輪島塗の塗師である赤木明登、銀座のフランス料理店「ESqUISSE(エスキス)」のエグゼクティブ・シェフであるリオネル・ベカ、輪島「ラトリエ ドゥ・ノト」の池端隼也、七尾「ヴィラ・デラ・パーチェ」の平田明珠。3日間限定で、彼らがひとつのコースを生み出した能登でのイベントをレポート

BY JUNKO ASAKA

 圧巻は、続くリオネルシェフの原木椎茸「のと115」を使った前菜。豚の耳の煮汁でゆっくり戻した地元特産のシイタケは驚くほど肉厚かつジューシーで、まさに山のアワビ。リオネルシェフも「今回いちばん驚いたのはこの椎茸です。今後エスキスでも使うことになると思う」と絶賛する。そら豆、こりこりとした豚耳のフリカッセ、あさりの出汁で温めた宇出津港のツブ貝、能登島のワカメなど、多彩な食感に仕立てたあしらいのひとつひとつが心憎く、深い赤色の天廣皿を背景に、まるで日本画のようにしっとりと目に映える。

画像: すべての料理に、「エスキス」総支配人・ソムリエの若林英司さんがアルコール、ノンアルコールの飲みものをペアリング。リオネルシェフの原木椎茸「のと115」を使った「詩的な錬金術」に合わせたのは、ハイディワイナリーの「ルーテージ ブラン・ブレンド 2017」。香りを抑えすっきりとした白ワインが椎茸や豚耳のうまみを引き立てる

すべての料理に、「エスキス」総支配人・ソムリエの若林英司さんがアルコール、ノンアルコールの飲みものをペアリング。リオネルシェフの原木椎茸「のと115」を使った「詩的な錬金術」に合わせたのは、ハイディワイナリーの「ルーテージ ブラン・ブレンド 2017」。香りを抑えすっきりとした白ワインが椎茸や豚耳のうまみを引き立てる

 赤木さんによれば、今回の企画の趣旨は大きく2つあったという。ひとつは、料亭文化が失われたことによって近年低迷している能登の地場産業、輪島塗の復活だ。1990年頃のピーク時に比べると、輪島塗の生産量は10分の1程度まで落ち込んでいる。だが、「日本にはイタリアンやフレンチなどのレストランが3万軒近くある。そこに漆文化を根づかせることで、改めて漆を世界に発信することができるのでは」というのだ。

 確かに今回、多彩な表情を見せる漆塗りの器に、どの料理もことのほかしっとりと美しく映えていた。漆は初めて使ったというリオネルシェフにとっても、今までにない刺激になったようだ。「フランスは石の文化ですから、漆はなかなか手ごわかった。でも、素晴らしい経験でした。赤木さんの器との出会いは、自分の感覚を変えてくれるきっかけになった」と語る。

画像: 池端シェフによる魚介の前菜「ふたつの世界のあいだ」。はまぐりのだしでゆっくり火を通した大根、宇出津のイカソテー、肝で炒めた宇出津のアワビ、NOTO高農園の白菜ピューレなどの上に、大根の煮汁に柚子を香らせたエスプーマを乗せて PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ESQUISSE

池端シェフによる魚介の前菜「ふたつの世界のあいだ」。はまぐりのだしでゆっくり火を通した大根、宇出津のイカソテー、肝で炒めた宇出津のアワビ、NOTO高農園の白菜ピューレなどの上に、大根の煮汁に柚子を香らせたエスプーマを乗せて
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF ESQUISSE

 テーマの2つめは、“食の町”能登の魅力を世界に発信することだ。赤木さんは言う。「能登の魅力は、といえば、伝統や豊かな自然、いい食材。たしかにそうですが、それだけでは人は動かせない。リオネルのような世界最先端のセンスと技、深い哲学的な思想と出会うことで、初めて人を惹きつけ、世界に発信できるものが生まれるのだと思います」。かねて能登の“ローカル・ガストロノミー”を牽引してきた池端シェフも「スターシェフを間近に見て素晴らしいと実感した。今回のイベントの意義は大きい」と振り返る。能登の風土と人に惹かれ、東京から3年前に移住してきた平田シェフは、「この3日間で自分自身が大きく成長できた。これをまた自分の料理や地元に還元していきたい」と目を輝かせた。

 近年、レクサスが日本のトップシェフを地方に招いて開催する「ダイニング・アウト」などのフード・イベントが増え、東京のシェフたちもこぞって日本各地の生産地に自ら足を運んで“土地の味”を皿にとりいれている。だが今回のイベントは、そうした地方回帰の流れの中でも、世界的シェフと「地方の食や文化を担う人々」ががっつり四つに組んだコラボレーションである点で、また違った力強さを放っていたように思う。

画像: 3日間を終えて最後の挨拶で。「能登でたくさんのことを学びました。これが最後になってしまうのが悲しい。1週間ぐらいやりたかった(笑)」とリオネルシェフ PHOTOGRAPH BY JUNKO ASAKA

3日間を終えて最後の挨拶で。「能登でたくさんのことを学びました。これが最後になってしまうのが悲しい。1週間ぐらいやりたかった(笑)」とリオネルシェフ
PHOTOGRAPH BY JUNKO ASAKA

「能登の魅力のひとつは、ここが半島であるところ。いろんな方向から海風が吹いてくるという特殊な気候です。生活するには決して楽な土地ではないと思うけれど、だからこそ、能登に生きている人たちは非常に芯がしっかりしていて、それが顔に表れていて魅力的です」とリオネルシェフは語っていた。そんな土地に根差し、能登で働き生活する人たちと「エスキス」との出会いは、日本の食という豊かな大地から、またひとつ美しい花を咲かせるのかもしれない。

 

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