京都生まれの京都育ちの食いしん坊、京都でおいしいものに出合いたければ、この人に聞けばハズレなし!と、長きにわたり業界の人々が厚い信頼を寄せる、アマジュンこと天野準子さん。今昔とりまぜ、京都ならではの絶品満腹口福アドレスを教えてもらいます。

TEXT & PHOTOGRAPHS BY JUNKO AMANO

御所南「末廣」の蒸し寿司

画像: カニ身や穴子がのった豪華版、「末廣」の蒸し寿司・上¥2,310(11/1~3/31)

カニ身や穴子がのった豪華版、「末廣」の蒸し寿司・上¥2,310(11/1~3/31)

 京都人が冬になると食べたくなるものと言えば「蒸し寿司」。棒寿司や巻き寿司を出す京寿司の名店では冬になると登場するメニューで、200年の歴史を持つ「末廣」でも毎年11月から3月まで提供されている。

 蒸し寿司を知らない遠方からの客人に「ちらし寿司を蒸したもの」と簡単に説明すると、たいていの人が「熱々の酢飯っておいしいの?」と、実際食べるまではおっかなびっくりだったりだ。

 末廣の酢飯はもともと酢がきつくなく、甘みもある優しい味わいが特徴。さらに一晩冷蔵庫で寝かせることで、酢の角が取れ、温かくしても、ツンと鼻を差すような刺激はなく、むしろまろやかな香りに食欲がそそられる。

 テーブルに運ばれた丼の蓋を開けると、湯気がふわりと立ち上り、錦糸玉子の上には、海老や生麩、桜でんぶなど、色とりどりの具材がのっていて、箸を入れると、錦糸玉子の下からは刻んだ焼き穴子と酢飯が現れる。酢飯自体にも、干瓢としいたけを甘辛く炊いたものやイカのそぼろ、キクラゲが混ざっていて、それだけでいただいてもおいしく、錦糸玉子や焼き穴子、トッピングされた具材と一緒に食べると、一口ごとに違った味のコンビネーションが生まれる。

画像: 冬は注文の半分以上が蒸し寿司という人気ぶり

冬は注文の半分以上が蒸し寿司という人気ぶり

画像: イートインは6席のみ。何十年と変わっていないノスタルジックな雰囲気がたまらない

イートインは6席のみ。何十年と変わっていないノスタルジックな雰囲気がたまらない

 蒸し寿司がいつどこで生まれたかは諸説あり、「末廣」でも100年以上前から出していることはわかっているが、厳密にいつから出しているかは不明だそう。「ハレの日にご家庭でようけちらし寿司を作って、次の日に残ったちらし寿司を寒い日やったから、温めて食べたらおいしくて、それが広まったとも言われています」と、8代目当主、柴田十起夫さん。

画像: 蒸し寿司は電子レンジ対応の容器に入った持ち帰り用もあり。¥2,052

蒸し寿司は電子レンジ対応の容器に入った持ち帰り用もあり。¥2,052

 この冬は、食材や物をムダにせず、有効利用する京都人の“始末の心”から生まれた「蒸し寿司」で、京都の底冷えで冷えた体を温めてはいかが。

画像: 鯖寿司や箱寿司など、持ち帰り注文も多く、新幹線で帰路につく前に立ち寄る旅行者も増えているそう

鯖寿司や箱寿司など、持ち帰り注文も多く、新幹線で帰路につく前に立ち寄る旅行者も増えているそう

画像: 京都御苑のほど近く、骨董店が建ち並ぶ寺町通に天保年間創業

京都御苑のほど近く、骨董店が建ち並ぶ寺町通に天保年間創業

末廣
住所:京都府京都市中京区寺町通二条上ル要法寺前町711
営業時間:11:00~18:00(イートインはL.O.15:00)
定休日:月・火曜
TEL. 075(231)1353
公式サイトはこちら

五条富小路「アロウネノ」のうね乃弁当

画像: ふたを開けると、だし巻き玉子が1本まるごと現れる。「うね乃弁当」¥1,620

ふたを開けると、だし巻き玉子が1本まるごと現れる。「うね乃弁当」¥1,620

「うね乃」は創業以来120年、添加物を一切使わず、昆布や鰹節といった上質な天然だし一筋の老舗である。販売されている惣菜やお弁当もすべて無添加だ。さらに、商品すべてに天然の旨みが詰まっただしが惜しみなく使用されている。

画像: すべての商品に天然だしを使用。だしの老舗だからなせる技

すべての商品に天然だしを使用。だしの老舗だからなせる技

 おひたしや煮炊きものなど、京都の家庭で昔から食べられているおばんざいもあれば、洋食惣菜もラインアップ。メンチカツやポテトコロッケ、ハンバーグにもだしが使われていて、旨みの底上げがされている。

画像: だし巻き玉子はもちろんのこと、海苔の下に隠れているおばんざい、ごはんにまでもだしが効いた「うね乃弁当」

だし巻き玉子はもちろんのこと、海苔の下に隠れているおばんざい、ごはんにまでもだしが効いた「うね乃弁当」

 多彩な商品のなかでもお勧めは「うね乃弁当」。海苔弁当の上に、形を保つことができる限界ギリギリまでだしを加えただし巻き玉子が1本まるごとのっていて、ビジュアルもかなりのインパクト。海苔をめくると、だしを浸してから昆布をからめて揚げた鶏の唐揚げやさばそぼろ、おひたし、きんぴらごぼうが現れ、さらにごはんまでだしで炊いてあり、だしづくし。
 時間が経つとだし巻きからだしがジワリと溢れ出し、具材や海苔がごはんに馴染んでからいただくのもおいしい。
 新幹線に乗る前に立ち寄り、駅弁がわりに購入するのがおすすめ。店のほど近くには桜並木が美しい鴨川もあり、春にはお花見のお供にも。京都が誇るだし文化を気軽に味わってみてください。

画像: 手軽なだしパックや便利なだし調味料など、自社製品が並ぶコーナーも。

手軽なだしパックや便利なだし調味料など、自社製品が並ぶコーナーも。

画像: イートインコーナーもあり。ワインや日本酒も楽しむことができる。

イートインコーナーもあり。ワインや日本酒も楽しむことができる。

画像: 五条通に面したガラス張りのショップ。京都駅までは車で約5分ほど

五条通に面したガラス張りのショップ。京都駅までは車で約5分ほど

アロウネノ(ALLOUNENO)
住所:京都市下京区本塩竈町557メゾンドール五条1F 
営業時間:11:00~20:00
定休日:火曜
TEL. 075(354)1600
公式インスタグラムはこちら

御所南「ととよし」

画像: ¥13,000のコースは水物を含む10品前後。炭火で焼いた香ばしさと柚子の香りが鼻をくすぐる、カマスの柚庵焼

¥13,000のコースは水物を含む10品前後。炭火で焼いた香ばしさと柚子の香りが鼻をくすぐる、カマスの柚庵焼

 三条新町のバー「酒陶 柳野」の新展開となる「ととよし」。「バーが開いた和食店!?」と驚かれるかもしれないが、「酒陶 柳野」は奥の厨房に料理人が控えているバーである。カウンターには酒瓶ひとつなく、土壁には花一輪が掛けられた、まるで茶室のようなミニマルな空間ながら、「きずし(鯖の酢〆)が食べたい」、「今日のお勧めの天ぷらを」などと言うと、奥から運ばれてくる。さらに予約すればコース料理をいただくことも。「ととよし」は、「酒陶 柳野」で10年以上勤めた料理人、杉井雄大さんが店長を務めている。

画像: カウンター6席のみのプライベート空間。町家を改装し「酒陶 柳野」同様、京都の割烹や飲食店を手掛ける木島徹さんによる設計

カウンター6席のみのプライベート空間。町家を改装し「酒陶 柳野」同様、京都の割烹や飲食店を手掛ける木島徹さんによる設計

“和食”と一口に言っても、雅やかな懐石料理もあれば、イノベーティブ系日本料理もあり幅広いが、「ととよし」は毎年その時期が来たら京都で食べたくなる旬の料理と食材を大切にした正統派和食店だ。

画像: ¥13,000のコースは水物を含む10品前後。蕪をすりおろし、卵白と合わせ、中にぐじ(甘鯛)を忍ばせて蒸し上げた京都の冬のご馳走、かぶら蒸し

¥13,000のコースは水物を含む10品前後。蕪をすりおろし、卵白と合わせ、中にぐじ(甘鯛)を忍ばせて蒸し上げた京都の冬のご馳走、かぶら蒸し

「冬になったらかぶら蒸し、夏が来たら鱧が食べたなるでしょ。奇をてらわず、旬の食材をシンプルな調理法で、素材のおいしさを伝えていきたいです」と、杉井さん。

画像: 杉井さんの実家の鮮魚店「魚よし」の屋号にあやかり、店名は「ととよし」に

杉井さんの実家の鮮魚店「魚よし」の屋号にあやかり、店名は「ととよし」に

 さくっと軽い色白の衣をまとった天ぷらや、絶妙な火入れの魚や肉の炭火焼きなど、コースでは、派手さはないがしみじみおいしい料理を小ポーションで品数多く提供。

 杉井さんの実家は錦市場の鮮魚店「魚よし」であり、淡路島や明石など瀬戸内で採れたお造りも自慢だ。〆にはおにぎりと味噌汁が登場。ふっくら柔らかめに炊かれたごはんでふんわりにぎられていて、心とおなかをほっこりと満たしてくれる。本店のバーは、ナチュラルワインを得意としていて、こちらでも食事のお供に楽しむことができる。

画像: ふっくら柔らかく握られ、米の甘みを感じるおにぎり

ふっくら柔らかく握られ、米の甘みを感じるおにぎり

 地元の大人たちが、気負わず、ちょこちょこおいしものを食べたい夜に訪れる一軒。京都旅をした際の和食の選択肢に加えてみてはいかがだろうか。

画像: 34歳の料理人、杉井雄大さん。料理は1人で切り盛り。現在はコースのみだが、今後はアラカルトも提供予定

34歳の料理人、杉井雄大さん。料理は1人で切り盛り。現在はコースのみだが、今後はアラカルトも提供予定

ととよし
住所:京都市中京区竹屋町通寺町西入ル甘露町666
営業時間:17:00~22:00
定休日:水曜、他不定休あり
TEL.075(741)6434

烏丸「YOLOs(ヨロズ)」

画像: 「YOLOs」は”You Only Live Once”を略した言葉。「人生は一度きり。食事は1日3回きり。だったら愉しみましょう」という想いが込められている

「YOLOs」は”You Only Live Once”を略した言葉。「人生は一度きり。食事は1日3回きり。だったら愉しみましょう」という想いが込められている

 2022年7月にオープンした食のセレクトショップ「YOLOs」。実はこちらは、小説家の原田マハさんが発起人となり、5人の食いしん坊仲間によって開かれた店だ。

画像: 街中に位置し、阪急・烏丸駅、地下鉄・四条駅から徒歩5分と、帰路につく前に立ち寄りやすい

街中に位置し、阪急・烏丸駅、地下鉄・四条駅から徒歩5分と、帰路につく前に立ち寄りやすい

 コロナ禍で外出がままならなくなった時、家族と囲む食卓やひとりで嗜むワイン、ちょっとご褒美なスイーツなど、「世界を元気にするのはうまいものなんだ」と実感したことが店をオープンするきっかけになったそう。
 扱う商品はすべて、ストーリーがある、人に贈った時や食卓を囲んだ際に会話が生まれるものに。

画像: 全国の有名レストランから支持される岡山「吉田牧場」のチーズは、カチョカバロやコンテタイプなど、数種類用意。ラクレット1カット約¥1,300

全国の有名レストランから支持される岡山「吉田牧場」のチーズは、カチョカバロやコンテタイプなど、数種類用意。ラクレット1カット約¥1,300

 小売りはほぼしていない岡山「吉田牧場」のチーズや、滋賀県でバラ作りに取り組む「WABARAローズファームケイジ」の和ばらの花びら茶など、日本各地の生産者と直接話し、ほかでは手に入りにくい菓子や加工品、酒、お茶をセレクト。

画像: 「食堂おがわ」の柚子胡椒。辛いだけでなく、柚子の風味がしっかり楽しめる澄んだ味わい柚子胡椒¥1,200

「食堂おがわ」の柚子胡椒。辛いだけでなく、柚子の風味がしっかり楽しめる澄んだ味わい柚子胡椒¥1,200

 京都屈指の予約が取れない店「食堂おがわ」の柚子胡椒をはじめ、レアな京都土産も見つかる。なかでも、日本料理「木山」がYOLOsのために作るソフトクッキーは週1回、金曜のみ数量限定で入荷する逸品だ。

画像: 毎週金曜に入荷する日本料理「木山」製ソフトクッキー「香ノ実寄せ」¥2,160

毎週金曜に入荷する日本料理「木山」製ソフトクッキー「香ノ実寄せ」¥2,160

 元々、「木山」のコースの最後に薄茶と共に出されていた菓子で、オレンジピールや松の実、さらには山椒入りで、和のアクセントが効いている。

画像: 原田マハさん著「風のマジム」(講談社刊)と作品に登場するラム酒のモデルになった「CORCOR アグリコール」¥720ml¥4,505

原田マハさん著「風のマジム」(講談社刊)と作品に登場するラム酒のモデルになった「CORCOR
アグリコール」¥720ml¥4,505

 原田マハさんの著作物を含め、食にまつわる本も取り扱っている。マハさんの小説と共に小説に登場した沖縄・南大東島のラム酒を購入することもできる。

 商品点数は決して多くない、少数精鋭の品ぞろえだが、大切な人に贈ったり、口福に浸れる自分用土産に見つかるはずだ。

YOLOs(よろず)
住所:京都市中京区蛸薬師通烏丸西入ル橋弁慶町228 101号
営業時間:11:00~19:00
定休日:月曜、他不定休あり
TEL.075(252)5900
公式サイトはこちら

西陣「焼き菓子工房コレット」のタルトタタン

画像: この日のタルトタタンは、紅玉、スミスサイダー、アニーエリザベス、ピンクレディー、グラニースミス、春紅玉の全6品種。1台に800g(5〜6個分)のリンゴを使ったタルトタタン各¥600

この日のタルトタタンは、紅玉、スミスサイダー、アニーエリザベス、ピンクレディー、グラニースミス、春紅玉の全6品種。1台に800g(5〜6個分)のリンゴを使ったタルトタタン各¥600

「京都でわざわざタルトタタン?」と思われるかも知れないが、「焼き菓子工房コレット」は多い時で6種類のタルトタタンが並ぶ、全国的にも珍しい品種違いのタルトタタンを持ち帰って、食べ比べができる。

画像: リンゴのタルト。この日はアップルパイもグラニースミスと紅玉の2品種。各¥600

リンゴのタルト。この日はアップルパイもグラニースミスと紅玉の2品種。各¥600

「焼き菓子工房コレット」は、オープンして13年。焼き込むことでフルーツの旨みをギュッと凝縮したタルトをはじめ、クッキーやバナナブレッドが並ぶ、焼き菓子専門店だ。菓子はすべて店主の三井素子さんがひとりで作っているため、週末2日間のみ営業している。
 三井さんはパティシエになる前はフレンチレストランに勤めていたこともあり、菓子作りも、料理人らしい素材を生かすことをモットーにしている。しっかり焼き込んだ粉の風味を感じるタルトや、フルールドセルで塩気を効かせたワインに合う塩サブレなど、ただ甘くおいしいだけでなく、キャラや味の輪郭がキリッと際立っている

画像: ビターなキャラメルとナッツ、ドライフルーツを用いた「秋のタルト」¥600。"秋"と名付けられているが通年販売されている

ビターなキャラメルとナッツ、ドライフルーツを用いた「秋のタルト」¥600。"秋"と名付けられているが通年販売されている

 リンゴをキャラメリゼしてからタルト型に入れて焼くタルトタタンもあるが、こちらでは、リンゴの持ち味を生かすため、フランスの伝統的な製法に則り、生の状態でバターと砂糖を敷いたタルト型に入れて焼かれる。途中、パートプリゼをのせてさらに焼き込まれる。その後、リンゴと生地をなじませるため寝かせ、完成までに半日以上を要する。タルトタタンは、甘ったるさが一切なく、品種ごとの味の違いも明確に。食感も、甘露煮のようにトロトロにしていず、ゴロッとしたリンゴの食感が残っている。「同じ品種でも農家さんや時期によって味や食感が変わるんですが、今日のタルトタタンで言うと、春紅玉は身が固めで味が濃く、グラニースミスは口に入れるととろける食感、ピンクレディーは弾ける酸味と華やかな香りが楽しめます」。

 タルトタタンはリンゴが出てくる8月末から作り始められ、ストックがなくなる5月頃まで作られる。晩秋から冬にかけては20品種を使い分け、多い時で6品種が店頭に並ぶ。
 ひとりで2個、3個食べ比べることもあるが(甘さが控えめでペロリといける)、家族が集まった時は、お行儀悪いけど、大皿にのせて、みんなでフォークでつつき合って感想を言い合うのも楽しい。

 ホールは、数量限定で取り寄せ可能なので、京都旅の予定がない方もタルトタタン好きはぜひ。

画像: タルトタタン・ホール¥4,200(箱代込み) COURTESY OF COLETTE

タルトタタン・ホール¥4,200(箱代込み)
COURTESY OF COLETTE

画像: 西陣織で知られる織物の街、西陣エリアに店を構える。地下鉄今出川駅から徒歩22分。京都市営バス乾隆校前から徒歩4分

西陣織で知られる織物の街、西陣エリアに店を構える。地下鉄今出川駅から徒歩22分。京都市営バス乾隆校前から徒歩4分

焼き菓子工房コレット
住所:京都府京都市上京区新猪熊東町350 グランドムール西陣103
営業時間:土日13:00~17:00(売り切れ次第終了)
定休日:月~金
TEL.075(406)1284
ig@colette_kyoto

画像: 天野準子 生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント

天野準子
生まれてこの方、碁盤の目と呼ばれる京都の街中暮らし。雑誌やWEBで京都にまつわるライティングやコーディネートを行っている。プライベートでは、強靱な胃袋を武器に日々、おいしいものをハント

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