BY ALEXANDER FURY, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
RICK OWENS(リック・オウエンス)
バレンシアガが屋外でショーを行い自然への回帰を果たしたのだとしたら、リック・オウエンスは自身のブランドのショーで歴史的建造物へと至った。ショーは今までどおり1937年建設のパレ・ド・トーキョーで行われたが、いつもと違うのは、建物の中でショーをするのではなく、その外側にランウェイをつくってしまったこと。組み上げられた足場が天空に高くそびえた金属製のランウェイを支え、モデルたちはそこから、われわれ生身の人間である観客の方へと降臨してきた。
「私はこの建物がすごく好きなんです」と、ショー終了後にバックステージで語ったリック。いつもどおり彼自身の言葉で書かれたショーノートには、この建物を「アール・デコ様式のワーグナー愛好家の神殿」と表現していた。足場で建物の表面を覆いつくしたのは、「この建物の実地調査のようなもの」なのだそう。「私は以前から、この建物のあらゆる部分に触れてみたいと思っていたのです」
リックは今回のコレクションを「汚れ」と呼んだ。2017-'18年秋冬シーズンの「輝き」と対をなすタイトルだが、これはただの対比ではなく、自然素材を用いるランド・アートへの彼の傾倒を反映したものだ。
そのランド・アートのテーマに沿ってか、ビニールの防水シートのように見えるトップスがたくさんあった。不規則なドレープを描き、引っ張り出された部分からは素肌が透けて、まるで彫刻作品のようにも、それ自体が建築物であるようにも見えた。リックはこのショーのためにたくさんのオリジナル生地を開発。その中には、メタルのラメ糸を編み込んだ、「リックのリュクスなビニールシート」とでも呼べそうな生地も。
コレクションの中心を占めたのは、リックが得意とするスポーツウェア。ポケットは、象徴的な意味でも文字通りの意味でも、とにかく大きく。「サンドウィッチが持ち運べるくらい大きいのがいい。これは僕の個人的なこだわりのひとつだね」とデザイナー。
多くのアイテムは意外性のある生地でできており、特にフェミニンな雰囲気の生地が目立った。例えばダッチェスサテンやクロッケ織、そして写真のガザル織など。これは1958年にクリストバル・バレンシアガの依頼でスイスの生地会社アブラハム社が開発した厚手の高級衣料用生地だ。透け感のあるウールと生絹のガザル織は、リックのために特別に織られたもの。こういった生地についてリックは「センシュアルな生地だとは思わない。硬くてフォーマルで、じつに記念碑的だ」と語る。
写真はリック オウエンスのバックステージで服を脱ぐモデル。ねじりの加えられたビニールシート風トップスを脱いでいるところ。
今回のコレクションで、リックはスーツジャケットにフォーカスを当てた。「グラマラスなキング・オブ・グランジスタイル」として名高い彼にしては意外な選択だ。彼はジャケットのことを「敬意を表すためのユニフォーム」と表現した。「われわれはもっと礼儀正しくなった方がいいと思う」とデザイナーは言う。「もっと謙虚になった方がいい」と。さて、彼は服の話をしているのだろうか、それとも世間一般の話?
リック・オウエンスは現代のファッション界でもっとも独創的なデザイナーのひとりと評されている。その評価は、ウィメンズウェアだけでなく、つねに革新的なメンズウェアにも及んでいる。写真は、ショーのフィナーレで、モニュメントのような足場に立ち挨拶をするリック。