブリュット デジラプル グラン・クリュ ブラン・ド・ブラン」<750ml>¥12,000
シャルドネ100%。ドザージュ5gアヴィーズ、オジェ、メニル・シュル・オジェなど、グラン・クリュの村のヴィエイユ・ヴィーニュのみ(樹齢50年)を使用。芳醇でコクのある味わい。甲殻類と好相性
「ゾエミ・ド・スーザ キュヴェ ウマミ」<750ml> ¥25,000
シャルドネ70%、ピノ・ノワール30%。ドザージュ3~4g。豊かなミネラルとほのかな塩気。ブリオッシュやスパイスの香りと深みのある味わい
シャンパーニュづくりに熱意をもって取り組む姉妹に、プライベートについて聞くと、シャルロットからこんな答えが返ってきた。「ジュリーが16歳で栽培学校に進学してから、話すのはシャンパーニュづくりのことがいちばん多かったわ(笑)。ふたりとも父をとても尊敬しているから、『早くパパに認めてもらえるようにならなきゃね』といつも励まし合っていたの」。「そう、いつか父に褒めてもらえるようなシャンパーニュを造りたいわ」とジュリー。
「“恋バナ”は?」と聞くと、シャルロットが「私はパートナーがいるから、いつもジュリーの聞き役よ」とにっこり。こんな親密なやりとりからも、互いへの信頼がうかがえる。おそらくはそれこそが、“姉妹のシャンパーニュ”を輝かせている秘密なのだろう。
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三国ワイン
TEL. 03(5542)3939
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